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第3話 ベンチュラ

 ベンは本名はベンチュラという。言いにくいから、みんなベンと呼んでいる。こいつが問題のリーダーだ。


 戦士で剣の腕はいいのだが、頭が悪い上にコミュ障なので困っている。なんでそんなヤツをリーダーに指名したのかって? 知らないよ。俺が行った時には、すでにそうなっていたんだから。


 ウルリックは無責任なヤツなので、おおかた自分がやりたくないから、ベンにおっかぶせたんだろう。とにかくベンは、俺が合流した時にはすでにリーダーだった。赤毛の天然パーマで、ほおとあごにヒゲを生やしていた。体は筋肉モリモリで大きくて、いかめしい顔つきなので18歳だとは思わなかった。貫禄があったので、最初はこいつがリーダーだと紹介されても、全く違和感がなかった。


 「クリストファーだ」


 本当は「パーティーに入れてくれてありがとう! 感謝感激! 死ぬほど働くから期待してくれよ!」と叫びながらキスしたいくらいうれしかったけど、なめられないように平静を装って手を出した。その手をチラリと見たベンは、大きな体からは想像もつかない小さな声で「うっす」と言った。


 なんだコイツ、もったいぶりやがって。だが、重ねて言うけど、ぜいたくは言えない。ようやく入れた初のパーティーだ。せいぜい俺のキャリアアップに役立ってくれよ。その時はそう思った。


 ところが、ベンは全然、ダメだった。パーティーを代表して酒場で情報収集するなり、ギルドに行くなりしてクエストをもらってくるのはリーダーの大きな役目の一つなのだが、それができない。


 恥ずかしがり屋といえば聞こえはいいが、とにかく知らない人と話ができないんだ。仲間を探していたウルリックがたまたま声をかけたから一緒になっただけで、そうでなければ死ぬまで酒場の片隅で誰とも話をせずに座っていただろう。


 いや、それならまだいい。黙って何もしない方が、まだいくらかマシ。ベンは何がまずいって、中途半端に聞きかじった他人のクエストを、まるで自分のもののように俺たちに吹き込むんだ。


 アイツはパーティーのメンバー以外と話ができない。だけど、中途半端にリーダーだという自覚はあって、クエストを入手しようとする。


 どうすると思う?


 なんと、盗み聞きだ。酒場で隣のテーブルの話を耳ダンボにして聞いてきて「クエストをもらってきた」と言って俺たちに話した。それが1回目。当然、聞こえなかった部分があって情報が足りない。適当なダンジョンに行き、あるはずのない財宝を探し、会わなくてもいいモンスターに遭遇し、命からがら逃げ帰ってきた。もちろん、戦利品はナシ。俺が社会人になった時に、親から就職祝いでもらった薬草を無駄に使っただけだった。


 「おかしいじゃないか。本当にあのダンジョンだったのか?」


 俺とウルリックに詰められて、ベンはあっさりと盗み聞きだったことを認めた。頭おかしいのか? リーダーのくせにメンバーの命を危険にさらすなんて。コイツと組むのはやめた方がいい。俺の直感が早々とそう言った。だけど、苦労してやっと結成したパーティーだ。一度くらいの失敗で、すぐに見切りをつけるわけにはいかない。


 「次は俺たちで、クエストをゲットしに行こうぜ」


 俺はウルリックに言った。だけど、アイツはイケメン顔に薄笑いを浮かべて「それで失敗したら、俺たちのせいになるだろ?」と抜かしやがった。レベル0の俺が一人でギルドに行って、まともに仕事がもらえるわけがない。仕方がなく、ベンのケツを叩いて、改めてクエストを入手してこさせた。


 「今度は盗み聞きじゃないだろうな?」


 「違う。本物のクエストだ」


 念押しした。ベンが持ってきたのはイースの城壁内にある、とあるダンジョンでの仕事だった。地下5層にグリーンジュエルがたくさんあるらしく、それを最低でも2袋、持ち帰ってくるという任務だった。グリーンジュエルは魔法使いが魔力を復活させるために使用するアイテムで、いかにもギルドが依頼しそうな仕事だ。イースの城壁内というのもよかった。だって、城壁の外は手強いモンスターだらけだから。魔族がうようよいて、俺たちみたいなレベルひと桁の冒険者が行くところじゃない。


 ところが、これもウソだった。行ってみると、グリーンジュエルは一粒もなかった。すでに誰かが探索した後なのか、モンスターすら出てこない。スムーズに地下5層に到達できたのはうれしかったけど、がらんどうの洞窟を見た時には自分の目が信じられなかった。


 「本当にこのダンジョンなのか?」


 再び俺とウルリックにガン詰めされたベンは、また盗み聞きだったことを簡単にゲロった。クエスト紹介窓口の担当嬢に声をかけられず、他の冒険者が紹介されている内容を耳ダンボで聞いてきたという。大方、その人たちがもう仕事を終えた後だったのだろう。


 ダンジョンは意外に遠くて、金を持っていない俺たちはロクなものを食わずに入ったので、腹ペコだった。手ぶらでは帰れない。帰り道、ダンジョンのクレバスをのぞき込んでいたら冒険者の死体らしきものを発見したので結構、命懸けで俺が探索しに行った。魔法使いっぽかった。単独でダンジョンに入って、足を踏み外して落ちて、ここで死んだのだろう。杖を持っていた。なんてことはない木の杖だが、売れば少しばかりの金になるかもしれないと思って、持ち帰った。

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