目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第136話 魔力操作の練度を高める訓練・その②

 個人勢にもこんな実力者がいたのね、と獄寺ちょこは内心思っていた。2度目の深層とは思えないくらい落ち着いている。


 まあ実際のところは、日置ササルが美織同様、マイペースであまり動じない性格だからにつきるのだが。


「んっ。このケーキうまっ。あら、ごめんなさい、はしたなかったわ。」

 ケーキのあまりの美味しさに、思わず素が出てしまう獄寺ちょこ。


「確かに、とても美味しいですね。」

 美織は普段の話し方が基本敬語な為、自然にお嬢さま風の話し方が出来ている。


 魔力操作は動きながらだと難しいものだ。慣れない上品な仕草をしながらというのは、戦いながらとはまた違った繊細な集中力を必要とする。


 特に紅茶のカップの持ち手を、指先だけでつまんで持たないといけない、というマナーが存在し、これがかなり難しいのだ。


 魔力を抑え込みながら、優雅に見えるよう指先だけに魔力を集中してカップを持つ行為は、最早一種の格闘技だと言われている。


 紅茶を波立たせないように、液体にも魔力を通す必要がある。しかも魔力のコントロールが難しい深層でだ。訓練としては理にかなっているのである。


 美織はともかく、獄寺ちょこは既に全身がプルプルとし始めている。ひとつひとつの動作が緩慢になり、ケーキをすくうのにもひと苦労だ。


 マナーとしては外れているが、ティーカップを手にしたまま魔力を通すのがこの場にいる条件なので、常に全身の筋肉に、余すとこなく電気で刺激を受けている状態に近い。


:無差別格闘技を極められそう

:ティーカップや皿で戦いだしたらまさにそうw

:ら●ま1/2にありそうだなw

:魔物と戦わないのに、静かなバトルが繰り広げられとるw


 ふと、自分たちと日置ササルの違いに気が付く獄寺ちょこ。美織と獄寺ちょこは、魔力をおさえる鍛錬に加えて、ティーカップを指先だけでつまむ鍛錬も、紅茶を波立たせない為の魔力コントロールも行っている。


 これが全身の魔力を抑え込む鍛錬よりもきついのだ。だが、執事役の日置ササルは、紅茶を飲まないので、その必要がない。


 全身の魔力を抑え込む鍛錬だけを行えばいい状況だ。

「まさかあんた、この為に質執事役をかってでたの?」


 日置ササルのやっている鍛錬と、美織と獄寺ちょこがやっている鍛錬とでは、体感で、まっすぐ立ったまま微動だにしない訓練と、指先だけで逆立ちして揺れないようにする訓練くらいの違いがある。


 微動だにしないのにも神経を使うが、指先だけで逆立ちの比ではない。

「なんのことでしょう?お嬢さま。」

 しれっとそう言う日置ササルに、


「〜〜!!あんたも紅茶飲みなさいよ!上に行くつもりなら、鍛錬は必要でしょ?」

 と、素に戻る獄寺ちょこ。


「わたくしはお嬢さまの側仕えという大切な役目がございます。お嬢さまとテーブルを同じくして、紅茶を飲むなど、とてもとても。」


「ぐぬぬぬ……!この辛さの犠牲者を増やしたい……!横で涼しい顔されてるの腹立つ〜!卑怯者めぇ……!」


「どうしたんですか?ちょこさん。今日はお嬢さまと執事のコンセプトなので、日置さんが紅茶を飲みだしたら、執事役がいなくなってしまいますよ?」


:優雅さの欠片もないなwww

:やはり獄寺ちょこにお嬢さまは無理だった

:他の配信者もやってたけど、ティーカップ指先だけで持つのって、結構キツイ鍛錬らしい

:なるほど、だから日置はシレッと執事役におさまったのかw

:つらそうなのちょこタンだけだなw

:いおりんはさすがの余裕だわ

:妖精が指先にとまるのって、高濃度の魔力によって、探索者の血を妖精が好む、魔力を帯びたダンジョンの水と同じに感じるかららしいな

:それ海外の探索者のショートで見たわ。日本人でやれたの、いおりんが初じゃね?

:だから魔力操作に失敗して、このまま凶暴化すると、奴ら血をすすりやがんのか

:ファンシーさの欠片もねえな


「くっ……!結構きついわね、これ。そろそろ限界かも。まだなの!?」

 今日の目的がまだ果たせていない為、まだ耐えていなくてはならず、獄寺ちょこがプルプルし始めた。


「頑張ってください、ちょこさん。ほら、ついに小人たちまで出て来ましたよ。」

「やった……!耐えたぁ〜……!」


 安心しないと出て来ないと言われる、小人たちが転げまわりながら、楽しげに遊んでいる光景まで配信にのせることが出来、今日の目的が達成出来て、ようやく開放される。


 小人たちが出て来るまで耐えられれば、一流の探索者と言われるのだ。コメント欄に拍手が飛び交う。撮れ高としても訓練としても、上出来な中配信を終えたのだった。


 欲しい素材やアイテムによっては、これを倒すこともあるわけだが、その場合一気に彼らの目の色が真っ赤になり、ギャップによる恐怖映像が広がることにもなる。倒す時は配信に乗せられないな、と思う美織だった。


────────────────────


この作品は読者参加型です。

アンケートが出たらコメントお願いします!

見てみたい配信内容も募集しています。


X(旧Twitter)始めてみました。

よろしければアカウントフォローお願いします。

@YinYang2145675


少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。

ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?