「ああ、そうだ…。僕は臆病者だよ」
あれ? エドワードの声って、こんなんだったっけ? いつもブヒイとかデヒイとか言っていて、いかにもデブのくぐもった声を出しているのに、やけにクリアじゃないか?
エドワードを見て、俺は腰を抜かしそうになった。
そこに、キモオタという四文字が立って歩いているような気持ちの悪い生き物はいなかった。ブロンドの髪の、まだ少年の面持ちを残した少年…いや、何を言っているんだ。そう、少年だった。15歳くらいの。
眼鏡をかけているのは一緒だけど、白くて透き通るような肌、ふっくらとしたほほ、女子のようなピンク色の唇。気弱そうな印象を受けるものの、これが男子にふさわしいかどうかはともかく、かわいい。そして、何よりも違うのは、すっきりと痩せていることだ。
「エ、エドワードはど、どこに行った?」
ベンが目を丸くして驚いている。いや、それがエドワードだろう。俺も自信はないが。でも、そう聞きたくなる気持ちはわからなくもない。これは、あまりにも俺たちが知っているエドワードとは違う。
「僕がエドワードだよ」
その少年…エドワードは、少しうつむいたまま、でもはっきりとした口調で言った。
「えっ、でも、なんで? 何がどうなったの? 今までのエドワードは、どこ? 今までは、なんだったの?」
ウルリックも混乱して、何を聞いているのかわけがわからなくなっている。
「この子は、魔法であんな気持ちの悪い外見に化けているの。冒険者として外に出て行く時に、もうそれはやめなさい、自分の本当の姿で勝負しなさいって言ったのに」
ライラは鞭でエドワードを小突いた。
「だって、こんな痩せっぽっちの子供じゃ、誰も相手にしてくれないよ」
エドワードは消え入りそうな声で言った。
「だ〜か〜ら〜!」
ライラはピシッと鞭で床を打った。
「もっと自分に自信を持ちなさい! 優秀な僧侶なんだから。あなたがきちんと能力を発揮すれば、誰もあなたのことを馬鹿になんてしないわ。逆にそんな格好に化けている方がおかしいのよ!」
ああ、そうか。そういうことか。優秀なんだけど、こんな子供みたいな外見だから、みんなに馬鹿にされてパーティーに入れてもらえないんだ。だから、見栄を張ってあんなキモい見てくれにしていたんだな。
だけどな、エドワード。やりすぎだよ。キモすぎて逆に誰も近づいてこなかったじゃないか。
「ライラは何もわかっちゃいないんだ!」
エドワードは突然、大きな声を上げた。キッとライラをにらむ。
「能力を発揮するとかしないとかいう以前の問題なんだ! ああやって見た目を工夫しないと、僕みたいな青二才は誰も信用してくれないんだよ!」
なんだ。言われっぱなしじゃなくて、ちゃんと怒れるんじゃないか。立派なものだ。
だけど、言っていることの意味がわからない。あんなキモオタになっても、誰も信用してくれやしない。ライラの言う通りだ。間違っている。声をかけようと踏み出すと、俺より先にウルリックがエドワードの肩を抱いた。
「エド、まあ落ち着けよ。俺たちは、お前が優秀な僧侶だって知っている。あんなにキモい外見でもお前を放り出さなかったのは、お前の腕前を信用しているからだよ」
「ウルリック…」
エドワードはポッとほほを赤らめた。あ、なんかちょっとかわいいな。こいつ、男のくせにかわいいぞ。
「そうだ、エドワード。俺たちはお前のことを信じている。お前は素晴らしい僧侶だ。あんなキモい格好してなくてもな」
ベンも近寄ってきて、エドワードの肩に手を置いた。おいおい、俺も混ぜてくれ。
「エドワード、もうあんな格好をする必要はない。お前はとても優秀だ。これからも俺たちを助けてくれよ」
「クリス…」
なんだかエドワードを中心に、俺たちの絆が深まったような気がした。
「で、そこで、だ」
ウルリックはエドワードの肩から手を離すと、クルリとライラの方に向き直った。