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第6話 慣れない料理

 ワッフルとカフェオレを楽しんだ俺は、立ち上がり伝票を持ってレジへと向かう。


「ありがとうございました。お会計、千百五十円でございます」


 言われて俺は、財布からお金を出す。あ、ぴったりあった。


「またお越しください」


 そう微笑むマスターに俺は、


「ごちそうさまでした」


 と、笑顔で声をかけ、背を向けようとした。

 その時レジ横の壁に、求人広告が貼ってあるのが目に付いた。

 スタッフ募集。時給千三百円。週三回程度、土日、どちらか入れる人、時間は応相談。夜は時給千四百円。

 求人、出してるんだなぁ。時給的には悪くない。

 そんなことを思いつつ俺はカフェを後にした。

 歩いて五分ほどでマンションに着き、俺は車に乗り込む。黒いワゴンタイプの軽自動車だ。

 スーパーに向い、今日の夕食に使えそうなものを買いこむ。

 とりあえず、温めるだけのハンバーグをかごに入れる。あとポテトサラダを入れて。スープくらいは作れるかな。あ、じゃがいもと玉ねぎとにんじんのカット野菜のセットが売ってる。これ買ってホワイトシチューつくるか。ってことは肉なんか買わないとな。俺はホワイトシチュー素の裏側を見て、鶏のもも肉をカゴに放り込んだ。

 食費は、想真から金を渡されている。とりあえず十万渡されたもののそんなに使うわけがなく、半分以上は部屋に置いてきている。

 いくら価格が高騰しているからって、一カ月で十万は使わないだろう。せいぜい五万ってところじゃないか。食費の他、雑費含めて、だけど。

 それとチョコレートを中心にお菓子を買う。俺もあいつも甘党なんだよな。

 だからチョコレートだけは切らさないように言われていた。

 大き目のエコバッグに買ったものを詰め込み、俺はスーパーを後にする。

 時間は午後一時。家に帰って遅めのお昼食おう。




 マンションに帰り、俺は買ってきたおにぎりを二個食べて、部屋の掃除と洗濯物を取り込んで畳む。

 テレビで流すのは少し前のドラマだ。

 時間だけはあるから、せっかくだし想真が出ていたドラマや映画を中心に見ていた。

 これは去年やっていたドラマらしい。この頃の俺は確か卒論やってたよなぁ。

 そんなことを思いつつ、俺はぼんやりとドラマを見つつ洗濯物を畳んだ。

 ドラマはいわゆる恋愛もので、想真はヒロインの友人で、ヒロインに惚れている役柄だ。

 普段恋愛ものなんて見ないからなんか変な感じ。

 うわ、想真が女の子抱きしめてる。なんだろう、見ていて恥ずかしくなってくるんだけど?

 それでも俺は目を離さずドラマを見終え、洗濯物を片付けた。

 そしてひと休みした後、夕食の支度をする。

 想真の予定は俺のスマホのカレンダーと同期されていて、今日は何時まで仕事の予定なのかわかるようになっている。

 まあ、ずれることが多いけど。

 夕食って何時に食べるもんなんだろう。

 それに合わせて用意するのがいいんだろうけどいかんせん、料理慣れしていないから俺は四時半から用意を始めた。

 えーと、ハンバーグが温めるだけでいいからおいといて。

 シチューつくろう。

 玉ねぎに人参。じゃがいもはポテトサラダ買ったからいれなくていいや。それに鶏肉を食べやすい大きさに切るんだよな。

 シチューのパッケージの裏を見ながら食材を切り、鍋に油をしいて玉ねぎを炒める。

 俺がしているエプロンは、小学生の時に作った某黄色いネズミのキャラのエプロンだ。ちょっと恥ずかしいけどこれしか持ってないから開き直ってこれをずっと使っている。


「えーと、玉ねぎってどれくらい炒めればいいんだっけ? しんなりって、みてりゃわかるかな」


 そう思いつつ俺は木べらで玉ねぎを炒め続けた。

 うーん、なんかだいぶ柔らかくなってきたっぽいから次、鶏肉投入。それを炒めて赤くなくなればいいんだよな。

 パッケージとにらめっこしつつ、人参と水を投入するところまでたどり着き、木べらをお玉に持ちかえる。そんなことをしているうちに、スマホがぶるぶると震えた。

 お玉を置いてスマホを確認すると、相手は想真だった。

 六時前には帰って来るらしい。

 じゃあ、それくらいを目標に飯、用意したらいいんだよな。あ、ご飯といでねえや。

 俺は慌ててお米を研ぎ、炊飯器をセットした。

 そしてぐつぐつと煮える鍋の火力を調節し、アクをとりかき混ぜる。

 えーと、人参が柔らかくなればいいんだよな確か。

 悪戦苦闘しつつ、何とかシチューを完成させて、一度鍋の火を止めて、いや、IHだから火じゃないけど。

 とりあえず止めて、俺は違う鍋を用意してレトルトのハンバーグを温める。あと、カット野菜と、冷凍庫の唐揚げを温めるか。

 ばたばたとやっているうちに六時を迎え、廊下から足音が響く。


「ただいま」


「お帰りー」


 俺は、想真の姿を確認した後、シチューの鍋を温めようとスイッチをいれた。そして冷凍の唐揚げを温めて、お皿にハンバーグを出す。あと、キャベツとポテトサラダを添えて。

 おぉ、すっげー夕飯ぽい。

 心の中で感心しつつ、レンジから唐揚げのお皿をだす。そしてそれを盛り付けて。


「へぇ、すごいねー、俐月」


 嬉しそうに言いながら、想真がキッチンに入ってくる。

 褒められて嫌な気はしない。

 俺は照れつつ答えた。


「惣菜ばっかだけど。あとホワイトシチューもあるぜ」


 言いながら俺は食器棚から白い器を出して、温めたシチューをよそう。


「惣菜でもなんでも、俐月が用意してくれた料理、嬉しいよ」


 そう笑って言われると恥ずかしいんだけど。

 そう思いつつ俺はシチューをよそってお茶碗にご飯をよそった。

 それらを順番にお盆で食卓に運び、皿を並べる。

 すげー、俺、夕飯作りきった。

 湯気を上げる料理を見て満足した俺は、冷蔵庫から麦茶をだし、それをコップに注ぐ。

 ふたり向かい合って座り、


「いただきます」


 と、手を合わせて箸を手にした。

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