朝、寝床から起きた。
布団が妙に丸まっているので、めくってみたらシズクが寝ている。
どうりで温かくモフモフしていると思ったが……。
そういや原作でもローグに対して同じことしてたな。
すっかり俺に気を許してくれていると見ていいだろうか。
「シズク、起きろ」
「……むにゃ、ご主人様。おはようございます」
「おはよう、てかパールと一緒に寝ていたんじゃないのか?」
「……ご主人様と一緒がいいと思ったから」
うん、かわいい。
もうやべぇ……流石はメインヒロインの破壊力だ。
「あ~あ? もう朝か……よっと」
隣のベッドでガイゼンがカシャッとか音を鳴らして起き上がる。
てか、こいつ可笑しくね?
「ガイゼン、おまっ……どうして鎧姿のままなんだ? まさかそのままで寝たのか!?」
「まぁな。何度も言っているだろ? オレは――」
「恥ずかしがり屋だろ? 兜もそのままだし身体痛くないのか?」
「鍛えているからな。それより、なんでシズクがいる? パールと別の部屋に寝ていたんじゃないのか?」
「寂しくなって俺の寝床に来てしまったようだ。この子のご主人様は俺だからな」
そう言い、シズクの頭を撫でる。
彼女は瞳を細め「ふにゅ~」とキュン声を上げていた。
それからパールと合流し朝食を取ることにする。
何故かパールは不機嫌で頬を膨らませており、理由を訊ねたところ。
「シズクばかりずるい。パルもアルフと一緒に寝たかった!」
とのことだ。
……俺ぇ。どういうわけか、やたらと子供に好かれるよな……別にロリじゃねぇんだけど。
朝食を終え俺達は外出する。
シズクも体力がついたからか昨日よりも歩行がスムーズだ。
獣人族はフィジカルに優れている種族だから回復も早い。
「それでアルフ、今日はどこに行くんだ?」
「まずはシズクの装備を揃えるため武具屋だ。ある程度、戦闘経験を積まないとこの子は成長しないからな」
「成長ね……パールより小さい子だろ? オレとしては複雑な気分だ」
子供好きのガイゼンは厳つい兜の面頬越しで複雑な口調で言ってくる。
何やら勘違いしている部分があるようだ。
防具屋にて。
「そんなちっちゃい子を戦わせるのか? アルフレッドさん、アンタ……いい人だと思ったのに追放されてから、すっかり元に戻っちまったな」
何故か防具屋の親父に愚痴られてしまう。
俺が【英傑の聖剣】を追放されたことは国中に知れ渡っているらしく、理由も転生する前の素行問題や捏造やらがもっともらしく盛りつけられ流されていた。
まるで何者かが俺の風評を工作したように。
「……ご主人様のこと悪く言わないで。私、こう見ても獣人族では立派な成人です」
「「え!?」」
店の親父だけでなく、ガイゼンも驚きの声を上げる。
そう、シズクの実年齢は15歳。密かにパールより年上であった。
幼く見えるのは、奴隷としてろくに食べ物を与えられず栄養不足を補うため、意図的に成長を遅らせた言わば獣人族の生存本能だ。
したがって栄養つけて経験を積めば年相応に成長し、いずれボン・キュッ・ボンっとなるだろう。
伊達に
原作だと成長を遂げるまで、約一カ月くらい時間を要していた。
しゃーないので、俺は上記の内容を二人に説明してみる。
ちなみに博学の
「そ、そうか……そいつは悪かったな、お嬢ちゃん。アルフレッドさんも誤解してすまん、いやガチで」
「オレもすっかり勘違いしてたよ……って待てよ? シズク……お前、今朝アルフの布団に潜っていたよな? じゃあ駄目だろ! あっいや、男女の関係なら別にいいんだが……ってか、オレ達のいないところでやれ!」
「ガイゼン、勘違いしているから言っておくが、俺はシズクを仲間として迎えただけだ。あと、今のこの子に手を出したら普通に犯罪だろ!」
「……私、ご主人様なら別にいいのに」
俺が指摘する後で、シズクが切なそうに瞳を潤ませて見せる。
……うん、流石は承認欲求を満たすべく設定されたメインヒロイン。
奴隷っ子とはいえ、ちょろすぎる。もう準備OKのようだ。
今はお子ちゃまだから我慢できるけど、これで成長してしまったら果たして理性が保てるかわからんぞ……おのれ、鳥巻八号め。
気を取り直しシズクの武器と防具を購入する。
回避盾とされる
武器は両手に持つ二刀の
「毎度あり~」
店を出て、次の目的地を目指す。
時間的にそろそろ開演している頃だ。
「アルフ、今度はどこに行くの?」
パールが訊いてくる。
「昨日話したろ? もう一人のヘッドハンティングだ――」
そう告げ、あるテント小屋へと辿り着いた。
掲げられた看板には『
「……またこんな所。アルフ、お前さん気は確か?」
「何がだ、ガイゼン?」
「奴隷はまだいい。百歩譲るわ……いや本当は駄目だけどな。だが、ここは特にアレだ。しょーもない珍芸を見せたり奇異な外見をした種族を晒して喜ぶ所だろ? どうせスカウトするなら、もう少しマシな奴にしろよ……」
「パルも流石にグロ系だと引く」
ごもっともな意見でございます。
しかしここに彼女がいる筈なんだ。
シズクが実在していた以上、絶対にいるに違いない。
原作でローグをさらなる怪物に仕立て上げた少女――。
「安心してくれ。そういった類じゃない……まぁ確かにルミリオ王国じゃ珍しい種族かもな」
俺は言いながら、テントのカーテンを開けた。
中には座長らしき丸いレンズの黒眼鏡をかけた老紳士が立っている。
「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりご拝見くださいませ」
人数分の見物料を払い、俺達は中へと入れてもらった。
「お客様、ショータイムは一時間後となります」
「俺達は見物しに来たわけじゃないんだよ。確かここ、気に入ったら購入もできるんだよな?」
俺の言葉に、座長はニヤっと口端を吊り上げる。
「ほぅ、その情報をどこで? 拝見したところ……貴族の方とは思えませんが?」
そう、ここは
ワケありの種族を引き取り見世物としつつ、物好きで裕福な変態貴族に高額で売ったりもしている。
売られた者はどのような末路を迎えるかわからない。
酷い時は虐待目的や臓器を抜かれてキルされることもある。
ここに比べれば、まだ奴隷商店の方が人として扱ってくれるかもしれない。
「冒険者をやっていれば色々な噂を聞くものさ――この店に
「よくご存知で……先週、捕獲されていた者がおります。幸い躾け中であり、まだお披露目されておりませんので、今ならお買い得かと……どうぞこちらへ」
座長は醜悪に厭らしい笑みを浮かべながら俺達を案内する。
老紳士風を装っているが、これがこいつの本性だろう。
どうでもいい……俺はなんとしても、その
何せ傍にいるだけで、パーティ全体の運を底上げしてくれる固有スキルを持つ存在だ。
それから店の裏側に回り、倉庫っぽい場所に連れて来させられた。
「あそこに、おられますのがご所望された