逆ラッキースケベ展開があった後。
「アルフさん、相談に乗ってくれてありがとうございます……それと、ご迷惑お掛けしてすみませんでした」
扉の前でペコリと頭を下げて謝罪する、シャノン。
あれだけの事があったにもかかわらず、やたらあっさりしている。
どうやら俺に好意を持ってくれているようだけど天然だけに、まだ自覚がないというか……自分の気持ちに整理がついてないようだ。
俺なんてまだ余韻が残っており、今でも超ドキドキしているってのに……。
そのような子に下手な真似などできなるわけもなく……するつもりもないけど。
「シャノン、そんなことないよ。もう気にしないでくれ……寧ろ相談してくれて嬉しかった。また何かあったら遠慮なく言ってくれ」
「はい、それじゃ」
「うん、また明日」
俺は去って行くシャノンの背中を寂しく見つめる。
本心じゃ傍にいてほしい。もういっそ恋人として彼女と付き合いたい。
しかし、もうじき忌々しい「追放イベント」が訪れてしまう。
あの凄惨な末路を迎えないためにも、全てのフラグをへし折り回避できるまで我慢しなきゃ駄目だ。
そう自分に言い聞かせてお見送りした。
だがこの時、俺は気づいていない。
あの男が廊下の隅に隠れて密かに一部始終を見ていたことに――。
(……シャノンがアルフレッドさんと!? う、嘘だ! 信じられない!! うわぁぁぁぁぁ――っ!!!)
そう主人公ローグだ。
フラグをへし折るどころか、既に別のフラグが立っていたことに気づけなかった。
どうやら俺はこの異世界の神こと原作者、鳥巻八号の
◇◆◇
それからさらに数カ月が経過した
表立って大きな問題はなかったが、日に日に団員達の様子が可笑しいと奇妙な違和感を覚え始める。
特にローグ。
今まで何かと俺に懐いていた奴が距離を置くようになっていた。
現にシャノンから相談を受けた後、ローグに固有スキル〈
「――すみません、アルフレッドさん。今後は二度と断りもなく
「え? そぉ。ならいいけど……」
やたらと物分かりの良いローグに俺は拍子抜けする。
スライムのスラ吉に関しては害がなければと黙認した。
しかもローグの奴、最近では二軍メンバーとやたら仲良くしている光景が度々見かけられているとか。
特に鷲ゴボウの
それに加え
ラリサは原作ではそろそろアルフレッドのセフレとなる筈だが、そういった気配はない。
寧ろ以前はあれだけ言い寄ってきた癖に、どこか俺と距離を置いている気がした。
別にビッチだからどうでもいいけど。
唯一変わらないのは幹部メンバーと
あれからもカナデとは共に剣の腕を磨き合う仲で、参加しなくなったローグの代わりに俺の慈善事業に手伝ってくれている。
またローグの
「――アルフ団長、私はこの【英傑の聖剣】に入団して心から良かったと思っております」
「そぉ? カナデがそう言ってくれると自信になるよ」
「ええ、アルフ団長も尊敬できるお方ですし、何より慈善事業の精神が素晴らしいです。私も祖国では貧困であったため、心を打たれております。今後とも私達を正しく導いてくださいませ!」
推しだけありガチでいい子だ。
最近シャノンといい感じだけど、つい目移りしてしまいそうになる。
童貞の性だろうか。
そんな感じで順風満帆に過ごしている中。
ついに来るべき追放イベントの日がやってきた。
――が、
その日、俺が冒険者ギルドから戻ってきた時だ。
不意にラリサに呼ばれ、ある場所へと連れて行かれる。
そこは団長と幹部達だけが入ることが許される部屋だ。
何故かテーブル席の中央にローグが座っており、左右にはダニエルとフォーガスが立っている。
どいつも俺をじっと見つめながらニャついていた。
「これはどういうことだ? 幹部達はどこにいる?」
「シャノン達は僕の
ローグは用紙の束を取りだしテーブルの上に乗せ提出してきた。
こいつ今、部下達と言ったな? つい最近までぼっちキャラだった癖に……。
俺はそう思いながら、提出された用紙に目を通す。
そこには各団員の名前が連なって書かれており、おまけに血判まで押されていた。
「……これは?」
「嘆願書ですよ。普通の団員なら、団長である貴方と幹部の皆さんで取り決められますが、組織のトップが相手となると各団員の意思表示が必要となります。ちなみに幹部の方とカナデは外れてもらっています」
ダニエルがニヤついたまま説明してくる。
確かに幹部とカナデだけの名前と血判はない。それ以外の団員24名分だ。
「つまり、アルフレッドさん――貴方に対しての『追放処分の嘆願書』ですよ!」
そうローグがはっきりと言い切った。
「俺を追放だと? 意味がわからん。何かしたか?」
「……貴方は何もしていない。いや、させてくれなかったじゃないですか? 僕の〈
「んなもん、お前が当人達に無断でやっていたからだろ? 現に俺は皆の同意があれば別に構わないと付け加えた筈だし、俺から説明してやろうかと提案もした筈だ。それをお前が『言わないでください!』とブチギレたから、その意向を汲んで放置していたんだろうが、違うかコラ!」
「うぐ……それは」
俺の指摘でローグは言葉を詰まらせる。
はい論破。
ガバ世界の主人公如きが、一年前から周到に動いている俺に討論で勝てるわけねーだろ。
なんならスキルジャンキーのテメェが隠れてスラ吉を飼っていることもブチまけてやろうか?
「しかし団長であれば、ローグ
ダニエルが指摘してくる。まさか、こいつが年下のローグを「さん」付けとはな。
「どういう意味だ?」
「【英傑の聖剣】の向上のため、団員全員に言うべきだったという意味ですよ。確かにローグさんは性癖故に拒んだでしょう。ですがアルフ団長、貴方は組織のトップだ。皆のためと思えば彼を説得するか、あるいは強制権を発動して言うべきじゃなかったんですか?」
「理由はある。確かにローグの〈
「けど団長、それならあたしらでローグくんを護って上げればよかったってことじゃない? 身も心もねん」
ラリサは艶やかな嬌声のような喋り方で主張し、ローグの背中に抱き着き腕を回している。
なるほど、このビッチめ。
俺からローグに乗り換えたってことか。
別にいーけど(笑)。