声が聞こえた方向に振り返ると、仲間だったガイゼンとパールが手を振って近づいてきた。
「お前ら……どうした?」
「どうしたじゃねーよ! お前さんがいきなり追放されたって言うからよぉ! しかも突然、ローグの野郎が新団長とか言われてよぉ……もうわけわかんねーよ!」
「ダニエル達から説明を受けたろ? そういうことだ……お前ら幹部とカナデ以外の団員による一致で俺は【英傑の聖剣】の団長として相応しくないと見なされ、この有様だ……お前らも降格みたいだけど、それなりの地位は保証されている。だから無理して俺に関わる必要なんてないんだぞ」
「そんなの嫌ッ! パル、アルフと一緒がいい!」
パールは大声で叫んだ。
いつも大人しく魔法以外のことに関心がなく、自己主張の少ない子とは思えない。
原作でも見たことがない、初めて目の当たりにする本気の態度だ。
「パール……気持ちは嬉しいよ。けど俺と一緒にいると、裏切り者としてローグから追放されてしまうぞ。奴の固有スキル〈
そう説明し、自分のギルドカードを見せた。
無論、ただの登録書なので詳しいステータスとか記載されてないけど、冒険者としての等級が記されている。
第一級から第四級に降格。
これだけも見せれば、ローグを裏切るということはどんな末路を迎えるのか理解できる筈だ。
「――知ってるぜ。だがんなもんどうだっていいんだ!」
「なんだって?」
ガイゼンからの思わす言葉に、俺は聞き返してしまう。
「あんなローグによぉ、一生尻尾振って媚びながら冒険者するくらいなら……アルフ、お前と楽しく冒険者していた方が余程マシだと思ったんだぜ!」
「……ガイゼン、お前」
実は気のいい奴なのは知っていたけど、これほどまでとは思わなかった。
原作じゃ共にざまぁされる運命にあるってだけで、どうせ信頼関係なんて無い奴だと決めつけていたからな。
「パルも同じ! 〈
パールまで……ガチ嬉しいんだけど。
この子は原作でもアルフレッドを兄のように心から慕っていた。
にもかかわらず、このクズ野郎は落ちぶれた後、彼女を蔑ろにして金目当てで人買いに売りやがったんだ。
そのことを思えば申し訳なく、自分の顔をブン殴ってやりたくなる……痛いからやらないけど。
「……本当にいいのか? お前達、古参メンバーは特にローグの恩恵を受けまくっている。レベルダウンは半端ないぞ」
「実はよぉ、オレらとっくの前に【英傑の聖剣】を辞めているんだよ……追放云々以前にな」
「なんだって!?」
「ガイゼンの言う通り。アルフを追放するなら、パル達も辞めてやるって啖呵切って抜けちゃった」
マジかよ……てことは二人とも既に〈
そこまでして俺を慕って……。
やばい……嬉しすぎて涙が溢れてきた。
「アルフお前さん、泣いているのか?」
「う、うるせぇ! んなわけあるか! これは夕陽が目に沁みっただけだ!」
「ここギルド内だよ?」
「だから違うっつーの! ああもうわかった! んじゃ、みんなで楽しくやっか!」
「ああ!」
「うん!」
こうして抜け出した元幹部の二人と再びパーティ組むことになった。
けどやっぱり
更新したギルドカードの等級が下がっている。
ガイゼンは第五級まで低下し、パールは第四級に下がっていた。
「……パル、〈
元々備わっていた魔力もそう高くなかったとか。
まぁ、11歳という年齢を考えればそれでも凄く優秀な子だ。
「十分じゃね? ガイゼンは〈
「まぁな……けど
「けど用途はあるだろ? 俺も〈
「でもパル達、アルフのおかげでこの程度で済んだと感謝しているよ」
「なんで?」
「お前さん、オレ達に
「まるで先々を見据えた感じ。アルフ、天才」
「え? そ、そう……まぁ俺もローグに不信感を抱き始めていたからな」
本当は原作を読んだ上でのざまぁ回避で忠告しただけなんだけど……いくら信頼できる仲間とはいえ、そこまで正直に言えないか。
けど二人とも思いの外、真面目に取り込んでくれていたようだ。
感心感心。
まぁ、これでなんとかやって行けそうな目途が立ちそうだ。
それはそうと。
「――シャノンは、それとカナデはどうしている?」
「彼女達なら、まだ【英傑の聖剣】にいるぜ」
「そうか……ならいい」
「けど二人とも、アルフのために頑張ってくれている」
「パール、それはどういう意味だ?」
彼女の話によると、シャノンとカナデは俺の追放に納得せず取り消させるため、あえて残留してくれているそうだ。
シャノンは血迷ったローグの目を覚まさせるため、カナデは他の団員達を説得するために動いてくれているらしい。
「……そうか、二人とも俺なんかのために」
「アルフ、シャノンとカナデもお前さんのためだから頑張っているんだぜ」
「どういう意味だ?」
「この一年でアルフ、凄く変わった。パルはどんなアルフでも好きだけど、今のアルフは一番大好き」
「オレもだ。お前さんといると誇らしい気持ちになる……田舎の嫁や娘にも胸を張って自慢できるんだ。以前じゃ絶対に知られたくねぇと思って隠していたのによぉ。この鎧だってそういう意味もあったんだぜ」
そうだったのか?
確かに以前のアルフレッドは決して素行が良い男じゃなかった。
イキリすぎて敵ばかり作っていたようだしな。
たった一年とはいえ、ここまで俺を信頼してくれるなんて……。
――そうだよな。
ガイゼンとパールに、ざまぁなんてさせない!
シャノンやカナデもそうだ!
大切な仲間に
俺は決めた!
この異世界で、みんなで楽しく生きてやる!
「……見てろよ、ローグに鳥巻八号――お前らのガバを俺が奪い取ってやる!」
「アルフ、ローグの野郎はまだわかるとして、トリマキってなんだ? ガバってどういう意味だ?」
「ある意味、この世の神と呼べる存在だ……これから俺はそいつに反旗を翻そうと思っている。このまま奴らの掌に乗せられ踊らされてたまるか! 俺は運命を変えるぞ! そのために利用できるモノはなんでも利用してやる! ただし良識の範囲でな――だから二人とも俺について来てくれ!」
「お、おう(何言っているかわかんねぇ……まぁいっか)」
「うん(よくわからないけど、アルフが言うならパル、どこまでもついて行くよ)」
よぉし! なんか気合入ってきたぁぁぁ!
ローグ、お前らが俺から【英傑の聖剣】を奪ったように、俺もお前にとって大切なモノを奪ってやるからな!
決意した俺は二人を連れてある場所へと向かう。
そう、原作のメインヒロインがいる場所だ――。