アリアは大魔導士・ダークマスターの前に立ち、魔力を帯びた風が周囲を吹き抜けていた。空は脅威的な灰色に染まり、今まさに始まろうとしている戦いを反映しているかのようだった。魔導士の冷徹で計算高い眼差しは、アリアの目に宿る決意と対照的だった。
「これが噂の『影の召喚士』か?」
ダークマスターは嘲笑しながら言った。彼の手には、ルーンで飾られた手袋を着けた手が掲げられ、手のひらから闇のエネルギーが集まり始めた。そのエネルギーは、明らかに邪悪な意図を宿して脈動していた。
「本当の闇を生き抜けるか見せてもらおう。」
アリアは言葉で答えることはなかった。彼女の魔法がその代わりを果たした。腕を伸ばすと、周囲の影が命を持ち始める。地面から無数の霊的な生物が現れ、歪んだ形と怒りに満ちた輝く目を持っていた。それらは彼女の影の召喚獣たちで、アリアを守り、彼女の名のもとに戦う準備が整っていた。
ダークマスターは闇のエネルギーの球をアリアに向けて放ったが、その瞬間、アリアの召喚獣の一匹が飛び跳ねてそれを迎撃し、衝撃を吸収するとともに消え去った。
「面白いな」
ダークマスターはつぶやき、指を鳴らした。彼の側から空気にひび割れが生じ、そこからは純粋な闇のエネルギーでできた奇怪な姿の存在たちが現れた。その牙と爪は邪悪な光を放ち、アリアの召喚獣たちに襲いかかっていった。
戦いは激しさを増した。アリアはその手を正確に動かし、召喚獣たちを指揮する。まるで指揮者がオーケストラを指揮するように、召喚獣たちは猛烈に戦い、ダークマスターの召喚獣たちと激しく衝突した。光と影のカオスのような舞踏が繰り広げられる。
「影の鎖!」
アリアは叫び、魔法を使ってダークマスターの召喚獣たちを幽霊の鎖で巻きつけた。影の鎖が強力に絡みつき、アリアに攻撃する時間を与えた。
ダークマスターは笑いながらその鎖を軽々と解き放った。
「それだけか? 本物の闇は決して束縛されることはないと知っておけ。」
ダークマスターは素早く動き、闇のエネルギーの渦を引き起こした。それは戦場を破壊的な波のように覆い尽くした。アリアはほとんど反応する時間もなく、魔法で影の壁を作り、攻撃を一部かわした。しかしその衝撃で何歩も後ろに下がり、息を切らしながら力を振り絞って立ち上がった。
「これじゃ簡単にいかないな…」
アリアは呟き、最も強力な召喚獣の一つを召喚した。それは赤い眼を持つ影の狼。狼は吠え、ダークマスターに向かって超高速で突進した。その速さにダークマスターは初めて後退した。
ダークマスターの笑顔は一瞬で消えた。
「どうやら少しは才能があるようだな。しかし、真剣に遊ぼう。」
ダークマスターは両手を掲げ、地面が震え始めた。彼の周りに闇のエネルギーの柱が立ち上り、彼を覆うように巻きついた。柱からは純粋な闇でできた巨大な悪魔の姿が現れた。ねじれた角と、光そのものを飲み込むような翼を持ったその悪魔は、まさに闇そのものであった。
アリアはその悪魔を見つめ、驚きと恐怖の入り混じった表情を浮かべたが、決して怯むことはなかった。
「もし闇が欲しいなら、もっと深い闇で立ち向かってやる。」
彼女は目を閉じ、すべてのエネルギーを一つの魔法に集中させ始めた。周囲の影が膨れ上がり、そこから一つではなく、いくつもの巨大なクリーチャーが現れた。亡霊のドラゴン、影のフェニックス、そして純粋な影で作られた槍を持つ巨大な巨人。
戦いは新たなレベルに突入した。クリーチャーたちが激しく衝突し、アリアとダークマスターは壊滅的な魔法の応酬を繰り広げた。
戦いの激しさに関わらず、アリアは自分が限界に近づいていることを感じ取っていた。魔法は大きな代償を伴い、時間が経つにつれて体が重くなっていった。しかし、彼女は決して諦めることはできなかった。友人たちが彼女に頼っているのだから。
