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第4話 朝食

 ここに引っ越してから二週間ほどが過ぎた、十月の終わりの金曜日。

 なんとかここでの生活に慣れてきて、生活パターンもできてきた。

 想真は朝の七時前には起きる。

 だから俺もそれより前に起きて朝食を作るようにしていた。

 といってもそんな手の込んだものは作れないから目玉焼きとソーセージ、それにサラダとカップスープだ。

 あとロールパンを用意すれば立派な朝食の出来上がりだ。

 こんなメシ、ひとり暮らしの時は喰ってなかったなぁ。っていうかまともにメシ、喰ってなかったし。

 大学の時以来じゃねえかな。

 食卓にならんだ食事を見て、想真は目を輝かせて言った。


「今日も超朝食って感じ。ありがとう、俐月」


「礼なんて言われたら恥ずかしいだろうが」


 言いながら俺はコーヒーを淹れた。

 カプセルをマシンにセットして飲むタイプの物で色んな味がある。コーヒーの他ココアもあるし抹茶オレなんかもある。

 想真はカフェオレで俺は毎日違うものを選んで飲んでいた。昨日はココアを飲んだから今日はモカコーヒーを選ぶ。


「お前さ、カフェオレばっか飲むのになんでこんなたくさんカプセル買ってんの?」


 俺は想真のコーヒーを用意しながら尋ねる。


「たまに飲みたくなるんだよねー。だから色々用意してあるんだ」


 言いながら想真はテレビをつけてワイドショーを流す。

 ちょうどニュースの時間で、世界情勢の話とか事件の話をやっている。


「気分で飲み物変えるの楽しいじゃん? 何飲んでもいいから、減れば追加で適当に買うしね」


 俺はカフェオレが入ったマグカップを想真に差し出す。

 すると彼は、


「ありがとう」


 と言って、それを受け取った。

 色んな飲み物を楽しめるってのはわかるかも。

 俺、こんな機械もってなかったから新鮮で色々飲んでるし。


「俺、今夜はゲームの生配信するんだ。だから今日、帰り早い」


「生配信?」


 そんなことまでやってんのかこいつ。

 そう思いつつ俺はコーヒーが入ったカップを手に持ち椅子に腰かけた。


「うん。たまにやってるんだよ。最近流行りの間違い探し系のゲーム。明日は午後から仕事だからさー。夜九時から配信予定なんだ」


「へぇ、そんなことやってんだ」


 どうしよう、見ようかな。


「今日は雑誌の取材だけだからすぐ帰るよ。明日はドラマの撮影。だから今日は夕食食べる」


 あ、そうか。そういうことになるのか。

 想真は基本帰りが遅いから、家で夕食を食べることは殆どないって言っていた。

 でも殆どないだけであって、まったくないわけじゃないらしい。今までは夕食に帰って来たことなかったけど、今回初めて夕食の心配をしないといけなくなった。

 夕食……どうしよう。

 そこまで料理、できるわけじゃねえしなぁ、俺。

 考え込んでいると想真の笑い声が聞こえてきた。


「そんなに悩まなくっても大丈夫だよ。惣菜とかで全然いいし。ただ誰かが用意してくれたご飯、っていうのが嬉しいから」


 惣菜でいい、って言われると心が軽くなる。

 魚焼いたりとかハンバーグ作るとかだとハードルたけえけど、惣菜にプラスして何か作るならできそうだ。

 唐揚げなら唐揚げのもととか売ってるからそういうのでいいんかな。


「いただきまーす」


 そんな想真の声がして俺の思考は止まる。


「あ、いただきます」


 つられるように俺は言い、箸を手にした。


「じゃあお前、昼間に出掛けるの?」


「んー、お昼前かなぁ」


「俺、今日ハロワ行ってくる」


 仕事探さねーとなぁ。ネット検索だけじゃあ出てこない職場とかあるし。

 パンにバターを塗っていると俐月の不思議そうな声が響いた。


「……ハロワ……」


「ハローワーク。職業安定所。まあ、失業保険貰えるわけじゃねえけどハロワでしか応募できない会社とかあるからさ」


「へえ、そうなんだ。俺、バイトしかしたことないからなぁ」


 バイトはしたことあるんだ。意外。


「へぇ、何やってたんだ?」


 俺の言葉に想真はニコニコと笑いながらカフェオレに口をつけた。

 ……なにそれ、内緒って事かよ?


「まあいろいろ」


 って答えたからきっと答える気はないんだろう。まあいいけど。


「とりあえず、就職できなくてもバイト位は見つけようかなーって思ってさ」


「へぇ、そうかー。バイトなら別にいいか。引きこもりってよくないもんね」


 別にいいか、とは?

 不思議に思ったものの俺は突っ込まず、俺はパンにかじりついた。


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