翌朝早く、俺たちがまだ眠っている時にエドワードが公園にやってきた。
「みんな起きて」
揺さぶられて目が覚めた。見ると、目の下にクマができている。色白なので、なおさら目立つ。
「徹夜したのか?」
大あくびしながら聞いた。
「うん、まあ徹夜に近いかな。やりすぎて記憶が何度か飛んだよ」
何をやりすぎたというのだろう。
「それで、できそうなのか?」
ベンが身を乗り出して聞いた。ウルリックは寝起きがすごく悪い。今も体を起こしてはいるものの、目はまだ閉じている。
「複数人数ができるかどうかは、やってみないとわからない。でも、女性化自体はできた。そう悪くないと思うよ」
エドワードは頭がいいのか悪いのか、時々わからなくなる。基本的に頭のいい、優秀な人間なのだろう。だが、その優秀さを間違った方向に使っているのではないかと思う時が、しばしばある。今回もそうだ。
「そうか。では、早速やろうじゃないか」
「ちょっと待って。こんな公衆の面前で女性化して、失敗したらマズいことになる。どこか屋内の方がいいな」
まずいことになるって、どういうことだ。昨夜、実験して失敗したのか。
確かに、失敗してものすごく気持ち悪い外見になったら、警察を呼ばれるかもしれない。それに、服装はどうする? ウルリックは魔法使いだから変えなくていいかもしれないけど、他の連中は女性っぽい衣装に変えた方がよくね? 特にベンは、鎧を付けていない時は胸元むき出しのシャツなのだ。これで女性化したら、露出狂みたいになってしまう。
「服はどうするんだよ。このままか?」
俺は、誰とはなしに聞いた。
「金がない」とベン。
「お前の剣を売ったらどうだ」
ウルリックがあくびをしながら言った。ベンは即座に「いやだ」と言うかと思いきや、考え込んでしまった。いやいや、お前が剣を売ってしまったら、冒険者として何も残らないじゃないか。
「考えがある。あまり気は進まないけど」
エドワードは立ち上がると、俺たちを促して出かける支度をさせた。
到着したのは修道院だった。
「修道院の中に古着を置いていくコーナーがある。要するにリサイクルだ。ただなんだ。そこから必要な服をもらおう」
ベンとウルリックは背が高くて目立つので、俺とエドワードで行くことにした。エドワードが「ライラに見つかりたくない」と言うので、フードをかぶった。
修道院を入ってすぐに右側の壁際に、大きな木箱が据え付けてあった。なるほど。たくさん古着が入っている。エドワードは迷うことなく手を突っ込んで選び出した。
盗賊は職業柄、目立たない服装をするのが通例だ。シャツに盗賊用ベスト、目立たない色のパンツにブーツ。同じような服ばっかり着ていて、選んだことがなかった。
あれこれ引っ張り出して見てみる。スカートって、俺にはどれくらいのサイズがいいんだろう。全くわからない。戸惑いながら、同時に何やら禁断の世界に踏み込んでいるような気がして、妙に興奮してきた。だが、選べない。困っているとエドワードが「これ、持っといて」と2、3着の服を押し付けてきた。広げてみると、1着は紺色のワンピースだった。長さからいってウルリック用か。
「さあ、行こう」
エドワードはさらに何着かの服を俺に持たせると、自分も数着の服を抱えて足早に歩き出した。確かに、こんなところライラに見られたくないよな。女物の服なんて何に使うんだと問い詰められたら、返す言葉もない。
「俺のは選んでくれたのか?」
エドワードは黙ってうなずいた。手際のいいヤツだ。