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第5話 エドワード

 冒険者がどうやって稼いでいるかというと、もちろん冒険者というくらいなので、冒険で稼いでいるわけだ。


 で、どうやって冒険で稼ぐかというと、いわゆるクエスト=ギルドの命令に従って一定の仕事をこなせば、お金がもらえる。あるいは冒険先でアイテムをゲットしてきて、それを街で売ればお金になる。今回、俺が拾った木の杖も、売れば一人分くらいの昼飯代くらいにはなるかもしれない。


 「今回の冒険の戦利品は、俺が手に入れたこの杖くらいだぞ。一人分のメシ代になるかどうかもわかったもんじゃねえ。もっと稼がないと、冒険で死ぬより前に飢え死にしてしまう。わかってんのか?」


 少し口調を強めて言った。


 「まともに仕事しなきゃいけないのはわかるけどよう、なんかこう、やる気が起きないんだよなあ」


 ウルリックは頭の後ろで手を組むと、ゴロリと横になった。


 確かにこのパーティーの問題の一つに、モチベーションの低さがある。俺は違う。俺は早くレベルを上げて歴戦のパーティーに参加して、ガッポリ稼いでいい暮らしがしたいと思っているが、他の連中にはそういうのがあまりない。だが、俺はそれの解決法を知っている。これは確実に効果があると確信している。まだ結成して日が浅いけど、俺の観察眼は間違いない。


 「そうだな。やる気が起きないよな。わかるよ」


 ゆっくりうなずいてから、少し声を大にして言った。


 「俺たちのパーティーには、きっと女っ気が足りないんだ」


 なに…。


 ベンがつぶやいたのが聞こえた。


 ほーら、乗ってきたぞ。俺は知っているんだ。ベンがメンバーの中でも輪をかけて金欠な理由を。コイツは人と話ができないコミュ障のくせに、無類の女好きなのだ。ポポナの娼館の常連で、そこに金を突っ込んでいるから常時、金がないのだ。


 「女っ気か。なるほど…」


 ウルリックは横になったまま、あごをさすっている。


 コイツは無責任で厄介なことは全部、他の連中に投げようとするくせに、女に関してだけはそうじゃない。酒場に行っていい女がいれば食い入るように見ているし、ベンと違って堂々と口説きに行く。ただ、顔はいいが、中身はただのスケベおやじなので、最初は盛り上がっても、最終的には振られる。いい思いをしているのを見たことがない。


 「そうさ。パーティーには大体、女子メンバーがいるものだろ? その子の前でいいカッコをしたいから、張り切るわけじゃん? その子といい関係になりたいから一生懸命、稼ごうとするわけじゃん?」


 畳み掛けた。そうだ。ただ俺がリーダーになると言っても、このオス臭い連中は誰もついて来ない。だけど、女子を入れたらどうだ。まず、その女子が、もっとも理性的で頭のいいヤツの言うことを聞く。女子ってのはそういうもんだ。そうすれば他の連中も従う。そして、このパーティーでもっとも理性的で頭がいいのは、この俺だ。


 「いいね…女の子。いい…」


 ウルリックは、うっとりと夢見るように言った。そうだ。かくいう俺も、女の子は大好きだ。スティーブンさんのお屋敷にはたくさんの女性が働いていて、スティーブンさんはそれはそれはモテモテだった。うらやましてくてたまらなかった。俺の将来の夢はでかいお屋敷に住むこと(もちろん所有者として)だが、そこには美女を大勢はべらせるという、男なら誰もが抱くハーレムの野望が、もれなくついてきている。


 そもそも、だ。今、流行りのファンタジーでは、転生した先にヒロインになるべき美少女が確実にいるとしたもんだ。転生するかどうかはさておき、ヒロインがいないとファンタジーは始まらない。こんな18歳そこらの、世の中のことが全くわかっていない青二才どもが集まったところで、物語が始まる予感がしない。ウルリックのツラと俺のコミュ力をもってすれば、女子メンバーをゲットできる。できる…たぶん。自信はないが、うまくやっていくには、それが一番のような気がする。


 「だけど、誰か知り合いはいるのか? 女子の冒険者に」


 ベンが聞いた。何言っているんだ。それをこれからスカウトしに行くんじゃないか。お前は馬鹿なのかと言おうとしたところで、ウルリックが突然、起き上がって大声を上げた。


 「俺に任せろ! 女の子のことなら、俺に任せておけ!」


 …。


 ナンパが成功したの、見たことないんだけど? まあ、いいか。本人がやる気満々なのなら、まずは任せてみよう。


 「デシィッ、ブヒイッ!」


 そうそう。忘れていた。コイツが女子メンバー獲得の障害にならなければいいけど。


 焚き火のそばで丸まっているアイツ。エドワードだ。


 コイツも駆け出しの冒険者で僧侶なのだけど、見てくれが実に悪い。社会人1年目、18歳と聞いていたが、でっぷりと不健康に太っている。頭頂部はすでにハゲが始まっていて、脂ぎった顔はニキビだらけ。度の強い丸眼鏡をかけて、いつもなぜか半分口を開けて、ハアハアと息を切らせている。


 キモオタ。


 その言葉がピッタリと当てはまる外見だ。男の俺でも気持ち悪いなと思うことが度々あるので、女子ならば十人いれば十人とも、気持ち悪いと思うだろう。


 ただ、腕は悪くないんだ。最初のエセクエストでモンスターに出くわした時に、聖水を撒いて追い払ってくれたのはエドワードだった。治療魔法や明かりを出す魔法も使えるので、1年目の冒険者にしては悪くないと思う。それだけに、外見が悪いからという理由で追い出すわけにはいかなかった。


 とはいえ、コイツもベンと似たようなコミュ障なので参っている。たまに口を開けば、さっきの「デシイッ」とか「ブヒイッ」とかしか言わないし、暇さえあれば小さなスケッチブックに何か絵を描いていて、俺たちと話そうともしない。ああ、ちなみに絵はうまい。鳥や動物を描いているのだけど、本物かと見まちがえるほどだ。


 「よし、じゃあ、決まりだ! ポポナに戻ったら、女の子を探しに行こう! 俺たちのお姫さまを探しにな!」


 興が乗ってきたのか、ウルリックは立ち上がって拳を突き上げた。それを見たベンも「お、おう」と声を出している。


 まあ、待てよ。俺たち4人が集まるのでさえ、めちゃくちゃ大変だったんだぞ。そんなにうまくいくと思うなよ。まず、俺たちみたいな、ひと桁レベルの女子冒険者に出会えるかどうか。そこがポイントなんじゃね?

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