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第6話 寝取りアイテム

 その後も俺が先陣を切り、出現するモンスターを駆逐する。

 〈神の加速ゴッドアクセル〉使用後、60秒のインターバルが発生してしまうため、一旦後方へと下がった。


「オレに任せろ――〈鋼鉄壁アイアン〉!」


 盾役タンクのガイゼンが固有スキルを発動する。

 自身が翳す大楯から鎧、さらに全身の防御力が上昇しダイヤモンドを超えるほど硬質化された。

 押し寄せるモンスター達の襲撃を悉く防いだ。


「そのまま足止めお願い――〈無限魔力インフィニティ〉!」


 魔法士ソーサラーパールは魔杖を掲げ魔力を高める。

 彼女の固有スキル〈無限魔力インフィニティ〉は無尽蔵の魔力を秘め、強力な上級魔法を連発して放つことができる。

 ただし相応の知力値など求められた。


「〈超四重奏破壊砲魔法カルテットブラスト〉!!!」


 膠着状態であるモンスター達の頭上に大きな魔法陣が四層に重なって浮かび上がる。

 そこから高魔力粒子が放射され、全てのモンスターを撃ち放ち蹂躙し殲滅させた。

 圧倒的な破壊力と魔法技術の集大成。味方でありながら戦慄してしまう。


 とても10歳の美少女が成せる技じゃない。

 まぁローグの強化貸与バフがあっての絶技だけど。


 こうして敵を駆逐し斥候役であるローグの案内で安全ルートを進んでいるも、強力なモンスターが出現し足止めされてしまう。

 しまいには負傷者まで現れた。


「うぎゃぁ! 足が食われちまったぁぁぁ――!!!」


 蛮族戦士バーバリアンのフォーガスが重傷を負ってしまう。

 同じ二軍メンバーのダニエルとラリサもモンスターとの戦いで深い傷を受けてしまった。


「皆さん、ご安心を――〈聖女息吹セイントブレス〉」


 シャノンが両手を組み祈りを捧げるように固有スキルを解放する。

 背後から光に包まれた女神の幻像が出現し、負傷者達に光の息吹を吹き込む。

 フォーガスの失った足が完全に修復され、ダニエルとラリサの傷も一瞬で治癒した。


 〈聖女息吹セイントブレス〉はパーティ全員のあらゆる損傷から病気まで完治させる万能スキルだ。

 反面、大量の魔力を消費するという縛りもある。


 シャノンはローグから魔力回復薬マナポーションを受け取り服用した。


 やはり幹部クラスは全員頼もしい。

 ローグの恩恵を受けなくても現時点の戦闘力で問題ないようだ。


 一方で他のメンバーはやはり力不足感が否めない。

 唯一、推しのサムライガールことカナデだけが、日頃の鍛錬の賜物もあり辛うじてついて来ていた。


 けど安易に喜べない。

 何せ古参メンバーであるほど、ローグの〈能力貸与グラント〉で強くなっているからだ。無論、俺も含めて。

 したがってガチの実力で戦っているのは、まだ新入りのカナデくらいだろう。


 にしてもだ。


「おい、ローグ。本当に安全ルートを通っているのか? やたらモンスターの出現率が高いように感じるぞ」


 俺の問いに彼は振り返り近づき耳打ちしてくる。


「……アルフレッドさん、そろそろ僕のスキルが必要になるんじゃないでしょうか?」


「は? 何言ってんの? そうならないよう遠回りでもいいから安全ルートで進むよう指示した筈だろ?」


「けど皆さん……僕の〈能力貸与グラント〉で強化してあげないと持たないと思うんです」


 え? ローグとうした?

 なんか目がバギバキに血走ってるぞ?


「……このままじゃ幹部のジャダムに辿り着くまで全滅もあり得ると思うんです。もう僕が強化してあげるしかないんですぅ!」


 オーマイゴッド。

 や、やべぇ……ローグ君、ガチでサイコパスだったわ。


 おそらトリガーハッピーみたいに、自分の固有スキルで仲間を強化したいという衝動に駆られた病んだ野郎なのか。


 名付けて、スキルジャンキー。

 鳥巻大先生よぉ……なんて奴を主人公にしやがったんだ。


 とにかくこいつに舵を取らせたら、俺達は全滅してしまう!


