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第14話 ジェシカ

 ソフィーに逃げられた後、俺たちは公園に行って、所在なく時間を過ごした。


 ベンはベンチに腰掛けてうつむきっぱなし。ウルリックは芝生に寝転がって、ずっと目を閉じていた。エドワードはベンの隣に座って、ハアハアとあえいでいた。


 考えた。どんな女子ならば、俺たちのパーティーに入ってくれるか。まずは俺たちよりもレベルの低い、仲間集めに困っている駆け出しの冒険者だ。だが、こういう女子に巡り合う確率はめちゃくちゃ低い。


 というのも、女子が冒険者としてデビューする場合、親や師匠が心配して、大抵はどこかの安心できるパーティーを紹介してくれるからだ。先輩が仲間に入れてくれたり、師匠がクエストに連れて行ってくれるというパターンも多い。


 では、俺たちよりもレベルの高い冒険者ならどうか?


 ベロニカとソフィーはそういうパターンだった。だけど、認定レベル20あたりというのは、これからもっともっとキャリアを積んで伸びていきたい時期で、俺たちみたいなビギナーに構っている余裕はない。


 もっと上ならどうだ。大先輩に近く、俺たちを引きまわしてやってもいいと思えるくらいのレベルの持ち主。少し年齢層が高くなるかもしれない。だが、美熟女という言葉もあるわけで、悪くないかもしれない。


 俺は年上の女性の方が、抵抗が少ない。前にも言ったけど、スティーブンさんのところで奉公していた時には、年上の女性…まあ、おばさんだな。が、たくさんいた。で、俺はよくかわいがってもらっていた。同年代の女子相手だと構えてしまうけど、おばさんくらいの歳の人ならば、話しやすい。


 夜が更けてから、街で一番安い簡易宿舎に行った。日が落ちてから行くと、昼間よりも宿泊料が割引になる。少しでも金はケチりたい。ここには共同シャワーもあるし、公園の噴水で体を洗った昨日に比べれば、ずっとマシだ。相部屋とはいえ、毛布も貸してもらえる。ベンのいびきを聞きながら、俺は次の作戦について考えを巡らせた。


   ◇


 翌日は朝から斡旋所に行って、また荷物運びの仕事をもらってきた。


 何をするにもまずは金が必要だし、次は夜に繰り出すことにしたからだ。中途半端に時間があると、また日の高いうちから酒場に行ってしまう。そうするとダラダラと夜まで酒場にいてしまって、時間がもったいないと考えた。もちろん俺の発案だ。効率のいいことは大抵、俺のアイデア。他のヤツからは出ない。


 ひと仕事終えた後ではヘトヘトになって、女子を口説く気力も残らないのではないかと心配していたけど、意外に大丈夫だった。夜の酒場は明かりがたくさん灯るので昼よりも明るくて、にぎやかだ。


 まずはテーブルを確保する。そして、ぐるりと店内を見渡す。おばさんと言ってもいいくらいの女性、レベルが高そうな女性、そしてできれば一人。もっと欲を言えば、俺と同じ盗賊ならばなおいい。これだけ条件があると、ピタッと当てはまる人物はいないんじゃないかと思っていたが、ラッキーなことにそういう感じを漂わせた女性がカウンター席にいた。


 30歳を超えていてもおかしくない見た目(おばさんなんて言ったら怒られるな)。俺と同じく、盗賊がよく着ている薄い革製のベストを着ている。使い込まれた感からして、レベル10とかではなさそうだ。というか、これくらいの年齢までバリバリと冒険者を続けているなら、もっと高いレベルに到達しているだろう。


 真っ黒の巻き毛をざっくりと後頭部でくくっている。太い眉毛と張ったあごがイカツい印象を与えるが、目がクリッと大きくて十分に美人と言っていいルックスだ。


 「お姉さん、隣の席、あいてますか?」


 俺は意図的に「お姉さん」と強調して、声をかけた。こうやって甘えるところから入れば、母性をくすぐることができるだろうという計算だった。


 「いいよ」


 彼女はカウンターに広げていたピーナッツのカスをかき集めて、場所を開けてくれた。


 「あまり見ない顔だね。ルーキーかい?」


 バーデンダーにグラスを掲げて「おかわり。同じヤツ」と言った。ウイスキーの香りがする。酒飲みか? 付き合えと言われたらどうしようと思いながら、ビールを注文した。


 「そうなんです。最近、レベル1をもらったばっかりで。あ、申し遅れました。俺、クリストファーって言います」


 ビールが来たのでジョッキを差し出すと、彼女も新たにウイスキーが注がれたグラスを差し出してきた。乾杯する。


 「ジェシカだよ。よろしく。こんなおばちゃんに声をかけてくるなんて、あんたも物好きだね」


 ジェシカは器用にクルクルとピーナッツの皮をむくと2、3個いっぺんに口に運んだ。


 2度の失敗で、まどろっこしいことをしても仕方がないということはわかっていた。俺は素直に、自分たちのパーティーに女子を加えたいという話をした。そして、うちのチームを引っ張ってくれないかとお願いした。


 ジェシカは俺の話を時々、鼻で笑いながら聞いていた。話が終わる頃にはグラスが空いていた。ペースが早い。こっちはまだ三分の一も飲んでいない。

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