セレナーデからの帰り道、スマホに想真からのメッセージが届く。
そろそろ帰る。
それだけが書かれたメッセージを見て俺は、足早にマンションへと向かった。
帰って料理、温めないと。
白い息を吐き、俺はマンションへとたどり着きそして、急いで中へと入った。
部屋に入り手を洗い、買ってきたものを冷蔵庫にしまって用意していた料理を温める。
その間にサラダを盛り付けて、ローストビーフをのせて。
あんまり気の利いたことなんてできないけれど、こんなんでいいかな。
ご飯は炊けているし、コンソメスープは鍋の中でふつふつとしている。連絡があって帰ってくるまでだいたい三十分。っていうことはもう少しだ。
もりつけたサラダをテーブルに置き、取り皿を用意していると、廊下を歩く音がわずかに聞こえてきた。
「ただいま、俐月」
「おかえり、想真」
答えて俺は、鍋の火を止めて皿に煮込みハンバーグを盛り付ける。
「俐月さん」
「はい、何でしょう」
呼ばれて俺は、キッチンから顔を出す。
アルトさんがこちらに近づいてきて、スマホ片手に言った。
「あとでご相談があるのですが、連絡先、お教えいただいてもいいですか?」
「え、あ、いいですけど……相談?」
いったいなんだろう。そう思いつつ俺はスマホを取り出す。
「あぁ、大したことではないですよ。クリスマスのケーキのことで。毎年注文しているのですが、どれがいいか想真と決めてほしいんです」
「あぁ、そうなんですね。いいですよ、えーと……どこだっけ」
人と連絡先を交換するのが久しぶり過ぎて、メッセージアプリの自分の連絡先を出すところがいまいちわらかない。
悩みつなんとかQRコードを出してアルトさんに見せた。
「はい、これです」
「ありがとうございます。じゃあ後で画像を送りますから想真と考えておいてください」
アルトさんはスマホを操作しながら言い、俺に背を向ける。するとスマホにメッセージの通知が来た。
アルトさんが俺に「よろしく」のスタンプを送ってきていて、俺もそれにスタンプで返す。
「じゃあな、想真」
「はーい、また明日」
そう答える想真の無邪気な声が響きそして、足音が遠のいていく。あ、アルトさん帰っちゃうんだ。
ちょっと残念。でもアルトさんの分の料理は用意してなかったからどうしようもないか……
俺は鍋の前に戻り煮込みハンバーグのお皿を盛り付けて、食卓へと運んだ。
「うわぁ、それハンバーグ?」
目を輝かせた想真が、俺がもつお盆を覗き込んでくる。
「うん。まあ、ハンバーグは焼くだけのやつだけど」
はにかみつつ言うと、想真は嬉しそうに声を上げた。
「ありがとう、想真。あと何あるの?」
「あとベーコンとたまねぎ、キャベツのコンソメスープと、サラダとローストビーフ。あ、あとお酒用意してるけどお前ってお酒飲む?」
「何でも飲むよ」
笑顔でそう答える想真をみて俺は内心ほっとする。よかった、お酒買ってきて。
「でもケーキあるから、お酒はケーキ食べた後に飲みたいな」
「じゃあそうしようか」
「俺、ケーキ冷蔵庫にしまってくる」
そして想真は箱を持ってキッチンの方へと消えていく。
あ、そうだ。冷蔵庫。チョコレート渡さないと。
そう思い俺は慌てて冷蔵庫へと向かった。
すると、ちょうど想真が冷蔵庫を開けているところだった。
「あ、想真」
「え、何?」
ケーキが入った箱を持ったままの状態で固まった想真は俺の方を見て言った。
「ちょっと渡したいもの、あって」
言いながら俺は冷蔵庫に近づきそして、紙袋を取り出す。
「渡したいもの?」
不思議そうな想真の声を聞きつつ俺は彼の方を向いて言った。
「大したもの買えねえし、何がいいのかもよくわかんないけど、これ。お前に」
言いながら俺は、想真に高級チョコレートが入った紙袋を差し出す。
すると彼は、目を見開いて俺の顔と紙袋を交互に見た。
「これ、俺に?」
そう言っている間に、冷蔵庫が早く閉めろとびーびー、音を鳴らせ始める。
すると想真はケーキの箱を冷蔵庫に入れて慌てて扉を閉めると、改めて俺の方を見た。
「そうだよ、お前に買ってきた。誕生日おめでとう」
言いながら、ちょっと恥ずかしさを感じてくる。
こんなことしたの、学生以来じゃないだろうか。いや、中学生とか高校生ぶり?
そんなことを思っていると、紙袋を受け取った想真が俺の首に抱き着いてきた。
「ありがとう、俐月」
耳元で囁くように言うの、辞めてくれませんか? 恥ずかしさにしにそうなんだけど?
俺は顔中が紅くなるのを感じつつ、小さく頷き言った。
「う、あ、わ、わかったからほら、メシくおうぜ」
「うん、そうだね。早く食べてケーキ食べてお酒飲んで一緒に寝よ」
そう言いながら想真は俺から離れていった。
食べている間、想真は幸せそうだった。
「おいしいね」
と言われると俺も嬉しくなってくる。
「なあ想真。俺、バイト決まったんだ」
「そうなの? よかったね。この間言っていたお店?」
「うん。来週から行ってくる」
「そっか。じゃあアプリに登録しておいてね、俐月の予定」
「あぁ、わかってるって」
あとでやっておこう。っていってもまだ、来週の予定しか決まってねえんだよな。
「働いてお金入ったらちゃんとなんか買いたいなーって思ってるんだけど、想真ってなにか欲しいものある?」
「欲しい、もの?」
想真は食べる手を止めて首を傾げた。
「そうそう、ほら、クリスマスあるじゃん? まあ、そのころはまだ俺、給料入ってないと思うけど、あとでもよければ何か渡したいなって思って」
生活費貰って面倒見てもらってばっかりなの、さすがに悪いから何かしたいんだけど、俺にはどうしたらいいのか全然分かんない。
「俐月、ご飯作ってくれるし家事をしてくれるし、一緒に寝てくれるでしょ。それで俺は充分だけど」
「そうかもしれねえけどさ、それって俺がここで暮らしていくための対価だろ? そうじゃなくってほら、想真になにかあげたくって」
想真が好きなものは甘いものとゲーム。それ以外は何にもわかんない。
でも何かしたい、っていうのは思うんだ。
「じゃあ俐月の身体が欲しいな」
笑い交じりにいい、想真はご飯を箸ですくった。
「何言ってるんだよ、お前。家事だったらもうやってんだからさー」
俺も笑いながら答え、ハンバーグを食べた。
おいしい。われながらおいしい。
肉、奮発してよかった。
「あはは、そうだね。うーん、クリスマスかぁ。考えておくよ」
「あんまぎりぎりに言われても買えねえから早めに言えよ」
そう俺が言うと、想真は微笑み頷いた。