「え?配信で、剣呑寺いおりのロリガワを使ったの?」
「うん、急遽依音を配信に出すことが決まっちゃって……それで仕方なくね。」
「なんだ、美織が使ったってわけじゃないんだ。早くお披露目すればよかったのに。」
「ロリで話すとかどうしたらいいのかわからないよ~!」
「ロリの人の放送見て勉強すればいいじゃん。いくらでもお手本転がってるでしょ。」
「私がやりたいのはキャラ配信じゃなくて、ダンジョン攻略なんだもん。」
「はいはい、人前が怖いから、ダンチューバーじゃなくダンVtuberを選んだんだもんね。美織じゃ無理か。」
そう言って奈央が笑う。
「それで、ルカルカとコラボなんでしょ?」
「うん、食べる配信だけコラボするのかなって思ったんだけど、タイラントクラブを狩るところをこっちでやるみたい。」
「確かにダンVtuber配信に慣れていない人たちのところで、美織を映さないように撮影ってのは難しいかもね。」
「そういうもの?」
「あんたの配信機器は、あんたの動きについてこれるように、お兄ちゃんが特別仕様のものをくれたのを忘れたの?普通の配信機器じゃ、体に貼ったシールの動きに反応して、剣呑寺いおりを動かすのは無理だって。」
「そっか、それで食べるほうだけは、ルカルカさんのチャンネルになったんだ。」
「まあ、食べるだけなら異常な動きにはならないものね。普通の機材で平気じゃない?」
「そっかなら良かった。」
「……でも、気を付けなね?あんた今、すっごい時の人だよ?有名になるってことは、いいことばかりじゃないんだから。」
「うん……そうだね。私としては、ダンVtuberの配信か、ドロップで、お母さんを楽させてあげられるくらい稼げたら、それでじゅうぶんなんだけどなあ。」
美織はため息をつく。
「それも見えてきたんじゃない?ドロップ、するようになったんでしょう?」
「うん、アンケート頼りだけどね。」
美織は僅かに微笑んだ。
「あんたの実力なら、ドロップさえあればトップランカーなんてすぐよ、すぐ。ま、頑張りなさいな!」
奈央が力いっぱい背中を叩いてきたので、食べていたものが器官につまってちょっとむせてしまった美織。それを慌てて、ゴメンゴメンと言いながら背中をさする奈央。
「この間のラミアのドロップで、探索者ランクがようやく1つ上がったんだ。」
「そっか!おめでとう!ギガントミノタウロスのドロップもあったんだし、またすぐに上がるんじゃない?」
「うん、阿平さんはそう言ってた。」
「友人がトップランカーになったら自慢だわ~。」
「まだ気が早いよ。」
美織は慌てて手を振った。
「美織はいつだってそうやって謙虚なんだからなあ。既にトップランカーの実力があるのに、ドロップがなかっただけじゃない。」
「わ、私より強い人なんてたくさんいるよ?」
「本気でそう思ってるのは、正直ちょっとタチが悪いわよ……?」
奈央がジト目で睨んでくる。
「まあともかく、配信楽しみにしてるわ。初のコラボ、楽しんでらっしゃい。」
「うん、ありがとう。」
親友に背中を押されて、ステンレスボトルのコーヒーを手にしながら、美織は嬉しそうに笑った。
夕方、ルカルカと落ち合って、お互い丁寧な挨拶とお礼を言い合い、浦安ダンジョンへと移動した美織は、ダンジョンに潜ってタイラントクラブの出て来る中層まで移動した。
ここは地下にも関わらず、明るい日差しがさしているように見える砂浜で、なんならヤシの木のようなものまで生えている場所だ。
「こんいお~!今日は中層でタイラントクラブ狩りです!今日はなんと、前回の配信で急遽決まりましたゲストがいます!」
「ルカルカフィーバー!ルカルカです!今日はいおりちゃんとタイラントクラブ狩りということで、とーっても楽しみにしてます!」
ルカルカが配信で手を振っている。実写のルカルカと、Vtuberのガワ姿の美織が並んで配信に映っているのは、なんとも不思議な光景である。
「ルカルカさんは、タイラントクラブの身肉目当てなんですよね!」
「はい、実は私、タイラントクラブの身肉にちょ~う目がなくて!」
ルカルカが両手の拳を握って胸の前に当てることで、物凄く好き!という気持ちをポーズで現していた。
「以前2度ほど、ソロ狩りでと、ギルドの狩りに同行した時に食べられたんですけど、めっちゃくっちゃ美味しいんですよ~!」
「なので、今日もしアンケートでタイラントクラブの身肉が出たら、みなさんそれを選んで下さいね!美味しそうにタイラントクラブを頬張るルカルカさんが見れますよ!」
楽しそうに配信を開始する美織たちを、遠くから監視する影がひとつ。オペラグラスを使って、その様子を覗き見ていた。
「予定通り、狸穴琉夏もいるわね。100万人越えダンチューバーと、話題の剣呑寺いおり。相手にとって不足はないわ。今日はこのあたしが派手に祭りにしてやるんだから。」
迷惑系ダンvtuber獄寺ちょこが、顔に身バレ防止の仮面をつけて、自らの配信開始ボタンを押した。
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