ヘトヘトになった俺たちは、日のあるうちにポポナに戻ることができず、野宿することになった。まあ、金がなくて、ポポナでも公園で寝起きしていたので、やっていることは一緒だ。ベンには全く呆れた。こんなヤツ、リーダーにしてはおけない。
で、最初の話に戻る。
盗賊がリーダーのパーティーなんて、聞いたことがない。だって、盗賊は裏方だからだ。そう、俺たちは大いなる裏方だ。宝箱に罠が仕掛けられていないか調べたり、ドアの鍵を開けたり。戦闘時に大した戦力にはならないけど、冒険には欠かせない裏方なのだ。
そんなヤツがパーティーの方針を決めたり、クエストを持ってきたりするのはおかしい。歴史を紐解いても、パーティーのリーダーとして有名になった盗賊はいない。やはり前線で一番、体を張っているヤツ=戦士がリーダーであるべきだ。俺もそこに異論はない。
とはいえ、このままではベンはまた盗み聞きした話を、いかにも自分の話のように持ち帰って、俺たちを落胆させるに違いない。
「おい、もうベンにリーダーは無理だ。これからは俺がやる。俺がリーダーだ」
俺は立ち上がると、焚き火を囲んでうつむいているメンバーを見渡して言った。みんな腹が減っているのか、先ほどからひと言も口をきかない。ベンに至っては、膝を抱えたまま寝てしまったのではないかと思うほど、身動きひとつしていなかった。
「は?」
ウルリックがのろのろと顔を上げた。何言ってんのお前、頭おかしくなったのか? 駆け出しの冒険者、それも盗賊がリーダーとか、意味わかんねえと顔に書いてある。
だけど、俺に言わせてもらえば、このなかで一番、リーダーの素養があるのは俺だ。まず、きちんとコミュニケーションが取れる。レベルを上げたいという向上心がある。そして、パーティーの連中を危険にさらしたくないという責任感もある。どれも冒険者ならば当然のごとく身につけておくべきもののはずだが、悲しいかな、他の連中にはそれがない。
俺は若いだけではなく、チビで冴えない。ウルリックのように顔がいいわけでもなく、出自がいいわけでもない。ちょっと自慢できるのは、いいところで修行させてもらったということくらいだ。
改めて紹介しよう。盗賊王スティーブンを知っているか?
そう、イースにお屋敷を構えている、あの盗賊王だよ。人のものをかっぱらったり、小銭を盗むために人を傷つけたり、そんな盗賊のマイナスイメージを払拭した、あの人だ。彼が数々の伝説的な冒険に参加して、欠かせない裏方として活躍したおかげで、盗賊は今や冒険には不可欠なメンバーになったんだ。
俺の親は仕立て屋だったのだけど、生活が苦しくて、俺を丁稚奉公に出した。その先がスティーブンさんのお屋敷だったんだ。スティーブンさんは優しい紳士だった。大きな屋敷に住んでギルドを経営して、多くの盗賊を育てていた。カッコよかった。俺も腕のいい盗賊になって、いつかこんなお屋敷に住むんだ。そう思って一生懸命、奉公した。
「ベンに任せていたら、いつまともな仕事にありつけるかわからねえ。ポポナに戻ったら、俺がクエストを探してくる」
ベンも顔を上げた。腑抜けた顔をしていやがる。恰幅がいいので、暗い酒場で見かけたら見栄えがするが、こうして暗い森の焚き火のそばで見ると、しょうもない若造だ。まあ、俺も人のことは言えないが。
「クエストを探す前に、腹一杯、メシが食いてえ」
ベンは消え入りそうな声で言った。俺たちはいつも金欠だった。だって、冒険で成果を上げてないんだから。