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第17話 夜

 和やかな食事の後は、いよいよケーキだ。

 テーブルの上を片付けて、食器は食洗機に放り込んでスイッチを入れる。

 その後の片づけがないように、紙皿と紙コップを用意して、俺はケーキが入った箱を運ぶ。

 それと包丁を用意して、ケーキの箱をあけた。中に入っていたのはチョコレートのケーキだった。

 ちゃんとチョコレートのプレートがのっかっていて、想真の名前が書いてある。


「もう俺、二十三歳なんだけどなぁ」


 と言い、想真が笑う。


「誕生日っぽくていいじゃん。あ、キャンドルあるよ」


 言いながら俺は、ケーキの箱に張り付けられた細長いキャンドルを剥がした。


「そこまではいいよ。ほら、切って食べよう」


「わかった」


 ちょっとろうそく、つけたかったけど。まあしょうがないか。

 ケーキは、直径十五センチくらいだろうか。ふたりで食べるにはちょうどいい大きさだ。


「毎年用意してもらってんの?」


「うん、甘いのは好きだからね。いつも二日で食べてる」


 甘いのは俺も好きだから気持ちはわかるけど、食べすぎじゃねえかなそれは。

 そう思いつつ俺は、ケーキの上のチョコプレートを外して六等分に切る。

 包丁をケーキの下に挿し込み、ゆっくりとお皿の上に運んだ。すると案の定倒れてしまう。

 だよね。これは俺が食おう。

 もう一個はなんとか綺麗にのせられたからそこにチョコレートのプレートをのせ、それにプラスティックのスプーンを添えて、想真に渡した。


「はい、想真」


「ありがとう」


 想真は紙皿を受け取ると、いただきます、と言い、スプーンを手にした。

 俺もそれを見てスプーンを手に取る。

 ケーキおいしい。


「これ、どこのケーキなんだ?」


「えーと、ちょっと郊外にあるケーキ屋さん、『プティーヌ』ってお店」


「へえ、初めて聞いた」


「そこのケーキ好きで、たまにアルトさんに買って来てもらうんだ」


 そうなんだ。プティーヌね。覚えておこう。


「あとクリスマスのケーキも毎年予約してるんだけど、いつも迷うんだよね」


 そういえばさっき、アルトさんが俺にケーキのリスト送るみたいなこと言っていたっけ。

 クリスマスのケーキかぁ。

 そんなん実家はなれてから食ってねえや。

 さすがにホールケーキなんてデカすぎて喰いきれねえし。


「人と食べるケーキもおいしいね。これ食べたらお酒飲んで生配信でもしようかな。俐月、見てくれる?」


 微笑み言われ、俺は何度も頷き答えた。


「もちろん見るって。でも何すんの?」


「そうだなぁ。短いゲームしようかな」


 そう言って、想真はケーキをぺろり、とたいらげた。

 そのあとソファーに移動してならんで座り酒を飲む。俺はビールで想真はレモンの缶チューハイだ。


「あー、お酒飲むのって久しぶりだなぁ。あの日以来かも」


 そう言って、想真はお酒をぐい、と飲む。


「あの日って?」


「俐月を拾った日。あの日、酒飲んだあと寝る相手と会うはずだったんだけどバッくれられちゃったんだよね」


 笑いながら言い、想真は酒を飲む。

 ん? 寝る相手? どういう意味?

 寝るって少なくともふたつ意味あるよな。そのまんまの意味と、もうひとつ。どっちだ……どっちなんだ?

 それって聞いていいやつ? それとも……?

 悩んでいると、想真が俺の肩に手を回してきて、俺の耳に顔を近づけてきて言った。


「あれ、何考えてるの?」


「ちょ、おま、近いって」


 言いながら俺は身をよじる。

 でも本気で抵抗しているわけじゃないから想真は離れていかない。


「えーと……寝るって、どういう意味かなってその……」


「何、興味あるの?」


「ちょ、そんな色っぽい声出すなよ。からかうなってば」


 恥ずかしさを紛らわすためにちょっと不機嫌な声で言いつつ俺はビールをあおる。


「あはは。面白いね、俐月」


 そして想真は離れていき缶チューハイを飲んだ。


「寝るってそのまんまの意味だよ。ほら俺、不眠症でさ、誰かと一緒じゃないと眠れなくて。それでアプリでいつも寝る相手捜していたから」


 そういえば前に言っていたっけ。不眠症で誰かと一緒じゃないと眠れないって。でもそれってセンシティブな話だと思って詳しくは聞かないでいた。

 想真、夜、うなされることあるけどなんか関係あんのかな。


「不眠症って、いつから?」


「んー、いつからだろう。けっこう昔からかな。人と一緒だと眠れることに気が付いて、でも女の人だと面倒だから基本男ばっか捜して一緒に寝てたんだよね。寝るだけだから相手はちょっと不満そうなときあったけど」


 なんで不満なのか突っ込んでいい話なのか、それ。

 いや、やめよう。俺は正直、その手の話は苦手だから。


「そ、そうなんだ」


「今は俐月がいるからしてないよ、そういうこと」


 でしょうね。泊まりの仕事でもないかぎりちゃんと帰ってきてるし。


「お前彼女とかいないの?」


「いないよ」


「モテそうなのに」


「連絡先教えないしね。面倒じゃん、マスコミに追われるの。言い寄られることはよくあるけど、全部逃げてる」


「そ、そ、そうなんだ」


 言い寄られるって何されんだろう……

 想像なんてできるわけがなく、俺はとりあえずビールを飲んでその場をやりすごした。


「今は俐月がいるからいいよ。付き合うなんて面倒だし」


 と言い、想真は俺にもたれかかってくる。


「いや、だから近いっての」


「えー? 毎日一緒に寝てるのに」


「それとこれは別問題だっての。もう九時半過ぎてるけど配信、いつやんだよ?」


「あぁうーん、十時過ぎ。さっき告知しちゃったから準備しようかなぁ」


 そして想真は俺から離れると、チューハイの缶を片手に立ち上がり、俺の方を向く。


「俐月のお陰で久しぶりに誕生日が楽しいものになったよ、ありがとう。見てね、配信」


 そう、天使のような笑みを浮かべる想真になぜかドキリ、として俺は、思わず目をそらしてビールを飲みつつ頷いた。

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