「私の王国のため、私の民のため!」
アリアは叫び、再び攻撃に転じた。闇を制御し、善のために使えることを証明するために。
戦いは続き、仲間たちの運命は一縷の望みで繋がれていた。
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空気にはまだ戦いの余韻が漂い、アリアは大魔導士との戦いを続けていた。遠くでは、疲労で消耗したアレックスが、不安を募らせながらその様子を見守っていた。放たれる一つ一つの魔法や召喚される魔物が、アリアを少しずつ消耗させているように見えたが、その決意は揺らぐことがなかった。
一方、セレナは廃墟の中を慎重に動き回っていた。アレックスの指示に従い、大魔導士がこの場所で戦いを仕掛けた理由を探していた。目に留まったのは、瓦礫の下からわずかに姿を現している古い祭壇だった。消えかけたルーンが表面に刻まれている。
「これは……無視できるものではなさそうね。」セレナは呟き、注意深く祭壇に近づいた。
彼女がルーンを調べていると、突然魔力が反応を示した。指先に走るエネルギーの流れと共に、祭壇が一瞬輝きを放った。するとルーンが光り始め、隠されていた仕掛けが明らかになった。セレナは咄嗟に後退したが、祭壇はすでに動き出しており、地下への隠された通路が開かれた。
戦場では、大魔導士が祭壇の活性化に気づいていた。冷たく計算高いその眼差しがさらに鋭くなる。 「誰が私の計画に手を出すというのか?」
その隙を見逃さなかったアリアは、影の魔法を放ち、大魔導士を一時的に閉じ込めた。 「ここからは逃がさないわ。私がいる限りは。」彼女の声には決意が込められていたが、その息遣いには疲労の色がにじんでいた。
大魔導士は不気味に笑い声を上げた。 「執念深い娘だな。だが、これは私にとってただの遊びに過ぎない。」
その時、アレックスが駆け寄ってきた。まだ少しふらついているが、その表情には焦りが見える。 「アリア、大丈夫なのか?」
「できる限りのことをしているだけよ。」アリアは短く答え、視線を魔法に集中させ続けた。
「祭壇だ。」アレックスは息を切らしながら言った。「セレナが見つけた。何かが隠されているらしい。」
アリアは無言でうなずいた。魔法に全力を注いでいる彼女には、それ以外に余裕はなかった。
「俺とセレナがそこを調べる。お前はこいつを抑えてくれ。」アレックスは不安を押し隠しながら言い残し、その場を駆け去った。
祭壇にたどり着くと、セレナが通路の入口で待っていた。 「遅かったわね、二番手の英雄さん。」セレナが皮肉めいた笑みを浮かべた。
「刀を振り回す狂人から人を助けた後だと、全力疾走はきついんだよ。」アレックスも笑みを返した。
二人は開かれた通路を下りていった。らせん階段を進むと、青白い光がかすかに漂う部屋にたどり着いた。その中央には、浮かぶ球体があり、世界そのものの本質を秘めているかのようなエネルギーを脈動させていた。
「これは……まずいわね。」セレナはその球体が放つ異様な力に圧倒されながら呟いた。
「一体、あいつは何を企んでるんだ?」アレックスは慎重に球体に近づいた。
さらに調べようとした瞬間、背後で轟音が響いた。振り向くと、影の中から現れた巨大で醜悪な守護者が立ちはだかっていた。祭壇の仕掛けが生み出した防衛機構だ。
「どうやら、時間稼ぎが必要みたいね。」セレナは戦闘態勢をとった。
「いつも通り、君の後ろを守るよ。」アレックスは残る力を振り絞り、セレナを援護するために構えた。
地上でも地下でも、戦いは
続いていた。大魔導士の計画の全貌が徐々に明らかになる中、時間との戦いはますます苛烈さを増していく。それでも、誰も諦めることはなかった――運命の瞬間が、すぐそこに迫っていた。