わたしはシャノン・フレム。
【英傑の聖剣】の
このパーティに加入したのは約五年前、きっかけは幼馴染のローグに誘われてからでした。
ローグは偶然知り合ったアルフレッドさんと意気投合し、冒険者パーティを結成したらしく、当時見習い
なんでもアルフレッドさんも同じ孤児院出身で天涯孤独だったとか。
あれからメンバーも増え、気づけば
その破竹の勢いは未だに続いており、ルミリオ王国きっての
ですが正直、わたしはアルフレッドさんが嫌いでした。
わたしがいくらお願いし説法を説いても右から左に聞き流し、自分のやりたい放題。
好色家のアルフレッドさんに泣かされた女子も沢山いることでしょう。
けど不思議に団員の女子には手を出そうとしないのは、唯一褒められる部分でした。
ちなみにラリサさんは別です。あの方は気に入った殿方と簡単に関係を持てる痴女ですので……。
だとしてもアルフレッドさんのことが嫌いです。大嫌いです。
そしてパーティ内では、わたしとローグが幼馴染だけじゃなく特別な関係だと勘繰る者も多いことも知っています。
実際は兄と妹のような感じで、決してそのような関係ではないのですが……。
しかしわたしも否定せず、あえて噂を受け入れていました。
それは自分自身を守るためと、ローグのためです。
現にローグは幹部であるわたしと恋仲という理由で、周囲の苛めに対する一定の抑止力となっていましたので。
あとはアルフレッドさん対策でしょうか。
時折、彼はいやらしい目でわたしを見てくる……それがとにかく嫌でした。
本当に大嫌い……いつかローグとパーティを抜け出そうと何度か声を掛けたこともありました。
しかし何故かローグは応じず、「僕はね、今のパーティが好きなんだ……みんなが幸せになることを心から願っているんだよ」と決まって言うのです。
わたしはそんな兄のような幼馴染を見直し誇りに思うと同時に、そう語るローグの眼差しに少し違和感も覚えていました。
何故なら瞬きを一切せず、瞳に光が宿っていないように感じられたからです。
まぁそれ以外は至って普通なので気のせいだとは思ってますが……。
どちらにせよ、何故ローグがそこまでアルフレッドさんを慕っているのか今でも不思議です。
確か最初の出会いも、ローグがチンピラに絡まれているところを彼に助けてもらったことがきっかけだったとか。
ローグなりに恩があるのかもしれませんが、わたしはアルフレッドさんが大嫌いです。
――つい最近まではそう思っていました。
ですが今のアルフレッドさんは少し……いえ、かなり違っています。
まるで別人になったかのように素行が良くなり、ローグを平等として扱い寧ろ労わるようになってくれました。
以前のような貪欲さがなく、常に【英傑の聖剣】の発展と団員達のことを考え行動に移されていると感じています。
勇者の称号を断ったのも、以前の古代遺跡ダンジョン探索でわたし達がモンスター相手に思いの外苦戦を強いられたことが要因だったようです。
もしアルフレッドさんが勇者となれば、ルミリオ王国からより過酷なクエストを半強制的に命じられてしまう。
そうなれば必ず死者が出てしまう……力不足の団員のため、そう懸念したのだと思われます。
まさしく英断であり団長の鏡。
あの貪欲の塊だった方が、今でも正直信じられませんが……。
けど本当にアルフレッドさんは変わられました。
以前はぞんざいの扱いだったパールちゃんにも妹のように優しく接するようになり、街の民からも評判が良いようです。
ある日のこと。
「――アルフレッドさん、いるかい?」
パン屋のおばさんが尋ねて来ました。
「アルフさんならおりませんが?」
わたしはてっきり、また何かやらかしたクレームだと思ったのですが違いました。
「これ、こないだのお礼だよ。あの人に渡してね。あんた達も食べていいから」
そう伝えると大量のパンを差し入れしてくれたのです。
なんでも店内でゴロツキ達が暴れているのを仲裁してくれたとか。
その後も一緒に後片付けをしてくれたり、壊れた家具類も不器用ながら修復を手伝ってくれたようです。
しかもアルフレッドさんがなさったことは、このパン屋の一件だけではありませんでした。
それからも「孤児院の子供達と遊んでお菓子を配ってくれた」とか「お年寄りの手を引いて道路を渡っていた」とか「木に引っ掛かった風船を取ってくれた」など多数の感謝される声が聞かれていたのです。
おかげでアルフレッドさん、密かに町の人気者になっているらしい。
何度も言いますが本当に信じられません。
――けど、今のアルフレッドさん……そんなに嫌いじゃないです。
いえ寧ろ……いや、わたしは何を考えているのでしょう。
このわたしが……そんな筈など。
ある時、
「シャノン、キミを
アルフレッドさんが声を掛けてくる。
「なんでしょうか?」
「先週、ルミリオ領土の村がモンスターに襲われ被災しているらしいんだ。幸いモンスター達は殲滅されたようなんだけど被害が甚大だったみたいでね」
「そうですか、お可哀想に……」
「だから【英傑の聖剣】で復興支援とかした方がいいかなって……町で聞いた話だと国はまだ動いてないようなんだ。村の人達は住むところどころか食べ物にも困っているらしい」
「それは素晴らしいことです! 是非にそうしましょう!」
「ああ、けど団員全員を動かすのは難しいと思うんだ……特に二軍メンバーとかそういうこと面倒がって嫌がるからね」
「確かに……では幹部だけに限定するのは如何でしょうか? わたし達のクエストだと称して行けば怪しまれることもないでしょう。ローグにはわたしから声を掛けてみます」
「マジで? 助かるよ……パールは問題ないと思うけど、あとはガイゼンだな。まぁ奴も妻子持ちで気のいい男だから、文句言いながらも乗ってくれるさ。相談して良かったよ、シャノン。ありがとう」
そう嬉しそうに優しく微笑む、アルフレッドさん。
――とくん
この気持ちなんでしょう?
胸が……きゅっと絞られてしまいます。
わたしが……アルフレッドさんに?
まさか……だって、あれほど大嫌いだったのに……。
大嫌いだった筈なのに……
どうして胸が疼くのでしょうか?
彼のこと思うだけで、これほど顔が火照ってしまうのでしょう?
わ、わたしは……アルフレッドさんのことが――。