「もういい、ローグは下がれ! ラリサ、盗賊シーフとしてお前に斥候役を頼む!」


「ええ~っ団長。あたし危険なの嫌ぁ。ご褒美にイチャイチャしてくれるならいいよ~ん」


 ラリサは甘声で、俺に寄り添い唇に人差し指を当ててくる。

 このビッチが戦闘中に何言ってやがる!?


「ラリサさん、クエスト中に不謹慎ですよ!」


「腐れビッチ不快すぎる」


「まったく緊張感がないではありませぬか!」


 シャノン、パール、カナデの女子メンバーが猛抗議している。

 しかも全員が俺を凝視して「プン!」とか不貞腐れて見せる始末だ。

 おい、何故こっちにまでキレてくる?

 俺、何もしてないよね?


 しゃーないのでローグからマップを取り上げ、俺が斥候役を担うことにする。

 けど職種は違うし、そういったスキルも持ち合わせていない。

 WEB版から書籍版、そしてコミック版まで一通り読んだけど、何処のルートが最適かなんて描かれてなかった。


 このクエストも確か回想シーンのわずか三行であっさりと終わった話だと思う。

 現実だと相当苦労していたんだと実感した。


「……みんな僕のスキルが必要の筈なんだ。そうに違いない、ブツブツ」


 最後尾の方でローグが念仏のように呟いている。

 スキルが使いたい衝動に駆られる禁断症状のようだ。

 まさかここまで病んでいる奴だったとは……。

 もう、こいつに頼るのだけはやめよう。


 でも先頭を歩く俺でさえ丸聞こえなのに、武士の情けなのか、あるいは無視しているのか。他のみんなは何故か知らんぷりのスルーだ。

 主人公補正なのか、この辺が鳥巻大先生のガバなところだと言える。



 ようやく最深部の地下神殿跡に到達した。

 やっぱり俺がナビした方が明らかにスムーズな気がする。何よりモンスターの出現率が低かった。

 ローグの野郎……ガチで確信犯だな。


 廃墟となっている神殿の扉を開けると、広々とした空間に一人の魔族が立っていた。


「よくぞここまでたどり着いた。冒険者よ」


 銀髪の頭部に牛のような両角が生えた男。鎧を着込み、手には炎を纏う剣が握られている。


 こいつが魔王軍の幹部ジャダム。

 原作ではルミリオ王国を侵攻するため、この古代遺跡ダンジョンでモンスター兵を集めていたとか。


「どうでもいい――〈神の加速ゴッドアクセル〉!」


 俺は固有スキルを発動し、超スロー状態のジャダムに斬りつける。

 オーバーキルと言わんばかりの連続斬りに、ジャダムは反撃どころか自分が死んだことすら気づかず瞬殺された。


 元の時間に戻った瞬間、ローグは何故か絶叫する。


「ああーっ! 僕の強化貸与バフで強化する前に斃しちゃうなんてぇ! アルフレッドさん、あんまりですよぉぉぉぉ!!!」


 こいつ超うぜぇ。

 てかとんでもない方向にキャラ変してんじゃねーよ。


 スキルジャンキー馬鹿はほっぽいて、俺は倒れ伏せたジャダムの身体から零れ落ちて転がっていく、ある物体を発見した。

 小さく丸い鉛のようでグロテスクなデザイン。

 まるで人間の目玉みたいだ。


 けど俺はそれが何かを知っている……。


「――呪術具、〈蠱惑の瞳アルーリングアイ〉か」


 これを自分の眼球に押し当て融合させることで、視界に入れた者を魅了し支配する呪術系の魔道具だ。


 そう。


 アルフレッドはこの〈蠱惑の瞳アルーリングアイ〉を使用して、シャノンをローグから奪い寝取ったのだ。

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