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0‐3擬態失敗

 教室で私はカメレオンになる。

 ……まあ空気でもいいのだけれど変身が出来ないし、私は能動的にしていくつもりだからカメレオン。


 私は学校生活において、自分を出さないと決めていた。

 相変わらず私は友達作りが苦手だったし、誰々がかっこいいとかの話題で盛り上がる、女の子特有のテンションは自分には生み出せない。

 だからせめて他人との感覚のズレが少しでも埋まるように、私は同調していきたいと考えたんだ。


 通常日課が始まった初日。私は擬態作戦を決行した。


【ひとつ】取りあえず引き続き、小学校でも男の子には混ざらないようにするべし!

 ひとまずこれは余裕だった。自分の席でじっとしていればいいのだから。では次。


【ひとつ】戦隊ものや少年漫画が好きな素振りは、けっして見せないようにするべし!

 これは男の子たちがよく話をしていたから、うずうずして困ったけれど出来た。自分の席でじっと我慢していられたらいいのだから。


【ひとつ】女の子が口にした話題には、同調するようにするべし!

 これは出来なかった。自分の席でじっとしたまま一日が終わってしまったからだ。


 まずい。この調子では今までと変わらないじゃないかと密かに頭を抱えつつ、異星人の私は先生の引率の下、よそのクラスも交えた地球人たちと幼馴染み。そして同じ園の子と一緒に、山道を抜けるまで集団で下校する。


 困った。また明日からも、あの地獄のような休み時間を迎えていかなければならないなんて。

 しかも私の通園期間は二年だったのに対し、小学校はその三倍だ。卒倒ものである。というか一日でも辛すぎたし、今までもしんどかった。


 心とは正反対に輝く、新品のランドセルの肩ベルトを握り締めて鬱々としていると、優しく降り注いでいた陽ざしを前方からも感じた。顔を上げると、山道の出口が見える。

 鬱蒼とした木々に覆われた道が開ける様子は、まるで途方もない苦悩から解放される瞬間のようだった。


 不思議と朝の景色とは違って見えて、胸がときめき出すのを感じた私は、堪らず両腕を飛行機の翼のように広げて地球軍の基地から飛び立った。

 けれど数メートルほど駆けて、はっと足を止めた。


 同じように駆け出していたのは、数人の男の子たちだけ。

 その中に幼馴染みの姿はなく、代わりに同じ園の子が楽しそうに笑って腕を広げていた。

 私はまたしてもズレていたのである。


 引率の先生に元気よく挨拶をする同級生たちの声を遠くに、背を向けた私は再びランドセルの肩ベルトを握り締めた。俯いて、自分の行動を悔い恥じた。

 今日からはもう、帰った後でも幼馴染みと遊ばないんだ。

 私はそう固く決心しながら、ただただ足を自宅へと向けて運んだ。


 けれど幼馴染みは来た。今までと同じように家の外から私を呼び、遊ぼうと言う。

 居間で独り膝を抱えていた私は、すぐに玄関へと走って向かってドアを開けた。ほんの少しだけ。

 そして眉根を寄せて顔を覗かせていると、何しているのと幼馴染みに不思議がられてしまった。

 人の気も知らないで。そんな大人びた感想を胸の奥に仕舞い、私は幼馴染みの手を取った。でも幼馴染みの手が汗で湿っていて気持ちが悪い。すぐに振り解きたかったけれど、いつもより固く握られていて放すことが出来なかった。


 仕方がないなと思いつつ握り返してみれば、幼馴染みはへへっと目を細めた。

 もう屈託なく笑っちゃって。

 なんて恨めしく思っていたこの頃。私はまだまだ未熟で、幼馴染みの胸の内など知る由もなかったんだ。

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