「もう一杯、同じのを」
ジェシカはバーテンダーにグラスを差し出すと「なんだ、ナンパじゃないのか」と言った。
いや、ナンパのようなもんだけど。違ったのかな?
「今夜の相手を探しているのかと思ったよ。ちょっとうれしかったんだけどなあ。違うのか。残念だなあ」
ジェシカは椅子を回してこちらを向いた。
えっ、そんなつもりで俺の話を聞いていたのか?
シャツの胸元がはだけて、乳房の谷間が見えている。ベストを着ているので気がつかなかったけど、結構な巨乳だ。色っぽい。今からそういう話に切り替えても、全然構わないと思った。
「ごめんな。私、もうパーティーに参加しているんだ。そこで結構、大事にされていてな。今はここで、仲間が集合するのを待っているところなんだ」
あっ。
しまった。ついに「パーティーに参加済み」を引いてしまった。
「そうなんですか…」
俺は素直に残念そうにしてみせた。まあ、ここは取りつくろう必要もない。だって、もう終了なんだから。とはいえ、一瞬でも俺のことを夜のお相手として見てくれた彼女とこのままお別れするのは、名残惜しかった。
「まあ、なんだ。若いの。女がいないとヤル気が出ないというのは、女の私でも、わからないでもない」
ジェシカは新しいグラスを受け取ると、口をつけかけて、カウンターに置いた。
「腹減ったな。なんか食べる?」
そういうと、俺に選ばせる間もなくミートボールのパスタを大盛りで注文した。見ると、手元のピーナッツはもう食べ尽くしたようで、殻ばかりだった。
「異性がいるのは、確かにモチベーションになる。だけどな。逆にパーティー内の色恋沙汰が、トラブルの元になることもある。若くて血気盛んなうちは、なおさらさ」
そんな経験があるのだろうか。ジェシカは改めてグラスを口に運ぶと、茶色い液体を喉に流し込んで、ぷはぁと息を吐いた。
「1対4はバランスがよくないな。せめて2対4にしな。女同士で話せる相手がいると、だいぶ楽なんだ。理想は3対2だ。女が3で男が2な。女が少し多い方が、私の経験上、うまくいく。男の方が多いと、取り合いになって高い確率で殺し合いになる」
えっ、そうなんだ。
俺たちのパーティーにジェシカが参加したとして、野郎4人が殺し合いになるなんて、想像もできない。それは、未熟な俺たちだからなのかもしれないけど。
レベルを尋ねると、ジェシカは認定65だった。だいぶベテランだ。年齢も38だった。年よりもずっと若く見える。そう言うと「もうアラフォーだよ」と笑って、俺の背中を平手でバチンと叩いた。
その後、文字通り山盛りでやってきたミートボールスパゲティーを、2人で取り分けて食べた。
ジェシカはいろいろな話をしてくれた。駆け出しの頃は、クズみたいな連中とパーティーを組んでいたこと。だけど、喧嘩をしながらも一緒にやっているうちに、次第に噛み合っていったこと。今いる5人の仲間のうち、3人は最初から組んでいるメンバーだという。残り2人は死んでしまったので、止むを得ず新メンバーを入れたらしい。
「腐れ縁がいいパーティーを作るんだ。私に言わせればね」
ナプキンで口の周りのソースを拭くと、グラスに残っていたウイスキーをグイッと飲み干した。「おっさん、お勘定!」と言って、ポケットからしわくちゃの紙幣を取り出した。
「この坊やの分もだ」
えっ。
「坊や、言い忘れていたけど、パーティーに盗賊は2人も要らない。あんたと組めないのは、そもそもそういうことだよ」
ジェシカはそう言って、ポンと俺の肩に手を置いた。
「でも、今夜は話し相手になってくれて、楽しかった。今度会う時には、もっといい大人になっているんだよ。その時には、改めて誘っておくれ。もちろん、ベッドの相手としてな」
構える間もなかった。
ジェシカは俺にキスした。チュッと軽い感じじゃない。唇をぶちゅっと押し付ける、熱烈なキスだ。ウイスキーの味しかしない。酔っ払いそうだった。