リュンに呼ばれ、俺達は足を止めた。
「貴女は【大樹の鐘】団長さんでしたね?」
「はい、アルフレッドさん! 私はリュンと申します。昨日は失礼いたしました……些か気が荒れておりましたので、つい」
まぁ大方、吹っ掛けていたのはザックっていう
「それでリュンさん、俺達に何か用でも?」
「リュンで結構、敬語も不要です。率直に申しますと、二日後の『ラダの塔攻略』で我が【大樹の鐘】と組んで頂きたいのです」
「つまり共闘してほしいと?」
「はい、是非によろしくお願いします!」
リュンは丁寧に頭を下げて見せる。
最初の印象とは異なり、気が強いが常識はあるようだ。
「俺達は一向に構わないが……しかし決起会で指摘された通り
「それを言うなら我が【大樹の鐘】も先のアタックに失敗し、団員はたったの3名……きっと更新すれば
そういや勇者テスラも言ってたな。
「他のパーティとは? まぁザックの【戦狼の牙】はあり得ないとは思うけど……」
「死んでもあり得ませんね。この国の冒険者達に頼るつもりはありません。先程の決起会でおわかりでしょ? 弱味を見せることでマウントを取ってくるような輩です……」
なるほど、他国パーティの俺達の方が気兼ねなく組めるってわけだ。
しかも俺は聖剣を持つ勇者候補……それなりに人格を評価した上か。
一年前のアルフレッドじゃ、絶対にあり得ないことだ。
まぁリュンも悪い子じゃなさそうだし、少なくても俺達より等級が高い冒険者だからな。
「わかったよ、一緒に組もう。みんなもいいよな?」
「オレは構わねーぜ。リュンとか言ったな? 残り二人のメンバーで男はいるのか?」
「え? はい。まだ子供ですが、ルベルという
「……ならいい(また女子率が高くなりそうだからな)」
ガイゼンってば何を気にしているんだ?
「わたしは良いと思います。困った時はお互い様ですから」
シャノンは相変わらず聖女様だ。そこが痺れて憧れるってやつ。
「私は新参者なので……それとリュンさん。話しづらいとは思いますが、前回のアタックで【大樹の鐘】は何処まで登られたのですか?」
ラウルの質問に、リュンは「いえ、大丈夫です」と頷く。
「――最上階の50階まで到達しています」
「「「「え!?」」」」
なんだって!? 最上階まで行ってんの!?
いや、登頂したパーティはいないって聞いているんだけど!
「驚かれるのも無理はありません……ギルドには報告しておりませんので。当然ながら、勇者テスラも知らないことです」
「どうして黙っているのです?」
「はい、聖女様。貴重な情報を他のパーティに流さないためです。ご覧頂いた通り、どいつも強欲な連中ばかりで組んだとしても出し抜かれるのがオチでしょう。まぁザックは薄っすらと勘づいているようで、ああして私を挑発してきますが……」
「……言いたいことはわかるよ、うん。けどよく最上階まで到達したよな。何名くらいで挑んだんだ?」
「当時の【大樹の鐘】は15名ほどおり、前衛と後衛に分かれてアタックいたしました。私は今でこそ団長を名乗っていますが、その時は一団員の立場です――」
リュンは詳細を話してくれた。
――ラダの塔に挑んだ【大樹の鐘】。
優秀だった前衛の団長達が奮闘し、また第一級冒険者らしく強力な固有スキル持ちが多かっただけに、苦戦は強いられるも団員を失うことなくなんとか50階まで登ったそうだ。
「勇者テスラが予想していた通り、50階層ではボス格らしきモンスターが徘徊しています。前団長を含む多くの仲間達がそいつに殺されてしまい、同じく生き残ったエリという
「そうだったのか……それで、どんなボスなんだ?」
「はい、アルフレッドさん。私も名はわかりませんが、巨大な魔蟲なのは確かです。ぱっと見は巨大カマキリ『マンティス』のようですが……やたらと下半身が多脚で腕の鎌も複数と異形でした」
「マンティスの亜種か変異体……案外、魔改造された類かもしれませんね」
「魔改造ってことは誰かに手を加えられた……案外、ラダの塔の異変も仕組まれた可能性があるって言うのか?」
「そこは実際に会ってみないとなんとも……興味深いですねぇ! アルフさん、是非リュンさんに案内してもらい、その子に会いに行きましょう、ハイ!」
おっと。
ラウルの悪い癖が始まったぞ。
この兄さん、モンスターの事になると目の色が変わるんだ。
やたらテンションを上げる
「……大変だったんだな。俺達もやるからには登頂を目指す予定だけど、みんなの命を優先に頑張るつもりだ。制覇できるよう共に戦おう」
「はい、アルフレッドさん!」
互いに握手を交わした。
「俺のことは呼び捨てで構わない。何だったらアルフでいいからな。勿論、敬語も不要だ」
「わかった、アルフ。よろしく頼む!」
かくして貴重な情報を持つ【大樹の鐘】と手を組むことになった。
各パーティの顔合わせは、二日後に行われることになる。
◇◆◇
リュンと別れた後、待機組のパール達と合流した。
彼女達は暇つぶしにと、オルセアの王都内を見物していた筈だ。
が、
「ご主人様ぁ、聞いてください!」
顔を合わせた途端、シズクが両胸をバルンバルン揺らしながら擦り寄ってくる。
「どうしたんだ?」
「アルフ団長、それがとんだトラブルに巻き込まれてしまいまして……」
「ガチ、酷い目に遭った」
同行していたカナデとパールが溜息混じりで言ってくる。
「アタシのアルフさえいれば、あんな連中なんて瞬殺だったのにぃ頭に来ちゃう!」
ピコよ。お前のアルフになった覚えはないぞ。
けど、凄ぇ怒っているのは伝わる。
「まったく、この国は最低ね」
「詩にする価値もありません」
「あんなんのが王妃ならね」
マカ、ロカ、ミカも愚痴を零している。
てか今気になるワードが出てきたぞ。
「王妃って……ラウルの義母であるウェンディだかっていう第二王妃か!?」
俺の問いに、待機組の女子達は揃って頬を膨らまして頷いた。
◇◆◇
彼女達の話によると一時間ほど前に遡る――。
王都を散策中に騒ぎを聞きつけた時だ。
とある平民の幼い少年が、煌びやかなドレスを纏う貴婦人に絡まれていたと言う。
紺色の髪を後ろで編み込み、目尻は吊り上がっているも、割とスタイルが良く綺麗な顔立ちをした年増の女だったそうだ。
そいつがオルセア神聖国の第二王妃こと、ウェンディ・フォン・オルセアだとか。
「――平民如きが、よくもわたくしぶつかってくれましたね。おかげで汚れてしまったではありませんか?」
なんでも「お忍び」と称して王都に来ていたようで、傍には10人程の護衛騎士達が並んでいる。
おまけに華やかな装飾に彩られた金色の馬車が待機しており、お忍びにしては明らかに目立っていた。
その少年、不幸にも馬車から降りてきたウェンディとぶっかって因縁を吹っ掛けられたようである。
「ひっ、ひぃ……ごめんなさい」
「いえ、赦しません。死をもって償いなさい」
ウェンディが指示すると、騎士達が躊躇なく剣を抜き無礼討ちと言わんばかりに斬りかかろうとする。
周囲の民達は「流石にやりすぎじゃないか?」と囁き合うも誰も制止しようとしない。
仕方ないだろう、平民の彼らではあまりにも相手が悪すぎた。
そんな中だ。
「――何をやっているんですか! やめなさい!」
見るに見兼ねたシズクが素早く少年に前に出て立ちはだかる。