「どうしたんですか?
みなさん様子が暗いような……。」
俺は久しぶりにおすそ分けを持って、アエラキを紹介がてら、近所のラグナス村長の村を訪ねたのだが、どうにもラグナス村長をはじめとする村人たちの様子がおかしい。
「夏でもないのに、このところ毎日毎日、日差しがキツくてねえ……。育てている野菜が弱ってしまってるんだよ。
水をかけても余計に駄目でね……。」
ああ。
この村の畑は特に日陰が少ないからなあ。それでなんだろう。マジックバッグからアエラキを出して紹介しようと思ったのだが、なんだかそれどころではない空気だ。
それにこの世界の空に浮かんでるのは太陽ではないかも知れないが、同じように熱を地上まで届けているのだと思う。
熱で熱くなりすぎた土に水をまいても、熱湯に浸しているようなものだ。植物は死んでしまう。
それに種から水やりで育てると、そもそも雨と違って量が少ないために、地面の奥深くまで水が浸透しない。結果として水のある土の表面にしか根っこをのばさなくなってしまう。だから栄養の吸収が悪い植物が育つという悪循環だ。
苗で植える時は根っこが土に定着するまでじゅうぶんな水分が必要だから、しっかり水をまいたほうがいいんだが。
自分たちの食べる分を育てているだけで、みんな他のことで稼いでいるというから、あまり農業に関する知識がないのかも知れないな。俺も別に専門家ではないが。
「最近まったく雨も降らないしでねえ、川から水をくんでくるのも一苦労だし、困ったものだよ……。」
みんな頭を抱えているようだった。
「ソドバやらポスタなんかは、近くにたくさんはえているからね、それで食いつないではいるけれどね……。」
ソドバはノビルのような植物で、ラポスタはからし菜のような植物だ。
「このあたりにもはえているんですね。」
「ああ。どこにでもあるからね。たくさんはえてはいるが、それでもそろそろ取り尽くしてしまいそうだよ。」
ラグナス村長がそう言った。
「──あら、ジョージ、いらっしゃい。」
そう言って、孫娘のアーリーちゃんの手を引いたマイヤーさんが、村の奥の木の間から笑顔でこちらにやってくる。
「こんにちは。やあ、アーリーちゃん、きれいなお花をつんできたんだね。」
アーリーちゃんが手にしている花を見てそう言うと、アーリーちゃんはコックリとうなずいた。
「今日はね、新しい子が我が家にきたから、みんなに紹介しようと思って連れてきたんだけど、その子ともお友達になってくれるかな?もちろんカイアも連れてきているよ?」
そう言うと、大人しいアーリーちゃんは、声を出さずに、それでも興奮したように頬を紅潮させた。
「まあ!それは楽しみね!アーリーはずっとカイアちゃんに会いたがっていたものね。新しいお友だちも出来るだなんて嬉しいわ。」
マイヤーさんも嬉しそうだ。
「なんだね、ジョージ、それで村に来てくれたのかい?すまなかったね、こんな空気にしてしまって……。」
ラグナス村長が申し訳無さそうに眉を下げる。
「いえ、問題ありません。」
それ以外、なんと言ったらいいのか、うまい言葉が見つからない。
俺はマジックバッグからカイアを出してやり、続けてアエラキを出してやった。
「アエラキというんだよ。
アエラキ、この子はアーリーちゃんというんだ、カイアとも仲良しの女の子だよ。アエラキもお友だちになってくれるかい?」
俺はカイアとアエラキを両腕にそれぞれ抱っこしたままアーリーちゃんに声をかけた。
「おお……!可愛らしいな!
ウサギを飼ったのかね?ジョージ!」
家から出てきたマイヤーさんの夫のガーリンさんが、俺の腕に抱かれたアエラキを、頬を緩めて見ながらそう言った。
「いえ、この子も種類は違いますが、カイアと同じく精霊の子なんです。
ご両親は別にいるのですが、わけあって家の子になりまして。」
アーリーちゃんがカイアに気がついて笑顔で手を振ってくれる。カイアも嬉しそうに枝の手を振り返している。かわいいな。
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