ベンとウルリックと合流する。エドワードが顔見知りと会う可能性がある場所でやりたくないと言うので、その足で街を出た。
「街のはずれにさびれた山小屋がある。誰も使っていなければ、そこでやろう」
地の利を知っている人間というのは、なんと頼もしいのだろう。俺たちはルンルン気分で、それでいて妙な緊張感も抱きながら街を出て、山の方へを足を向けた。
山小屋は本当にさびれていた。山小屋というか、街道の途中に設置された休憩所みたいだ。超ラッキーなことに、誰もいなかった。
「鍵を閉めておいて。鍵がなければ、閂(かんぬき)か何かかませておいて。とにかく誰も入れないようにして。集中したいから」
エドワードはテキパキと指示を出した。
こんなヤツだったのか? 隅っこで黙っているキモオタのエドワードしか知らないので、今のエドワードは新鮮だ。
ドアには鍵が付いていなかった。外から適当な枯れ木を探してきて、開かないように内側から閂をかけた。
「よし。じゃあ、始めよう」
エドワードは小屋にあったテーブルの上に、どこから持ってきたのか、小さな鏡を置いた。
「女になった自分を見たいだろ?」
そして、バックパックから修道院でかっぱらってきた…もとい、いただいてきた服を引っ張り出した。先に着替えろという。これはウルリック、これはベン、こっちはクリスと手渡してくれた。
「女になってから着替えたら、自分の裸や君たちの裸を、なんの予備知識もなく、いきなり見ることになる。結構、ショックだ。だから、先に着替えた方がいい」
…。
ということは、エドワードは昨夜、自分で試してみて、衝撃を受けたということなんだな。
僧侶のローブを脱ぎ、シャツも脱ぎ捨てたエドワードの白い背中を見る。きれいな背中だ。シミ一つないし、毛もなくてツヤツヤしているので、女みたいだ。エドワードが男だと知らずに薄暗いところで見たら、女と勘違いしてムラッとしてしまうかもしれない。
いやいやいやいやいや
何を考えているんだ、俺は。
頭を振って邪念を振り払うと、俺も着替えた。下着はそのままで、深緑色のワンピースを着る。下からすっぽりとかぶるような形だった。足元がスースーして落ち着かない。
ウルリックは、やはりあの紺色のワンピースだった。ベンは灰色で裾の長い上着に薄黄色のロングスカート。よくこんなデカい女物の服があったな。
ウルリックはともかく、ベンは全く似合っていない。当たり前だけど。エドワードは白いシャツはそのままで、ズボンを紺色のスカートに履き替えた。
「股間がスースーして落ち着かないな。スカートってこんな感じなのか」
ウルリックがスカートの裾をつまんでひらひらさせながら言った。普段着ているローブも、似たようなものなんじゃないのか? ベンは固まっている。いや、もしかしたらすでに興奮しているのかもしれない。目がギラギラしているぞ。
「そうだなあ。じゃあまず、ウルリックからやろうか」
エドワードはウルリックに手を差し伸べた。
「よろしく、王子様」
ウルリックはこれからダンスをするかのように、エドワードの手に自らの手を乗せた。「もう一方も」と言うので、両手を乗せる。
エドワードはウルリックの両手を取ると、静かに語りかけた。
「目をつぶって。こんな女性になりたいというイメージを、明確に思い描いて」
おお。なんかポワポワとウルリックが光り始めたぞ。そして、外見が少しずつ変わっていく。ほほのあたりが多少細くなって、目元が優しくなった感じだ。
「どう? もうできたと思うけど」
エドワードは手を離して聞いた。
ウルリックはしばらく怪訝な顔をしていたが、突然、自分の胸をもみ出した。
「お! 女になってるぞ!」
びっくりした。声が全然違う。ウルリックは美形の割には野太いおっさんのような声だったのだが、今は甲高い女の声だ。
そうか。もともと美形なので、顔立ちはあまり変わらないんだ。今度は自分の股間をゴソゴソと触っている。
そりゃ、そこは確認したくなるよな。俺もそうするわ。
「ない! こうなると思っていたけど、やっぱりない!」
女の声でしゃべられると、なんだか本当の女に見えてくるから不思議だ。
「男に戻ったら復活するから、安心して。どこかで化粧ができればいいんだけど。ウルリックは美形だから、化粧すればきっともっと見栄えがすると思うよ」
そう言いながらエドワードは、続いてベンの手を取った。ウルリックは自分の顔を鏡に映して確認している。ふうんとかううんとかうなっている。満足したのか、していないのか。ちょっとよく分からない。
「痛みはないのか?」
ベンは少し腰を引き気味だ。
「今のところはないよ」
今のところって、どういう意味だ。ベンもポワポワとした光に包まれて、徐々に顔や体のラインが変わっていった。
おっ、すごい。ベンは巨乳だ。胸がすごい勢いで張り出してくるぞ。腰がくびれてお尻が丸まると大きくなって、あまり比べたくないけど、ベロニカみたいだ。
「一応、これで完了だ。これ以上やると、ちょっと体に負担がかかる。まずは、これでどうか確認してくれないか」
エドワードは昨夜、一体どんな人体実験を行ったのだろう。負担がかかるってどういうことだ?
キモオタ変化は、本来の姿とはまるで違うくらいまで変えていた。ウルリックは男時代を彷彿させるので、そこまで大きく変わっていない。骨格を大きく変えるとなると、何かマズいのかもしれない。
ベンは、残念ながら美人とは言えなかった。イカツい。だが、こんな顔のおばちゃん、見たことあるわ。赤毛の天パなのが救いだった。髪がきれいだと言って、ほめてくれる男がいるかもしれない。何より体型がだいぶ変わったので、十分に女性で通用する。
「おお…うぉう…」
ベンは何やら怪しい声を漏らしながら、自分のチチをもんでいる。自分の体とはいえ、いやらしい触り方だな。続いてエドワードは俺のところにやってきた。
「リラックスして。クリスはイメージできるかな? 自分の理想の女性が」
理想かあ。難しいこと言うな。