「お前……美織か?」
妻の面影のある少女を見て、依織はそう呟いた。美織は父親の顔がわからないのか、キョトンとしたままだ。
自分たちの仲間に傷を追わせた依織を、再警戒人物として、スノープリンセスたちが一斉に襲い出す。
「……まったく、再会を懐かしむ暇もねえな。」
依織はそう呟くと、双剣で吹雪の鞭と氷柱を撃ち落としながら、美織の横に並んだ。
「美織、だな?」
「──その声、お父さん?」
美織がハッとしたように言う。
「そうだ。久しぶりだ──なっ!!」
話している間にも飛んでくる、スノープリンセスの攻撃を撃ち落としつつ言う。
「お前まさか、俺の言いつけ通り、アレをつけたまま戦ってるわけじゃないだろうな?」
「え?うん、訓練になるからって……。」
「腕だけでいい、はずせ。ここに向いながらお前の戦いぶりを見ていたが、俺たちだけならまだしも、他の奴らが危ない。スノープリンセスの冷気はここの気温よりも体を冷やす。深部体温が一気に下がって、回復魔法程度じゃおっつかなくなって死んじまう。」
「……わかった。外すからちょっと相手しててもらってもいい?」
「了解!!」
美織が無防備になってしまう間、依織がスノープリンセスの攻撃を引き受ける。
美織の両腕から、雪をへこませて重たい何かが落下する。
「準備OK。いくよ、お父さん!」
「左は任せた!」
依織はそう言って、右側のスノープリンセスに飛びかかって行く。
何かを両腕から外した美織の動きは、先程までと比べ物にならない素早さを見せた。
一撃で1体のスノープリンセスの魔核を切り裂き、もとの体を保てなくなったスノープリンセスが霧散する。
それに驚いたのか、一瞬動きが止まったのを、依織は見逃さなかった。真横に真っ二つに切り裂かれた、スノープリンセスの体の内側から現れた魔核を破壊する。
ドロップ品を残して、2体目のスノープリンセスも霧散する。
「あっと言う間に2体を……。」
「なんなんだ、あいつらの規格外の強さは。俺たちが束になっても、逃げるのがやっとだってのに……。」
「あれが高坂依織。国内に7人しかいない、Sランク探索者の中で、1位の男だよ。」
権藤がそう仲間に告げた。そしてその娘はおそらく父親以上であると思っていた。
「さっきなにかを外したよな。重りみたいなもんか?ひょっとして今までそれをつけて戦ってたって言うのか!?」
「高校生の女の子が、それをつけてなお、あの動きが出来るなんて……。」
おそらく依織が以前日頃から使っていた、依織お手製の、力を抑え込む為の魔道具だろうと権藤は思った。
常にデバフ状態にして、普通のダンジョンであっても難易度が上がるようにする為のもの。依織のレベルが上がるに連れ、ひとつの魔道具では抑え込めなくなっていき、その数は年々増えていっていた。
おそらく他の場所にもつけている筈だ。そんなものをつけてなお、1体であれば倒せる自信があったのだ。
いや、自分たちを逃がす目的がなければ、5体ですら外さなくとも倒せたのかも知れない、と権藤は思った。
依織を抱きしめにかかったスノープリンセスの上から、更にもう1体のスノープリンセスが、動きを止める為に凍てつく吐息を上から降り注ぐ。
美織は飛び上がると、依織の肩を蹴って更に飛び上がり、上空から凍てつく吐息を吐くスノープリンセスを大上段から切裂き、姿を現した魔核を横一線に切り裂いた。
「よくやった。」
自分を抱きしめようとしていたスノープリンセスを倒しつつ、依織がニヤリと笑う。
「──さあ、あとはお前だけだ。」
最後の1体になってしまったスノープリンセスは、思わず吹雪の姿になって逃げようとしたが、
「逃がすかよ!」
「行かせません!」
美織と依織が左右から斬りかかり、美織に切られて魔核をさらしたところを、依織が魔核を切り裂いて、アイテムがドロップした。
美織は雪の上に落ちて、吹雪いてきた雪に隠されそうになっていた腕輪を拾うと、腕に装着し直した。
依織はドロップしたスノープリンセスのアイテムを拾って確認していた。
「まあまあいいもんを落としたな。」
そうニヤリと笑って、マジックバッグにそれをしまった。
「俺を迎えに来てくれたんだろう?さあ、帰ろうじゃないか。」
依織がそう声をかけるまで、呆然としていた救助隊は、わっと歓声をあげた。
「……まさか生きているとはな。」
「死体を回収するつもりだったか?」
声をかけてきた権藤に、依織が笑う。
「いや……、諦めてはいたが、お前なら万が一にも生きていてくれるんじゃないかと、期待する気持ちも捨てられなかったよ。」
権藤は少し泣きそうになりながら微笑み、
「……おかえり。」
「ああ、ただいま。」
依織はそう言って目を伏せた。
「それにしても、お前の娘は凄いな。お前と同じ、デバフ装備を付けてずっと戦っているとは思わなかったよ。」
「やり方は教えたが、鍛えてやれたのは小さい時に少しだけだ。まさかこんなに強くなっているとはな。」
「間違いなくお前の血さ。」
凍えかけている救助隊を、祈りの指輪で回復しながら談笑している美織を見つめながらそう話す、権藤と依織。
「それにしても、お前凄いな。ここが冷えているせいで臭いが伝わりにくい筈なのに、それでも臭いぞ。」
「そうか?毎回綺麗にはしてたんだがな。」
「……お前が生きていた時の為に、生活魔法の込められた魔石を持って来たんだ。使ってやろう。」
「ああ、助かるよ。帰った途端家族に嫌がられそうだ。」
権藤が魔石を魔道具に込めて使うと、べたついた髪や肌や服が、一瞬で綺麗になった。
「美織、まずは家に帰ろう。母さんの飯が恋しい。」
「私のハンバーグも食べてよ。私の料理も食べてくれる約束だったでしょ?父の日に作る約束だったのに、お父さん約束やぶって帰って来てくれなかったんだからね?」
「ああ、そうだったな。腹壊さないもん作れるのか?」
「あー!ひどーい!」
まるでつい数日家をあけただけかのように、普通に会話をしながら、美織と依織は家に帰ったのだった。
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なお、妹とはほぼ初対面なので、これから関係の構築が大変なのは依音のほう。
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