なんなんだよこの人、ほんとに……!
つうかこの人、俺より上? 下? どっちともとれる感じなんだよなぁ……
「つうか、貴方なに者なんですか」
「え? 俺、はいゆーだよー」
男が甘えた声で言うんじゃねぇよ!
そうは思うものの嫌な感じはせず、それよりも俺は言われた言葉の意味を考えた。
はいゆー……俳優? 他に変換しようがないよな、今の言葉……
「て、まじで?」
「ほんとだよー。ドラマとか出てるんだよ?」
へらへらと笑いながら彼は言った。
ほんとかよ? まあ言われてみれば顔だちいいし、肌きれいだし、あながちウソじゃなさそうだけど……
正直信じらんない。そして俺は、テレビ見ないから彼を知らない。
「すみません、ドラマとか見ないから……」
ちょっと申し訳なく思いながら、俺は小さく呟くように言った。
つうかいまどきテレビ見るやつ、少ないんじゃねぇかな。
俺の周りを思い出してもテレビ持ってないやついたし。見るとしても動画サイトくらいだ。
「あはは、そうだよねー。おかげで知らないやつと寝てもバレないバレない」
と、へらへらと笑いながら言った。
いや……それってどういうことだよ……?
ある可能性の事を考えて、俺の中で血の気が引く音がする。
裸で寝てることに気が付いたとき、その可能性が頭をよぎったけど……もしかしてまじでこいつ、ゲイ? だから俺、裸なのか?
思わず身をよじると、中辻さんはいっそう俺を抱きしめる腕に力を込める。
「あー、何もしてないから大丈夫だよー。スーツがシワになったらアレかなって思って脱がしただけだし」
あぁ、なるほど。ならよかった……
「でもなんでそんなに張り付いてくるんですか?」
「え? それはー、気分」
気分てなんだよ。ちょっとげんなりしつつ、俺は辺りを見回す。そういえば俺のスーツ、どこだろう?
「なあ、俺のスーツや荷物は?」
「あぁ、それならちゃんと、あそこのポールハンガーにかけてあるよ」
と言い、彼は俺から離れていく。
俺は起き上がり、きれいにかけてあるスーツのジャケットのポケットからスマホを取り出した。
あ、なんかメッセージきてる。
ロックを解除して確認すると、同じアパートに住んでいる同僚からだった。
『お前、退職したんだって? なあアパート、すぐ引き払えって、人事部長カンカンだったんだけど?』
『すぐ出ていかないなら荷物、勝手に処分するとか言ってたけど、お前、大丈夫かよ?』
て、まじかよ?
そんなん許されるのか?
やべえ、どうしよう……そこまで考えてなかった。
住むところ……住むところ……
「あんた、ほんと、表情ころころ変わるなあ。なんかあったの?」
なんて言って、中辻さんは後ろから抱きついてくる。
ほんっと距離感おかしいな、この人。
「え? あぁ、俺が住んでるアパート、会社所有ので、今すぐ出ていかないと荷物処分するって言われて……」
そんな事言われても困るぞ。
家、どうするよ?
とりあえず実家に帰る? 親に連絡しないとだしなあ……
そんな急で引越し業者、見つかるか?
ごちゃごちゃと考えてると、
「じゃあうちに来れば?」
なんて言い出すやつがいた。
「…………は?」
何言われたのか理解できず、俺は後ろを振り返る。
「うち、部屋余ってるからうちくればいいじゃん」
「な、なんで……」
「困ってるんでしょ?」
「いや、まあそうだけど……」
「じゃあいいじゃん。俺、あんたに興味ある」
いいじゃん、じゃねぇよ。
それに興味ってなんだよどういう意味だよ?
混乱して出てきた言葉は関係ない言葉だった。
「で、でも俺、無職……」
違う、そうじゃないだろ俺、もっと重要なことあるだろうに、真っ先に出てきたのは金の心配だった。
「いいよべつに。そこまでお金、こまってないし。ちょうどいい相手が欲しかったんだよねー。きっとあんたにも俺が必要になるはずだよ」
なんて言って、彼は笑う。
「でも、俺ができることない……」
「あるよ」
と言い、中辻さんはにこっと笑った。
「一緒に寝るの」
その言葉を聞いて、俺の中で疑惑が確信へと変わった。