目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第124話 意思を持つ雪

 権藤は約束通り美織に連絡をくれた。本来なら未成年の探索者は捜索隊に入れられない決まりだったが、ダンジョン協会が美織の実力を保証し、戦力に数えたいと進言したことで、美織の参加も決まった。


 美織は母親には父親を探しに行くことは黙っていることにした。期待させるわけにはいかない。死んでいる可能性のほうが高いのだから。そう思ったからだった。


 1000人を越す捜索隊が組まれることとなり、現地には大勢の人間が集まった。“異界の門”の内側は過酷な環境であり、下手に少人数で動くと行方不明者の二の舞いになる可能性があるからだ。


 Aランク以上の実力者を1チームに2人以上配置し、ある程度まとまった人数で行動することになった。美織は権藤と同じチームに配属してもらえた。


 知らない人間ばかりだと落ち着かない美織は、それをありがたいと感じた。

 1チーム50人。20チームに別れて美織の父親を探す予定だ。


 山の中を徒歩で登っていくと、森の中にその入口はあった。太い幹の中央が、蛍光黄緑色に光ってうろのようになっている。


「本当に開くんだろうな……。」

「1度閉じた“異界の門”が開いたなんて話は聞いたことがないぞ……。」


 “異界の門”について多少は知っているらしい上級探索者たちがそう囁く中、美織はビビットの教え通り、光るうろに可変の鍵を差し込んだ。


 すると、光る木のうろがグニャグニャと動き出し、渦を巻きだした。

「“異界の門”が開いたぞ……。」

「本当にそんなアイテムがあるのか……。」


 どうやらこの渦が回転している状態が、“異界の門”が開いている状態らしかった。鍵のほうでなく、鍵穴のほうが回る仕組みらしい。


「“異界の門”は再び開かれた。さあ、みんな気をつけて、チームごとに入るんだ。まずは俺たちが先に入る。入口に魔物が待ち構えていることもあるからな。」


 Aランクの探索者がそう言い、20人で中に飛び込んで行った。そして1人が顔を出すと、


「だいじょうぶだ、何もいない。中は吹雪エリアだ。用意してきた装備に着替えてくれ。」

 と告げた。救助隊はマジックバッグから出した対雪山装備を身に着けると、順番に救助隊がうろのなかに飛び込んでいく。


 1度Aランク探索者も10人が外に出て対雪山装備を身に着け、また中に戻り、交代で10人が外に出て、対雪山装備を身に着けて中に戻った。


 美織と権藤も対雪山装備を身に着けて中に入った。中は視界もまともに確保出来ない猛吹雪だった。はぐれないよう、たがいの体をダンジョン用の強化ロープでつないで進む。


 こんな視界では戻るのも大変そうに感じるが、入口が閉じない限りは出口の方向は常に感じ取ることが出来るらしい。


 実際少し離れても、出口がどこだか感じることが出来たので、美織をはじめとした初めて“異界の門”に入った探索者たちはホッとしていた。


 チームごとに別れて、土が出るまで雪を掘ったり火魔法で溶かしたりして、遺体がないかを調べつつ、ゆっくりと進んでいく。


 調べ終わった場所には、場所を示す魔道具を設置する。これは初めて潜るダンジョンを調べる際にも使用されるものだ。


 位置を一定時間、ダンジョン協会が作った探索者用の地図アプリ上に表示してくれる。ダンジョン協会が探索済みのダンジョンは、その記録をもとに地図を公開している。


 ダンジョンは迷路になっていることも多い為、安全に戻れるようにする為のものだが、今回は調査済みであることを示すために使用している。


 その為歩みは遅いが、大人数で一気にやっている為、1度に広範囲をしらみ潰しに調べることが出来ていた。


 当然のことながら、こんなにすぐに見つかるとは誰も思っていない。黙々と、淡々と、単純作業として雪を掘り返していた。


「──!?」

 同じように作業をしていた美織は、何かを感知してバッと顔を上げた。


「どうした?」

 スコップを手にした権藤が顔を上げる。

「何かが……集まってきます。」

「なんだ?何も感じないが……。」


 “異界の門”はそれ自体が強い魔力の集まった場所の為、それにかき消されて、かなり近付いてこられないと魔物の気配を感じ取ることが出来ない。


 だから雪を掘ったり溶かしたりする人間とは別に、四方に見張りを立てている。

 だが数センチ先が見えない吹雪に、あまり見張りが意味があるとは思えない。


「──なんだあれは!?」

 捜索隊の1人が声をあげ、指を指す先に、とぐろを巻くように集まっていく吹雪。


 それが巨大な塊になった時、さすがに他の人間たちにもそれが意思を持つ魔力の集まりであることが感じ取れた。


「……なんてこった。こんなやつまでいるなんて……。」

 それは能面のような顔をした女の姿をしていた。スノープリンセスと呼ばれる魔物。

 別名を雪女と称される、高難易度深淵級の魔物だった。


────────────────────


この作品は読者参加型です。

アンケートが出たらコメントお願いします!

見てみたい配信内容も募集しています。


X(旧Twitter)始めてみました。

よろしければアカウントフォローお願いします。

@YinYang2145675


少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。

ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?