「そんな……。帰って来たばかりなのに、もう少しのばせないの?」
美音は胸に拳をあてて、心配そうに夫を見つめた。
今日は美音の仕事が休みで、子どもたちを学校に送り出したあと、夫婦で今後について話をしていた。
「本来あそこを塞ぐ為に派遣されたんだ。塞げないままいったん帰って来てしまったからな。おそらくすぐに新たな討伐隊が組まれて、そこに参加することになるだろうな。」
依織は美音のだしたコーヒーカップを手に持ちながら目線を落とした。
「……。」
「それとだ。」
依織はコーヒーを一口飲んだ。
「おそらく今回は美織も参加することになるだろう。今回のことで確実に戦力に数えられている。そこは覚悟したほうがいい。」
「そんな……。知らないうちにあなたを救出する部隊に入っていたことにも驚いたけれど、あの子はまだ高校生なのよ!?」
「日本じゃ高校生は戦力外にしているが、海外じゃ珍しくもない。ましてやあそこのボスは、今いる国内の戦力をすべてかき集めても倒せるか疑わしい。」
「……そんなにすごいの?」
「そもそもが特殊過ぎる。権藤に聞いたが、美織のスキルであれば、それをどうにか出来るかも知れないんだ。今回は俺も進言して、事前に許可を取ろうと思っている。」
「許可?あの子が参加する許可?」
「いや、──配信の許可だ。」
「配信の許可……?」
「美織のスキルは配信前提らしい。国の依頼によるダンジョン討伐は、本来配信不可だが、配信前提のスキルであれば、討伐に必要な物資を手配するのと同義だ。」
依織はコーヒーカップをテーブルに置いた。
「国も許可を出すしかないさ。俺が加わって倒せないなら、海外に金を払って依頼するしかない。それか、美織のスキルの為に配信を許可するか。その2択だ。すくなくとも現地にずっと閉じ込められた俺は、日本の今の戦力では不可能だと思っている。」
「そんなところに美織を……。探索者としてのあなたの判断はわかったわ。でも、親としてはどうなの?娘をそんな生きて帰れるかわからない場所に放り込むつもりなの?」
「生きて帰るためさ。スキルのことがなくとも、俺はあの子に背中を預けたい。自分が生きて帰る為には、あの子の力が必要だ。今度は亡骸で帰ってくるかも知れない。俺が生きて帰れたのは、奴に挑まなかったからだ。」
「……。」
「日本には国家転覆クラスと、その上となる災害クラスの人材がいない。少なくとも海外のSランク20人以上か、国家転覆クラスがいないと、アレは倒せない。」
「美織ならそれが出来るとでも?」
「俺はそう思っている。少なくとも俺より既に実力が上だ。お前も今のうちに覚悟しておくんだ。あの子はいずれ、この国のトップとして、国家間の争いに巻き込まれるだろう。」
「……探索者なんて……許すんじゃなかった。そんなことになるなんて……。」
美音は組んだ腕に額を付けてうなだれた。
「あの子なら普通に生きていても、俺くらいのランクにはなっていたことだろう。そうなれば、強制的に探索者として徴収される。それなら最も条件のよい状態のほうがいい。」
「……どうにも出来ないの?それこそ、海外に移住するだとか……。あなたなら他の国からも引き抜きの依頼があるでしょう?」
「どこの国に逃げたところで、探索者の有用性をどの国も認知している時点で、扱いは同じだ。それなら国も顔色を伺う立場になれる、国家転覆クラス以上のほうがいい。」
「国家転覆クラスとか災害クラスって……そんなに凄いの?娘がそんな存在だなんて、正直信じられないわ。」
「俺には到底なることは出来ないが……。Sランクが30人集まっても、勝てないのが国家転覆クラスだ。その国家転覆クラスが何十人集まろうと勝てないのが、災害クラスだ。」
「美織が……それに……。」
「国家転覆クラス以上になると、国に手綱は握れない。どんな大国の兵器を集めても、勝つことが不可能だからだ。」
依織はコーヒーを飲みつつ言う。
「そいつらがいることで、一気にG7が、G13まで増えただろう。小さな国でも大国になれる。それが国家転覆クラス以上の探索者が国に所属するということだ。」
そこにカタン……と音がして、依音が扉を開けて目を丸くしていた。
「あら、おかえりなさい。」
「おかえり、依音。」
依音は振り返って自分に向けて微笑んでいる男性の顔を見て驚愕していた。サッパリと髪を切り、ヒゲを剃った男性の顔は、とんでもないイケメンだったからである。依音はそれをキラキラした目で見ていた。
「え?……あの、はじめまして?」
「どうした?依音、お父さんだぞ?」
「お父さん!?こんなカッコいい人が、依音のお父さん!?」
依音は依織に飛びつくと、
「こんなカッコいい人が本当に依音のお父さんなの!?」
と喜んで抱きついた。昨日とうってかわった態度に、少し困惑する依織。
ちらりと妻の顔を見ると、
「……あなたは本当に、私にそっくりね……。」
と、少し頭が痛そうにそう言った。
その後帰って来た美織は、突然父に懐きだした依音を見て、心配いらないようだとホッとしていたが、依織と出かけたがる依音に、夫婦は戸惑っていたのだった。
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依音と美音は依織の顔がどストライクです。
美織は美音にも似ていますが、依織とも似ている為、特に思うところがありません。
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