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第134話 立ち入り禁止のダンジョン

「実力を証明……、ですか。」

「ええ。今回は救出ではなく、ボスの討伐だから、あなたの参加の許可申請の為に、国に映像を提出するのだそうよ。」


 ギルド女神の息吹に呼び出された美織は、机を挟んで立ちながら、テーブルの向こうの椅子に腰かけた阿平にそう説明を受けた。


「今回の“異界の門”討伐クエストには私も呼ばれたわ。ダンジョン協会は出来る限りSランクを集めるつもりのようね。まあ、が出たと言うなら無理もないけど。」


「お父さんも呼ばれたって言ってました。お父さんの参加前提で、討伐隊のメンバーが組まれるんだって言ってましたね。」


「帰って来て早々、ほんとに人使いが荒いわね。いくら強制力があるとは言え……。前回の補償だってまだでしょうに。」


「1位の義務だからなって、お父さんは納得してるみたいです。お母さんにも既に話したみたいで、お母さんは心配してましたけど。」


「そこにあなたも入れようって言うんでしょう?そりゃあ心配よ。ましてやあなたはまだ高校生なんだから。」

「そこは申し訳ないですね……。」


「それこそあなたがコッソリ高難易度ダンジョンに潜っていたと知られたら、お母さまも卒倒するでしょうね。」

 そう言いつつ阿平は笑った。


「一緒に潜ったことのある私は、あなたの実力を知っているから、まったく心配はしていないけど、探索者でないお母さまには、それがわからないでしょうしね。」


「お父さんは、ま、だいじょうぶだろ、って笑ってましたね。」

「高坂さんはそうでしょうね。むしろあなたについて来て欲しいでしょうし。」


「そう言ってました。私がお父さんの作ったデバフの魔道具を、常に身に着けて戦っていたことも、すぐに見抜いてましたし。」

「さすがね。」


 と阿平は苦笑した。

「今回実力の証明に選ばれた場所は、政府が管理している朝霞ダンジョンよ。自衛隊の駐屯地があるところね。」


「誰もクリア出来る人がいなかったところですよね?危険過ぎるから、探索者が立ち入り禁止になったって言う。」


「ええ、そうね。──これはチャンスよ。今回の実力証明には、私たち女神の息吹が同行するわ。ここをクリア出来れば、うちの評価が上がる。任せて欲しいとずっと打診していたのを、断られていたのに、まさかこんな風に任されるだなんてね。」


「なにがいるんですっけ?」

 美織の質問に阿平がニッコリと微笑む。

「ホーンモビーディックよ。」


 ホーンモビーディック。白鯨という小説を、もとに名付けられた、角のある巨大な白い鯨のような魔物だ。


 エリア自体が海水となっており、ほぼ足の踏み場がなく、戦いにくいステージだ。

 深淵までしかないダンジョンだが、深淵の中でも高難易度とされている。


「これを倒せるくらいじゃなきゃ、今回の“異界の門”にいる魔物の討伐は無理ってことでしょうね。お父さまの目撃した魔物の情報が本当だとするなら。」


「父が確認しているので、間違いないと思います。」

「まあ、私も疑っているわけじゃないんだけど。まさか日本にが出るなんてね。」


「でも、倒したことのある、メイソン・オーシャンさんが参加して下さるわけですし。」

「“仮面付き”じゃないほうでしょう?仮面がある場合はそっちが本体よ。」


 阿平はテーブルをトントンと指で叩く。

「本当なら、国家転覆クラス以上がもう少し欲しいところだわ。だけど協力的な人は一握りだし。……あの国の本当のナンバー1、アイリス・オーシャンが無事ならね……。」


 阿平は指を組んで顎を乗せ、溜息をつく。

「あなたは覚えてる?あの事件のこと。」

「テレビで少し……。突然眠り続けて目覚めなくなる奇病ですよね?」


「ええ。当時アメリカ政府としては、アメリカナンバー1がそんな状態になっているだなんて、隠しておきたかったんでしょうけど、探索者になれない人たちだけにかかる奇病と勘違いされていたから……。」


 各国政府は解明要求をされ、国民に突き上げられたが、患者の共通性がなかった。探索者もかかるのだということを把握していたのは、当時のアメリカ政府だけだった。


 アメリカナンバー1ですら、罹患するのだということを公表したことで、未だに原因は特定されていないものの、世論はひとまずの落ち着きをみせたのだった。


「彼女は国に協力的な数少ない災害クラスだったわ。“異界の門”の討伐クエストに、彼女がいてくれたら良かったんだけど。……言っても仕方がないわね。」


 阿平は再び溜息をついた。

「頑張ります。入ってみたかったんです、立ち入り禁止のダンジョン。」

 そう言って美織はニッコリと微笑んだ。


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