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第21話 擬態

 エドワードは魔法で擬態して、自らをキモオタにしていた。ならば、美少女にすることもできる(はず)。そして、自分をそうできるのであれば、他人にもできる(はず)。なら、ベースがかっこいい(かわいい)自分とエドワードが美少女に擬態すればいいのではないか?


 だが、そうすることでベンとクリスに劣情にまみれた(本当にこんなふうに表現しやがった)視線で見られるのは嫌である。そこで、いっそのことみんなで美少女になってしまったらどうか。エドワードの魔法で。


 ウルリックのアイデアは、簡単にまとめるとそんな感じだった。


 ああ、なるほど。新規に女子メンバーが獲得できないのであれば、要するに自分たちが女装して、女子のふりをすればいいというわけね。


 でも、それでいいのか?


 そもそも女子を加入させようとした理由は、女子がいれば、その子に対していい格好しようとして、俺たちのモチベーションが上がるというものではなかったのか? 女装した男を見て、そんな意欲がわくだろうか?


 わかんやろ!


 「ちょっと待って」


 俺より先にエドワードが口を開き、俺が言おうとしたのと全く同じセリフを言った。


 そうだ。ちょっと待てよ。今いるメンバーが女装したところで、モチベーションが上がるのか? エドワードの魔法がうまくいったとして、その美少女は所詮、ウルリックやエドワードなのだ。


 「異性に擬態したことがないんだ。他人にかけたこともない。うまくできるかどうか、わからない。今までの擬態魔法を調整してみるから一晩、時間をくれないかな」


 いやいやいやいやいやいや


 そうじゃないだろ!


 「ちょっと待てい!」


 エドワードが意外にヤル気満々だったのには驚いたが、根本的なところで間違っている。ここは軌道修正しないといけない。


 「女性に擬態したとして、それは結局、ウルリックだったりエドワードだったりするんだぞ。そんなニセ女相手に、俺たちが張り切ることができると思うか?」


 こんな簡単な勘違い、すぐに腑に落ちるだろうと思っていたら、そうでもなかった。ベンは腕を組んで目を閉じ、ウルリックは空を仰ぎ、エドワードは手を組んでうつむいた。


 えっ、なんで考え込んでるんだ? 何も考える必要はないだろう?


 「ダメ…かな…?」


 エドワードはうつむいたまま、小さな声でつぶやいた。しょんぼりした、白い横顔を見て、ドキッとした。


 えっ、俺はなんでドキッとしてるんだ? いま一瞬、エドワードがかわいいと思わなかったか? いやいやいや、そんなことはない。こいつは男子だ。俺と同じ。チ◯ポのついている立派な男子ですよ! ドキッとしたのは、気のせいです!


 だけど、ドキッとした瞬間に考えてしまった。エドワードが女装したら、かわいいんじゃないかと。


 色白で、ヒゲなんて1ミリもなくて、肌はツヤツヤしていてきれいだ。あごや首筋のラインが細くて女っぽいし、メガネをかけているからわかりにくかったけど、外すと二重のつぶらな瞳が美しい。魔法なんか使わなくても、化粧をしてロングヘアのかつらをかぶれば、十分に女に見えるだろう。


 「俺はエドワードが女装してくれたら、十分に頑張れると思うけどなあ」


 ウルリックが、俺が考えていたことをズバリと口にしたのでドキリとした。


 「だって、こいつは俺ほどではないけど、かわいいじゃん。女学生で通るぜ、きっと。で、そこに俺が扮する美女さまが並べば、お前らは興奮して、冒険どころではないというわけだ」


 冒険どころではなくなってしまっては、本末転倒ではないか? 俺たち冒険者だろ? 肝心なことを忘れてないか?


 と突然、ベンが立ち上がった。エドワードの方に向き直ると、深々と頭を下げた。


 「頼む。俺も女にしてくれ」


 え?


 何言ってんの?


 「これまでやったことがない魔法ということで、大変なチャレンジになると思う。だが、今回のミッションが成功するかどうかは、全てお前にかかっているんだ。エド」


 何か格好いいことを言っているようだが、ただ女装したいだけなんじゃないのか。悪いけど、お前が一番、似合わなさそうだ。デカいし、筋肉モリモリだし、顔だってもみあげモジャモジャで男臭い。


 「そして、クリス」


 ベンは俺の方に向き直った。


 「お前もやるんだ」


 は?


 「仲間である以上、お前も運命共同体だ」


 何言ってるんだ?


 「そうそう。いっそのこと、みんなで女子になって、女子オンリーのパーティーにしたらいいんじゃね? そうすれば、新たに女子を加入させないととか、そんなこと考えなくて済むだろう?」


 ウルリックの言い分は、妙に納得できた。だが、やはり根本的なところが間違っているような気がする。


 エドワードが立ち上がって、俺の方にやってきた。白くて細い手で、俺の手を取る。真っ直ぐな、真剣な視線だ。


 やめろ。また、ドキッとしてしまうじゃないか。


 「クリス、一緒にやってくれないか。君が一緒なら、僕は頑張れると思う」


 …。


 ああ、そうだな。


 そうだ、エドワード。お前の魔法で女になるのなら、後悔しない。


 そんな気がしてきた。不思議なもんだ。

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