最上階のボス、マンティス・アーガ。
話には聞いていたけど、想像を超えるバケモノだ。
こりゃ無策で戦うわけにはいかないと判断し、俺達は一度階段まで撤退した。
「あんなのが相手じゃ早い者勝ちとか言ってられないぞ。これだけの面子が揃っているんだ。作戦を立てて、みんなで討伐に挑んだ方がいいと思う」
「アルフの言う通りだ。相手は我ら【大樹の鐘】を壊滅寸前に追いやったバケモノだ……慢心は身を滅ぼすだけだろう」
「俺はお前らと組むと決めている。そこは心配するな。テスラはどうだか知らねぇけどな」
「フッ、ザック……僕の目的はラダの塔を以前の神聖な状態に戻すことだ。キミと違って最初から聖武器云々じゃない。目的達成のため、キミらと組む分に異論はない」
俺を皮切りにリュン、ザック、テスラの各パーティの団長が意見を一致させる。
これでこの場にいる冒険者達全員が、
そのための確認でもあった。
「んじゃ作戦会議だ。幸いマンティス・アーガは他の魔蟲同様、階段では襲って来ない。まずリュン、一度戦った立場として奴はどんな戦い方をするんだ?」
「ああ、アルフ。私が知る限り、あの六本腕の大鎌を駆使した物理攻撃がメインだと思う。またあれだけ巨体にもかかわらず動きが早く移動力も高い。侵入者を見つけるなり、見失うまで何処までも追跡してくる習性がある。それに背後を取ろうとしても、あの尻尾のような多脚により行く手を阻まれてしまう……しかも、全身を覆う甲殻には対攻撃魔法処置が施されているのか、攻撃系魔法がほとんど通じないんだ」
「魔法が通じないなんて……古文書で記されていたマンティス・アーガとは異なる性能です。やはり何者かに改造された可能性があります!」
フィーヤが語気を強めて言ってくる。
「その何者であるかは後で追及するとして問題はどう戦うかだ。リュンの話を聞く限り、死角はなさそうだが?」
「いや、勇者テスラ――死角がなければ作ればいい」
「アルフレッド、その言い方だと、お前には何か作戦があるのか?」
ザックの問いに、俺は笑みを浮かべ頷いて見せる。
「ここは【集結の絆】のモットーとする戦法で、みんなに共闘してもらうぜ。名付けて『一致団結フルボッコ作戦』だ――」
俺は作戦内容を皆に細かく伝えた。
再び50階層にて。
「やーい、マンティス・アーガ! こっちですよぉーだ!」
「お、お前なんか怖くないぞ! バーカ!」
まずは
怒っているかは不明だが情報通り、奴は侵入者を発見するなり物凄い勢いで突進し襲ってきた。
シズク達は「わーっ!」など悲鳴を上げて石柱を利用し巧みに逃げ惑うが、マンティス・アーガは障害物を無視して石柱を砕きながら追跡して行く。
誘き寄せられた方向に、スナイパーが狙っているとも知らず。
「貴様に殺された前団長と仲間達の仇だ――〈
別の石柱に身を隠していたリュンが飛び出し固有スキルの弓を射る。
〈
射程距離はリュンが視界に捉える範囲で、如何に遠かろうと殺傷能力が弱まることはない。
また彼女の
だが反面、威力が高いだけに魔力消費が高く射る回数も制限されるとか。
「「「今です――〈
マカ、ロカ、ミカがスキルを行使し仲間達全員の
「「――〈
続いて、パールとフィーヤの
マンティス・アーガが立ち止まる石床から巨大な魔法陣が構築され、そこから複数の鎖が発射される。
鎖はマンティス・アーガの身体に絡みつき完全に動きを封じた。
甲殻に施された対攻撃魔法処置で攻撃系の魔法は通じないようだが、それ以外の魔法であれば効果があると踏んでいたがやはり正解だ。
「うひひひ――呪法〈
マンティス・アーガの攻撃力と防御力を含む、全
ここまでは作戦通りのパーフェクト展開だ。
「よっしゃ! あとは全員でフルボッコだ! 行くぞぉぉぉぉ!!!」
俺は聖剣グランダーを抜き、号令を発して駆け出した。
身を潜め待機していた攻撃組が「おおーっ!」と威勢よく声を上げ突進する。
「壱ノ刃――〈無月〉!」
それに続き、ザックとテスラ達が各々の武器とスキル技で攻撃していく。
思わぬ奇襲と襲撃にマンティス・アーガは「シャァァァァ!」と咆哮を上げ悶絶する。
拘束された鎖を強引に引き千切り大鎌で反撃を試みるも、
「もう無駄な抵抗ってやつだ――〈
俺は固有スキルを発動する。
瞬く間にマンティス・アーガの手足全てを両断し達磨状態にしてやった。
タイムアップ後、〈
丁度、5分が経過し〈
だが完全に動きごと封じ込ることに成功したぞ。
この状態では流石に成す術がないだろう。
「トドメだ!」
勇者テスラと【太陽の聖槍】の攻撃組が、マンティス・アーガを仕留めようと駆け出した。
抜け駆けじゃなく、これも俺が提案した打合せ通りの行動だ。
自国の勇者らしく華を持たせようと配慮してみた(ここでテスラに貸しを与えた方が後々便利だからな)。
刹那
パキッ
不意にマンティス・アーガの背中が縦状に割れる。
そこから何かが飛び出してきた。
――斬ッ
まるで疾風の如く、目で追うのがやっとの速度と動き。
巨大な刃が横一文字に流れるような奇妙な残像と軌跡を描く
その軌道と攻撃範囲にいたテスラ達が一瞬で斬られてしまった。
「ぐおっ……バ、バカな」
テスラ達は崩れるように倒れ伏す。
両断こそされてないが、それぞれ胸や腹部に深い裂傷を負っている。
溢れ出る出血の量からして致命傷に違いない。
「テスラ!」
「行くな、ラウル!」
瀕死の弟に駆け寄ろうとするラウルを俺が制止する。
敵の実態がわからない。迂闊に行けば自滅するだけだ。
すると、動かなくなったマンティス・アーガの上に見たことのないモンスターが降り立った。
背には大きな羽が生え、両腕が鎌状態になった人型の姿。
サイズは俺達と変わらないが、顔は蟷螂そのものだった。
「ま、まさか脱皮したってのか? あれがマンティス・アーガのもう一つの姿……」
蝉が脱皮し羽化するかのように――言わばあれは第二形態だ。
大方、進化モードってところか。
クソォ、ボスなだけに別の形態を隠し持ってやがった!