混沌は依然として彼らを包み込んでいた。アレックスは、体中を駆け巡るアドレナリンを感じながら、深呼吸して、自分にできる唯一のことを選んだ――サポート魔法だ。強力な攻撃魔法ではないが、正確に使う方法を学んでいた。
彼はガロッシュの圧倒的な攻撃を防ぎ続けるエミのもとに駆け寄り、その肩に手を置いた。
「今度は何をしようとしているの?」エミが汗を流しながらも構えを崩さず尋ねた。
アレックスは目を閉じ、エネルギーを転送することに集中した。彼の手から微かな光が現れ、それがエミを包む温かな輝きとなる。
「君に力を送っているんだ。僕は君みたいに戦えないけど、君がもっと耐えられるようにできる。」
エミは体中に新たな力が湧き上がるのを感じた。筋肉が解放されるような感覚と同時に、予想以上の耐久力が身体中に広がっていく。彼女の目に再び決意の炎が灯った。
「ありがとう、アレックス。あとは私に任せて。」
アレックスはうなずき、振り返ることなくセリーナのもとへ向かって駆け出した。彼女はザレクとの激しい戦いを繰り広げていた。
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ザレクは狂気じみた笑みを浮かべながら、素早く正確な動きでセリーナを攻撃していた。その様子はまるで遊んでいるかのようだった。それでもセリーナは後退せず、魔法で棘のバリアやエネルギー波を放ち、ザレクの接近を阻止し続けていた。
「それがお前の全力か、小娘?」ザレクはさらに一撃をかわしながら言った。「もっと楽しませてくれると思ったんだがな。」
「そして私は、暗黒の大魔導師の手下がもう少し賢いと思っていたわ。」セリーナは皮肉げに笑いながら、エネルギーの爆発を放ち、ザレクを数メートル後退させた。
その直後、セリーナがザレクの反撃を受けて地面に叩きつけられるのを、アレックスは間一髪で目撃した。
「セリーナ!」アレックスは叫びながら彼女に向かって駆け寄った。
ザレクは振り返り、その不気味な笑みをさらに広げた。「ほう、小さな無魔力の坊やが遊びに来たのか?これは面白くなりそうだな。」
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アレックスは、よろめきながら立ち上がろうとするセレナの前に立ちはだかった。彼の視線はザレクに釘付けだったが、その頭の中では素早く戦略を練っていた。直接戦っても勝ち目はないと理解していたが、セレナがエネルギーを回復するための時間を稼ぐことはできるかもしれない。
「何をしているの?」セレナが唇の端についた血をぬぐいながら尋ねた。
「君一人に全て任せるつもりはないさ」とアレックスはザレクを見据えながら答えた。
ザレクは獲物を狙う捕食者のようにゆっくりと前進した。アレックスは瓦礫の中から見つけた小さな短剣を取り出した。それがザレクのような相手にはほとんど無力であることを知りつつも、少なくとも数秒間の猶予は稼げるだろうと考えた。
「勇敢だな、認めてやるよ」とザレクは剣を振り上げながら言った。「だが愚かだ。」
ザレクがアレックスに向かって直接攻撃を繰り出した瞬間、アレックスはかろうじて身を翻して攻撃をかわした。その際、小石を掴んでザレクの目を狙って投げつけ、一瞬彼の注意をそらすことに成功した。
「今だ、セレナ!」アレックスが叫んだ。
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その隙をついて、セレナは魔力を集中させ、巨大なエネルギーの網を作り出した。それはザレクを包み込み、彼を一時的に動けなくするトラップとなった。
「こんなものでは止まらんぞ!」とザレクは怒りの声を上げながら、網の一部を力で引きちぎった。
「あと少しだけ時間が欲しい…」とセレナは呟き、全身に強いオーラをまといながら最後の一撃に向けてエネルギーを溜め込んだ。
ザレクが網から部分的に抜け出したその瞬間、セレナは純粋なエネルギーの波を放ち、ザレクを壁際まで吹き飛ばした。
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ザレクはゆっくりと立ち上がり、ふらつきながらも笑みを浮かべた。「こういうのが好きなんだ…全力で戦える感覚を感じられる戦いが。」
その言葉とは裏腹に、彼の体は疲労と傷の痕跡を見せていた。セレナは息を切らせながらもアレックスに寄りかかり、彼がどうにか支えた。
「大丈夫か?」アレックスが尋ねた。
「ええ。でも、まだ終わっていないわ」とセレナはザレクを見つめながら答えた。ザレクは再び戦う準備を整えているように見えた。
アレックスは戦いが終わっていないことを理解していたが、初めて自分が何か小さくても役立つ存在だと感じていた。彼は新たな決意を胸にザレクを見据え、次に起こることに備えた。
数回の攻防の後、セレナは息を切らし、ザレクの魔法で強化された刀の刃による浅い切り傷や火傷が体中に見られた。
「どうした、魔女?」とザレクは彼女から数メートル離れたところで足を止め、嘲笑した。「これが君の全力か?こんなに早く疲れるとは思わなかったよ。」
セレナは歯を食いしばり、その目に怒りを宿らせた。「男になんか負けるもんですか、二度と。」
ザレクは興味を引かれたように片眉を上げた。「それが君の原動力か?面白いね。よし、そのトラウマを克服させてあげよう…ここで君を倒してね。」
ザレクが動き出す前に、アレックスがセレナの側に近づき、彼女の肩に手を置いた。その瞬間、なぜかザレクは動きを止めた。
「何をしてるの?」とセレナが苛立ちを隠さずに問いかけた。
「策がある。」アレックスは落ち着いたが決意に満ちた声で答えた。「君の魔法の限界は?自分を完全に覆うように使えるか?」
セレナは眉をひそめたが、アレックスの提案を頭の中で即座に整理し始めた。「できるけど、ものすごくエネルギーを消耗するわ。失敗したら、防御する余力もなくなる。」
「失敗しない。」アレックスは断言した。「僕が君の魔法を増幅させる。ザレクが攻撃してきたら、シールドを展開して。僕のサポートがあれば、彼の体は分解の効果に耐えられないはずだ。」
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セレナは一瞬迷ったが、すぐに頷いた。「わかった。けど、本当にうまくいくんでしょうね。」
二人の会話を見ていたザレクは大笑いした。「どうした?もう最後の策でも考えてるのか?可愛いもんだな。」
アレックスはその挑発を無視し、両手を挙げてセレナにエネルギーを送り込んだ。青い光がセレナを包み込み、彼女の体を覆い始めていた分解魔法のエネルギーと混ざり合った。セレナは目を閉じ、全身に魔力を広げることに集中した。
ザレクはその変化に気づき、興味深そうに首をかしげた。「今度は何を企んでる?まあいいさ、その魔法ごと叩き潰してやる!」
瞬く間にザレクはセレナに向かって突進し、刀を振りかざした。
セレナはその場を動かず、タイミングを見計らっていた。そしてザレクが十分近づいたその瞬間、彼女は分解のシールドを発動させた。全身が明るく輝く致命的なエネルギーで覆われた。
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ザレクは止まることができなかった。彼の刀はシールドに触れた瞬間に分解し、粉々に消えた。驚きの声を上げるザレクの右腕も、前腕からゆっくりと分解し始めた。
「こ…これはす
ごい!」とザレクは叫び、腕が完全に消えていく中でも笑みを浮かべ続けていた。
ザレクが後退する前に、セレナは魔力をさらに高め、衝撃波を放った。その力は彼を数メートル後方へ吹き飛ばし、壁に激突させて地面に倒れ込ませた。