「……アルフレッド君、やはりついて来れたね。流石、聖剣に選ばれし者だ」
「無視すんじゃねぇ、テスラ!」
「ザック、この手を離してくれないか? こんな敵地でもたもたしているとモンスターに囲まれるぞ」
「うるせーっ! テメェらだけ勝手に行きやがってどういうつもりだ!? 俺様達と共闘するんじゃねぇのか、ああ!?」
どうやらザックは【太陽の聖槍】は独断で進んだことについて憤っているようだ。
実際に決起会まで開き共闘すると謳いながらも、蓋を開けてみれば他の冒険者達を見捨てて自分らだけ前進したわけだからな。
ザックが団長として不服を唱えるのは当然だろう。
対するテスラは「フン!」と鼻で笑い、半ば強引に掴まれた腕を振りほどいた。
「か弱き国民であれば勇者として喜んで手を差し伸べよう。だがキミらは強者でありトップクラスの冒険者だ。強者である以上、自分の身は自分で護ってもらわないと困る。それとも、キミら【戦狼の牙】は
「ぐっ……能書き垂れやがって!」
ザックは尚を掴みかかろうとするも、仲間のダナックとケティに止められる。
相手は仮にも王子様だし、今ここで揉めている場合ではない。
周囲には【太陽の聖槍】と【戦狼の牙】の他、160名もいたのに半数くらいの冒険者しか残っていなかった。
最上階まで22階もあるってのに……。
「皆にも言っておく! 共闘とは目的を成し遂げるため共に前進することにある! したがって足の引っ張り合いではないからな! そのような冒険者は容赦なく置いていく! 諸君らは選抜されたトップクラスである! 冒険者としての気高き誇りと矜持を備わっている筈だ! 甘えた考えは捨てろ、いいな!」
厳格な言い方だが筋は通っているな。
少なくても「ラダの塔攻略」にかける意気込みは伝わる。
ザックは「チッ」と舌打ちし、他のパーティの団長は「ああ、わかっている……」と渋々だが理解を示した。
「……正論ではあるが、どうも勇者テスラは無茶苦茶すぎる。アルフ、万一はエリの〈
リュンは小声で耳打ちしてくる。
〈
以前のアタックでリュンら【大樹の鐘】生き残り組は、このスキルで瞬時に脱出することができたと言う。
「ああ、いざって時はそうしよう。けど、まだ戦えるうちは頑張ろうぜ。一応、【集結の絆】にとって個々のレベル上げの武者修行でもあるんだ」
でなければ、いつまでもローグに追放された悪役アルフレッドのままだ。
周囲に評価されているのなら、それに見合った実力を身に着けなければならない。
何せ俺には主人公補正が発生しないのだから――。
「アルフ、キミはポジティブな人族だな……気に入ったよ」
「なんか言ったか、リュン?」
「……いやなんでもない。ならば思う存分に戦ってくれ。私が
妙に白肌の頬を赤らませるエルフの美少女リュン。
俺は様子の変化が気になるも「ああ、頼むよ」と返答する。
けど何故か背後からの視線が痛い……同じパーティの女子メンバーからだ。
特にソーリアは柱の陰に隠れて顔だけ出し、瞳孔を開かせてガン見してくる。
「あのエルフ女……ボクの推しに唾つけようとしてるね。どんなデバフかましてやろうか、うひ! うひひひひ!!!」
やべぇ! 怖ぇ! あの子、なんか超危険なんですけどッ!
俺は場の雰囲気を誤魔化すため、「よーし! みんな仲良く頑張るぞぉぉぉ!」と必死でテンションを上げる。
ガイゼンとラウルの男メンバーは「おう!」と合わせてくれるも、女子メンバーは「はーい」と気のない返事だ。
肝心のソーリアは「団長くんのフォローに免じて今だけ赦してあげるよ、うひひひ」と柱の陰から姿を見せた。
と、とりあえず上手く場を収めただろうか?
団長、マジきつい……。
そうして移動を始めた勇者テスラ達の後へと続く。
30階からは迷路のように複雑に入りくんでおり、大蜘蛛が住処となっていた。
壁のような部分は粘着性のある糸で構成されており、冒険者達の行く手を阻む。
所々、白骨化された冒険者らしき亡骸がくっついている。
「壁全体が罠ってわけか……下手に触れると脱出できなくなり捕食されてしまう。炎系の魔法なら焼き尽くすことは可能だが、密閉された空間じゃ自殺行為になる。結構、厄介だぞ」
前衛のパーティが大蜘蛛と戦っている中、後方の俺達は下手に動けないでいる。
その間、他の大蜘蛛達が集まり通路を塞ぎつつあるようだ。
「クソッ! 勇者達め、また自分らだけで――!!!」
どうやら、またもやテスラ率いる【太陽の聖槍】は先に進んでしまったらしい。
次第に戦況は悪化しパニックと化していた。
「ならここは勇者テスラが掲げたルールに則り、我らのみで上階を目指そう――ルベル、頼む」
「――はい、リュン団長。僕に任せてください」
まるで指揮者のように片手を振るうと、指先から光の糸が出現し前へと伸びていく。
それは迷路化されたルートに沿っているかのように見えた。
「皆さん、この光糸に沿って進めば比較的に安全です。壁の罠に触れず、早々モンスターに出くわすこともないでしょう」
「ルベルの固有スキル――〈
リュンの説明では、以前ルベルのスキルで50階まで到達することができたと言う。
凄ぇ……エリといい、【大樹の鐘】めちゃ有能揃いじゃないか。
一緒に組んで正解だわ。
ルベルを先頭に俺達は、他のパーティから離れる。
光の糸が示すルートを辿って進んで行った。
それでも時折、大蜘蛛が現れる。しかも剣での攻撃が届かない天井からだ。
しかしこちらには長距離攻撃の達人がいる。
「スキルや魔法を使うまでもない」
リュンは弓を掲げ速射する。
飛翔する一本の矢が大蜘蛛の急所に命中し、そのままの体勢で落下した。
まるで死んだことも自覚する間もない。そう思わせる凄腕だ。
これが第一冒険者の
仲間の筈なのに、つい戦慄してしまう。
それからはショートカットする形で、ほとんど大蜘蛛に遭遇することなく無事に迷路階層を脱出した。
「――40階からモンスターも相当強くなる。気を引き締めた方がいいだろう」
39階の上り階段で小休止する中、リュンが言ってきた。
どういうわけか階段では、モンスターは出現しないエリアとなっている。
それ故に連中は占拠したラダの塔から外界に出て行くことはないようだ。
「最上階まで残り10階……無理せず行けるところまで行こう。てか俺ら序盤だけでほとんど活躍してねーし」
【大樹の鐘】メンバーが有能すぎて、俺達の出番があまりない。
不意をつくモンスター相手に時折剣を振るうくらいだ。
とはいえ、道案内役のルベルもスキルを使って相当疲れている。
「――おお、アルフレッド君、もうここまで辿り着いていたのか?」
間もなくして勇者テスラ率いる【太陽の聖槍】に追いついた。
全員が返り血や謎の液体で衣類と鎧は汚れているが目立った損傷は見られていない。
流石、現役の勇者パーティだ。
「ハァハァハァ……クソォ! お前らぁ、いちいち出し抜きやがってぇ!」
後方からザック達【戦狼の牙】も駆けつけてきた。
しかし10名もいた筈なのに、今は半分と減っている。
おまけに激しく息を切らし、至る箇所に損傷が見られ辛うじて動けている感じだ。
てか、こいつら既にボロボロじゃん。