空気には緊張感が漂い、アレックスはアリアのもとへ駆け戻っていた。彼女は未だに影の牢獄で大魔道士を封じ込めていたが、疲労の色が濃かった。その足音一つ一つが責任と不安の重みを伝えていた。それでも、アレックスは友を一人で戦わせるわけにはいかなかった。
戦場に到着したアレックスは、アリアの息が上がっているのを見て取った。それでも彼女の視線は鋭く、敵を逃がすまいと決意を感じさせた。アレックスは彼女の隣に立ち、即座に状況を把握した。
「大丈夫か?」アレックスが心配そうに尋ねる。
「なんとか…持ちこたえてる…」アリアは目を閉じずに牢獄へ注視したまま答えた。
その時、不吉な音が響いた。牢獄を構成する影が内側から引き裂かれているように見えた。
「嘘でしょ…!」アリアは驚きながら魔力を込めて牢獄を強化しようとした。
しかし、それも無駄だった。暗黒のエネルギーが炸裂し、大魔道士は牢獄を破り笑みを浮かべながら姿を現した。その表情には余裕があり、牢獄など単なる手間に過ぎなかったかのようだった。
「見事だ、小さな魔女よ。」魔道士は冷静にマントを整えながら言った。「だが、私を封じるには程遠い。」
疲労困憊のアリアが一歩後退する中、魔道士は二人に視線を向けた。そしてアレックスが本能的にアリアの前に立ちはだかったのを見て、彼の笑みはさらに広がった。
「これは面白い。魔力を持たない人間が強大な魔女を守ろうとしているのか。実に感動的だ。」
驚くアリアはアレックスを見た。 「何してるの?」彼女は息を整えながら小声で尋ねる。
「できることをやってるだけだ。」アレックスは魔道士から目を離さずに答えた。「お前を傷つけさせない。」
魔道士の笑い声は嘲笑を含み始めた。 「まさか、お前が私に立ち向かうつもりか?ドラゴンに挑む蟻とは滑稽だな。」
アレックスは拳を握り締め、鼓動が早まるのを感じたが、一歩も引かなかった。 「たとえ倒せなくても…」彼は力強い声で言った。「友達を傷つけるのを黙って見てるわけにはいかない。」
魔道士はアレックスの目の中にある決意を見て眉を上げた。 「面白い。人間よ、どれほど持ちこたえられるか見せてもらおう。」
瞬時に魔道士は暗黒の雷をアレックスに向かって放った。しかし、その刹那、アリアが反応し、影のバリアを広げて攻撃を跳ね返した。
「何してるのよ!」アリアはアレックスを引っ張りながら怒鳴った。「そんな奴に立ち向かえるわけないでしょ!」
「お前だって一人じゃ無理だ!」アレックスは同じ強さで言い返した。
魔道士は二人のやり取りを楽しむかのように腕を組んだ。 「ますます面白くなってきた。機会をやろう。その絆とやらが口先だけかどうか、試してみせろ。」
アレックスはアリアを見つめた。まだ不安そうな彼女に向かって言った。 「信じてくれ。二人で力を合わせるんだ。」
アリアは一瞬だけ躊躇したが、やがてうなずいた。 「分かった。でも無茶はしないで。」
大魔道士は新たな攻撃のためにエネルギーを集め始め、アレックスとアリアは共に立ち向かう準備を整えた。真の戦いはこれから始まるのだと理解しながら。
アレックスはアリアを守る決意を胸に、目を閉じてサポート技に全精力を注いだ。体が次第に弱っていくのを感じながらも、彼は集中を切らさなかった。彼は手をアリアに向けて差し出し、アリアはその様子を心配と興味が入り混じった目で見つめていた。
「準備して、アリア。」アレックスは息を切らしながら言った。「これで、あいつに立ち向かえる力が得られるはずだ。」
淡い光がアレックスの体を包み、それが徐々にアリアへと流れ込んだ。闇のオーラがアリアを包み込み、まるで踊るように彼女の体の周りで揺らめいた。その力に応えるように影の魔力が活性化し、アリアは今までにないエネルギーを感じた。
「これは…すごい…」アリアは自分の手を見つめ、驚きの声を漏らした。
しかし、驚きはそれだけで終わらなかった。影の魔力が形をとり、二人の前に巨大で幽霊のようなクリーチャーが現れた。それは細長い体、輝く目、鋭い爪を持つ巨大な手という恐ろしい姿をしていたが、その動きはぎこちなく、表情にはどこか優しさが感じられた。
アリアはその姿に驚き、思わず後ろに飛び退いた。そしてそのままアレックスの腕に飛び込んだ。 「な、なによあれ?!?」アリアはアレックスにしがみつきながら叫んだ。
アレックスはバランスを保とうとしながら、アリアの重みと彼女の必死な手の力を感じていた。 「たぶん…君の魔力が作り出したものじゃないかな。」彼は笑いを堪えながら答えた。
そのクリーチャーはアリアの反応に気づくと、ぎこちなくもゆっくりと大きな手を上げ、彼女を落ち着かせようとしているように見えた。さらに、幽霊のような涙を一滴流したが、それは地面に触れる前に消えてしまった。そして、どこかコミカルなジェスチャーで「怖がらないでください」と訴えているようだった。
一部始終を眉をひそめながら見ていた大魔道士は、ついに鼻を鳴らした。 「ふん、これが君たちの全力か?ふざけるのもいい加減にしろ。」
そう言うと、大魔道士は素早く闇のエネルギーの一撃をアレックスとアリアに向かって放った。
「危ない!」アレックスは叫び、動こうとしたが、それよりも先に影のクリーチャーが反応した。
低く、しゃがれたようなうなり声を上げながら、クリーチャーは二人の前に立ちはだかった。闇のエネルギーがその体に直撃したが、まったくダメージを受けた様子はなく、それどころか風を受けた程度にしか感じていないようだった。そして、魔道士をじっと見つめるその表情は、まるで「それが全力か?」と言っているようだった。
アリアはアレックスにしがみついたまま、その様子を呆然と見つめていた。 「すごい…」彼女はつぶやいた。「あの子、強いだけじゃなくて…少し可愛いかも?」
アレックスは思わず短いが心からの笑いを漏らした。 「少なくとも、味方でよかったな。」
大魔道士は明らかに苛立ちながら眉をひそめ、さらに強力な攻撃のためにエネルギーを集め始めた。 「面白くなってきたな。」彼の声には邪悪な気配が漂っていた。「だが、私の力を侮るなよ。」
アレックスとアリアは互いに目を見交わした。この戦いはまだ終わっていない。だが、
今は予想外の味方が彼らを守ってくれている。その頼りないながらもコミカルな守護者が、どこまで助けてくれるのか。二人は新たな一歩を踏み出す決意を固めた。