奈落の魔物は、現時点で倒せる人間が殆どいない。倒す場合も、大勢でチームを組んで挑むもので、美織のようにソロ討伐出来る人間など、それこそまことしやかに都市伝説のように囁かれる、噂の範疇を出ない。
実際には存在するが、美織のように配信をしているわけではないので、討伐の様子を目撃した人間がいない為、自分たちより確実に強いのはわかるが、奈落ソロ討伐など、話を盛っているのではないかと思われている。
その為奈落の魔物のドロップ品が市場に出回ることは少ない。出るとしても世界規模のオークションで落札しなくてはならない為、手に入れることが難しい。
ギルドや企業に所属している探索者がチームで倒す為、組織を通じて売られるからだ。そこに個人間での交渉の余地はない。
また、奈落の魔物がドロップする品は、すべからく希少で貴重な物ばかりだった。
その効果がわからずとも、奈落の魔物のドロップ品というだけで、最低価格が数百億と言われる世界だ。
美織個人との取引であれば、その最低価格で購入出来る可能性もある。効果もわからないまま、USHCが確保に動いたのもそうした理由からだった。
だからこそ、美織がソロ討伐したネクロマンサーのドロップ品は、配信にのったことにより、世界中の注目を集めた。
USHCのサポート部隊の男は、今、銀座ダンジョンから帰宅途中の美織と獄寺ちょこのあとをつけていた。
サポート部隊はいえ、深層に潜れる上位探索者だ。それなりの速度で人を追いかけることが可能だった。だが。
「……誰かついてきてるわね。たぶん、美織のその指環目当てじゃない?」
美織の自宅近くのダンジョンの、銀座ダンジョンに通じる強制転送魔法陣は一方通行だった為、並んで帰宅途中、獄寺ちょこが美織にそう話しかける。
「やっぱりそう……ですかね?」
「まきましょ。ここで解散ね。」
「わかりました、ではまた明日!」
そう言って、美織と獄寺ちょこは別々のルートにわかれ、一気に速度を上げた。美織の速度が誰も追いつけないレベルなのはもちろんのことながら、獄寺ちょこの移動速度強化のスキルは、当然逃げにも特化している。
2人のどちらについていくか迷い、美織をおいかけたUSHCのサポート部隊の男は、途中で見失い、失敗しました、とトークアプリで報告せざるをえなかった。
必ず家を突き止めろと言われたUSHCのサポート部隊の男は、後日美織の配信で、現在いるダンジョンを特定し、そこに向かって配信を終了させるのを待つと、今度は獄寺ちょこのあとをつけた。
美織の自宅でなくとも、獄寺ちょこの自宅をつきとめ、家族を脅せば、獄寺ちょこを大切にしている美織に、言うことをきかせられると思ったからだった。
だが獄寺ちょこの移動速度強化にも追いつくことが出来なかった。美織も獄寺ちょこも、日頃配信に姿をのせない、ダンVtuberというやり方で配信をしている。
当然その姿を人々が知らない為、身バレすることなく、そこから自宅を特定することが難しかった。
おまけに2人とも個人勢の為、所属しているダンチューバー事務所や、ギルドや、企業を通じて、素性を明らかにするという方法をとることも出来なかった。
可能性があるのは、美織がかつてドロップ品を販売したことのある、ギルドや企業だ。売却費用を振り込む為には税務申告がつきまとう。そこで個人情報を提出する必要がある為、当然そこには美織の情報が眠っている。
USHCのサポート部隊の男は、それ経由で調べてみてはどうか、と提案をした。どちらにせよ、自分ではあの2人を捕まえることが出来ない、と。
ブチギレた返信がトークアプリに返ってきていたが、自分にはこれ以上どうしようもありません、と返信するほかなかった。
USHCのサポート部隊の男に依頼をした秘書は、自分の雇い主にその旨を報告した。
「そうか。なら売却履歴から探らせろ。奈落のドロップ品はダンジョンの中だけで有効なものじゃない。日常生活でも、持っているだけでその者に幸運と加護を与えるとされている。奪うことで手に入れられる唯一のチャンスだ。必ずこの手におさめるのだ。」
奈落のドロップ品を手にした者たちは、全員これまで以上の成功をおさめ、身の危険が及んだ際も、そのドロップ品が助けてくれたとされている。
敵が多く、その身に危険が及ぶことも多い為政者ほど、奈落のドロップ品を欲しがるのだ。秘書はダンジョンに詳しい者に、探索者の素性を確認する為の手段を尋ねた。
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