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第130話 ポンコツヒーロー、ガイル・ジャスティス

「みんな!よく来てくれたな!俺!ガイルが今日は松戸ダンジョンをクリアしていくぜえ!楽しみにしてくれ!」


 ヒーロー系ダンチューバーのガイル・ジャスティスが、画面の前でガッツポーズをして、視聴者にアピールしている。顔まですっぽり覆うマスクを身に着けているので、顔をうかがい知ることは出来ない。


 中層までしかクリア出来ないが、見た目を実際に変身したように見せられる魔道具を用いて、飛び回る装備をその場で身にまとい、変身してパワーアップしたかのように見せる演出で、それなりに視聴者がついている。


 ヒーローに憧れる永遠の厨二病、ポンコツヒーローと、ネット民にあだ名をつけられているが、本人はいたって純粋にヒーローである自分を楽しんでいる人物だ。


 本人的にはロボットに乗るタイプの変身ヒーローに憧れているが、実際そんなものが用意出来たとしても、いくら天井が高いと言っても、ボス部屋でもない限り、ダンジョンの中で乗り回すことが出来ないので、配信で見せることは難しいが。


 今日も中層で、魔物を敵の組織が襲ってきたていで戦うところを見せている。その後ろを、画面に写り込まないようにしながら、美織と獄寺ちょこと日置ササルが通り抜けた。


「……面白い方がいましたね。」

「あー。ガイル・ジャスティスさんね。

 変身ヒーローがモチーフのダンチューバーだよ。」


「ダンVtuberじゃないのね?」

「コスプレしたいんじゃないかな?」

 獄寺ちょこの問いに、日置ササルが答える。


「なるほど、色んな方がいるんですね。」

 妙に納得しながら、美織たちは目的の深層へとたどり着いた。


「……ヘンですね?」

 たどり着くなり、美織が首を傾げる。

「なにが?」


「ダンジョンの壁が不安定な感じがします。ここは出来たてのダンジョンじゃないのに、です。」

「それがほんとならおかしな話ね。」


「やめとく?まだ配信も開始しちょらんし。3人いるとはいえ、深淵だし、俺も深遠はやってみたかったけど、何があるのかわからんのがダンジョンじゃし。」


 ちょいちょい出てしまう方言を取り混ぜながら、日置ササルが言う。

「うーん、そうですねえ……。」

 美織が考え込んでいた時だった。


 ダンジョンの壁が突然蠢き、巨大な空洞をぽっかりとその場に開いた。

「何!?なにがおきてんの!?」


 ぽっかりと開いた穴の向こうには、もう1つ部屋があるかのように、短い通路を経てデコボコとした茶色い石壁の空間が見えていた。


「──魔力が流れこんできます!この濃度はおそらく出来立てのダンジョンです!」

「え?どういうことなん?」


「このダンジョンのすぐ横に、別のダンジョンが出来たようです。それがダンジョンとして安定する過程で、ここと繋がったみたいですね。」

「そんなことあんの?」


「出来立てのダンジョンというのは変化を繰り返すもので、安定するまでは形を変えると言います。その過程で近くに別のダンジョンがあれば、こういうこともあるかと。」


「急いでダンジョン協会に報告せんと。どんなのが出て来るかもわからんし、帰ろう、2人とも。」

「そうしましょう。」


 だがそうはいかなかった。地上につながる出口が、別のダンジョンとつながったことで塞がれてしまったのだ。

「ちょっと……なんなのよこれ。」


「仕方がないですね、他にもつながっているところがあるかも知れません。こちらの穴から地上に向いましょう。不安定なダンジョンを下手に刺激は出来ませんし。」


 安定したダンジョンであれば、穴をあけて通ることを考えるところだが、自分たち以外の人間も大勢いる場所で、どんな影響を与えるかもわからないのに、その手段は取れなかった。


 美織たちは、ぽっかり開いた穴から、地上へと向かうことにした。ダンジョンがグラグラと急に揺れて、変化している最中であることを知らせてくる。


 中層で配信をしていたガイル・ジャスティスも、それに気がつくと、いちはやく人々を救出する為に、ダンジョンの中を駆け回って声をかけていた。


「異常事態が起きている!みんな早く地上へ逃げるんだ!」

 下層に首を突っ込んで声をかける。


 先程後ろを通り過ぎた人間をちらりと目の端で見ていたが、それらしき姿はない。深層以下に行ったのかも知れなかったが、さすがにガイル・ジャスティスには行かれない。


 救える命だけでも救うと心に決めて、避難誘導を優先した。ガイル・ジャスティスが地上に出た時、ダンジョンの入口近くの地面がボコッと隆起した。


 小さな女の子を連れた母親の前に、ダンジョンからあふれでたゴブリンたちが、棍棒を手にニタアッと笑っていた。


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