「はーい、そのまさかです!単独でミノタウロス狩ってみた!始まります!
アンケートが出ますので、そしたらお肉の選択よろしくお願いしますね!」
カメラが美織の指差す先、ダンジョンの奥でウロウロしているミノタウロスを、配信画面に映し出した。
:うわああ!マジだ!めっちゃミノタウロスいる!
:おい、一体でも危険だっての!
:早く逃げろ!
「お肉……、私のお肉……。」
美織の頭には、既にミノタウロスの肉を食べることしかなかった。
──横一線!美織の剣が走る。
一瞬で真っ二つになるミノタウロス。
:え
:え
:何今の、何が起きた!?
:まさか……倒したわけじゃないよな?
「はい、倒しましたよ?」
:嘘だろ!?下層だぞ!?
:なんで一撃なんだよ!
「えーっとですね、魔物をじっと見てるとですね?あ~、ここに核があるな~っていうのがわかるんです。そこを狙って攻撃すると、一撃で倒せるんですよ!」
美織はコメントがあることに嬉しそうにそう説明をするが、コメント欄は混乱中だ。
:う、うそだろ……
:だからって見抜けるかっての!
:こないだルカルカの配信で一撃で倒したように見えたのは、見間違いじゃなかったってことか?
「この間ですか?はい、一撃でしたね!」
こともなげに美織が言う。
:嘘つけ!一撃で下層倒す奴なんて、上位ランカーでも見たことねえぞ!?
:これは夢だ、これは夢だ……
「そうは言っても、私いつも一撃なので……。皆さんは違うんですか?」
キョトンとしている美織。
その頃には切り抜き班が、女子高生ダンVtuber、下層一撃!と切り抜いた動画を、絶賛拡散開始していた。
:切り抜きから来ました
:下層で無双している女子高生がいると聞いて
:上層だって一撃で倒せる高校生なんていないっつの!
「え~と……、過去の配信アーカイブをご覧いただければ、常に一撃なのはわかるかと思いますので、ご覧いただければ……。
切り抜き!切り抜き師さんたちありがとうございます!切り抜きからいらしゃい!」
美織は嬉しそうに画面に手を振った。
「今日はミノタウロスのお肉目当てです!私の配信画面にアンケートが出たら、必ずミノタウロスのお肉を選んでくださいね!」
そう念を押すことを忘れなかった。
「ドロップがなかったので、次、いきます!
てやあっ!」
そして再び一撃で屠られるミノタウロス。
「うーん、ドロップしませんねえ。アンケートが出ない……。確定の筈なのになあ。」
と美織は呟いた。
:お、俺は何を見せられているのだろうか
:ミノタウロスが目の前に現れたんだ。次の瞬間奴は姿を消していた。
:ミノタウロスなんていなかったんや
次の瞬間、奥のほうから、ズシーン……、ズシーン……という、地響きのような音が聞こえる。雲のように集まった霧の間から、ひときわ巨大なミノタウロス──ギガントミノタウロスが姿を現した。
:おいやべえって!
:ギガントじゃねえか!
:ギガントミノタウロス!?ファ!?
:ミノタウロスならともかく、ギガントミノタウロスなんて、上位のランカーでも単独じゃ挑まねえっつの!!
:逃げろいおりん!
だが美織は目をキラキラさせると、
「おっきなお肉きたああ……。」
とよだれを垂らしそうな顔で言い、地面を蹴って上空高く飛び上がった。
浮遊タイプの自動追尾配信機器が、その速度に追いつけず、カメラの向きだけを美織に向ける。配信画面には物凄い速度で飛び上がる美織の影だけが映っていた。
:え?消えたんだが?
:どこだ?いおりん
:いた!上空にいる!
浮遊タイプの自動追尾配信機器が美織に追いつこうと空を飛び、配信画面は上空から刀を振り下ろす体勢で落ちてくる美織をとらえた。美織の刀が迫ったことを感知し、サッとその軌道からズレて背後を映し出す。
「てやあああああ!」
美織を見失っていたギガントミノタウロスめがけて、美織の一撃が刺さる。次の瞬間袈裟懸け切りに切られたギガントミノタウロスの体が、ズルッとずれ落ちて消えた。
「やりました!ブイッ!」
美織が配信画面に向けてVサインを決める。配信画面のコメントは止まっていた。
「あ、あれ?配信途切れちゃったかな?」
美織がそう呟いた時だった。
:うおおおおおおおおおおお!やりやがったあああああああああああ!
:ギガント一撃!ギガント一撃!
:切り抜き班ここだ!仕事しろ!
:いおりん凄い!
:全部一撃マジだったのか!
急に配信画面にコメントがダーッと流れ出した。あまりのことに信じられず、一瞬コメントが止まっていたのだった。
腕に装着出来るタイプのスマホホルダーに固定された、スマホの画面が光る。
するとスマホの画面には、美織がまだ内容を打ち込んでいないにも関わらず、再び、
【確定ドロップアンケート。
1.ギガントミノタウロスの堅角(ドロップ率1.7%)
2.ギガントミノタウロスのシャトーブリアン(ドロップ率0.8%)】
と書かれたアンケートが、配信画面に表示されていたのだった。
「来た!お肉です!
皆さんわかってますね!?お肉!お肉ですよ!アンケート回答お願いします!」
美織はワクワクしながらそう言った。
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