ダンジョンに潜る為には、最初は必ず企業もしくはギルドに仮所属しなくては、潜る許可がおりないものだと教わった。
つまり、中学生の時点でいずれかの組織に所属していた記録があるのだ。また、それを教えてくれた人物は、USHCが剣呑寺いおりに取引を持ちかけていたことを教えてくれた。ドロップ品の内容から言っても、確実に取引したと思われる、とも。
そこで再びUSHCのサポート部隊の男に取引記録を調べるよう指示をしたのだが、アメリカが本社のUSHCは、セキュリティが厳しく、アクセス権限のない自分には、情報を持ち出すことは不可能との回答が返ってくるばかりだった。
ならば権限のあるものを籠絡せよ、と命じたのだが、それはそちらでやってくれ、自分の出来る範囲以外の仕事は受けない、と、臨機応変な対応を拒否されてしまった。
──これだから外資は。と秘書は思った。日本の社畜であれば、範囲がどうのこうの関係なく、命ぜられたことを言われるがままに動くものを、と。
仕方がなしに、引き続き調査を続けていると、過去の配信アーカイブで、剣呑寺いおりがギルド女神の息吹に所属していたことを、ギルマスの阿平沙也加自身が認めたコメントがあることが判明した。
秘書はニヤリとする。ギルドであれば情報管理は1企業よりも甘くなる。さっそく女神の息吹に人を送り込み、剣呑寺いおりの取引記録、及び在籍時の情報を探るよう、指示をした。
……だが結果としてそれは失敗に終わった。ギルド女神の息吹は、学校から探索者候補を送り込むのに最も優良だと言われるギルドの1つであった。
その理由の1つが徹底した情報管理にあった。ギルド女神の息吹は育成能力に定評があり、そこで育った人間を引き抜こうとされたことが過去に大量にあったのだ。
それゆえ所属する人間の情報や、販売記録情報に関するセキュリティレベルは、一般のギルドの中では高い方で、作業する人間と上席の2段階認証がなければ情報を確認することが出来ない。
また美織の実力を認めていた阿平沙也加により、早々に美織の情報は特殊な管理条件下のもとに置かれていた。これは阿平沙也加を含む女神の息吹の1部の人間しか知らない。
つまり阿平沙也加の承認がないと閲覧出来ないという、3段階認証なのである。可能性があるとすれば、剣呑寺いおりがドロップ品を販売に来た時に、個人情報を都度提出する際、それを盗み見るというものだ。
これには上席の許可は必要ない。事務員が身分証などを受け取り、コピーを取って、データを入力するまで事務員の手元に書類が存在するからだ。剣呑寺いおりが女神の息吹を通じてドロップ品を販売しにきたということだけは、事実として掴むことが出来た。
コピー機もコピー後に即データを消去するタイプを使用している為、コピー機を操作して情報を得るということも出来なかった為、潜入した人間は、剣呑寺いおりが再びドロップ品を売りに来るのを待っていた。
だが美織は遅々として現れなかった。あれ以降、ダンジョンに潜る配信をしていなかった為、売りに来るものがなかったのだ。
その為功を焦った潜入者は、上席のパスワードを盗み見ることで入手し、剣呑寺いおりのデータにアクセスを試みた。
すると1分後に、にけたたましいエラー音がパソコンから響いた。阿平沙也加の承認が必要な3段階認証であることを知らなかった潜入者は、剣呑寺いおりの情報にアクセスすると、阿平沙也加のメールアドレスにURLが飛び、そこに阿平沙也加がパスワードを入力しないと、不正アクセスと判定されるという事実を知らなかった。
「ちょっと……、いいかしら?」
後ろに阿平沙也加が立っていた。潜入者はただちに捕まり、まずは警察ではなく、ダンジョン庁の専門部署に護送された。
探索者の問題はデリケートな為、所轄の警察署では手に負えず、まずはダンジョン庁でその犯罪を明確にし、証拠を揃えて、それから警察に引き渡されるという仕組みだ。
トップ探索者の情報は、国内外において重要な秘匿事項とされている。ダンジョン庁でも先日のUSHCの配信はチェックしており、剣呑寺いおりを特別な探索者として位置づけていた。
そして調査の結果、依頼元がさる大物政治家であることが判明したが、探索者の情報を調べたというだけでは、罪に問うことが難しかった。しらを来られれば終わりだ。
そこでダンジョン庁はライバル政治家数名にコンタクトを取った。そうして、その政治家の後ろ暗い部分を暴き、それを元にその政治家の逮捕へとこぎつけたのだった。
「へえ、鎌ケ谷議員、汚職で逮捕ですって。クリーンなイメージで売ってたのにねえ。」
美織の母美音は、TVを見ながらそう呟いた。TVは鎌ケ谷議員の闇献金問題、公費での売春問題、大学設立支援の見返りに賄賂を受けた件などを報じていた。
美織の指で、祈りの指環がキラリと光る。祈りの指環を奪おうとする人間には呪いが降りかかる。それが鎌ケ谷議員にどこまでの影響を与えたかを、美織は知る由もなかった。
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