「風呂は食事のあとでもいいか?
先に子どもたちにご飯を食べさせて、それからお風呂に入れてやりたいんだ。
お前の髪は時間がかかるだろうからな。」
「ええ、構わないわよ。こっちが頼んでるんだし。私も何か手伝う?」
「いや。まだ本調子じゃないだろう?
部屋でゆっくりしていてくれ。テレビもネットもないから、ゆっくりったって何もないんだが……。本くらいなら出せるから。」
「ホント?なら、ファッション誌が見たいんだけど。」
円璃花が目を輝かせてそう言った。
「ああ。じゃあ、2階に案内するから。」
俺は円璃花を連れて2階に上がった。
「この部屋を使ってくれ。」
俺は俺のベッドルームの隣の部屋に円璃花を案内した。空気銃をしまう棚くらいしか置いていないので、特に何も使っていない部屋だ。常に掃除はしているからホコリ1つないし、すぐに使える状態だ。
「──なんにもないのね。」
「使ってないからな、普段。
逆に好きなものを出してやれるから、希望があれば言ってくれ。」
「あっ、そうね!そういうことね!
そうねえ……じゃあ……。」
俺は円璃花の希望を聞いて、ドレッサー、チェスト、ベッドなど、生活に必要なものを出してやった。俺の部屋にもどこにも全身用の姿見がないことを知り、自分の部屋にそれを置きながら、相変わらずね、と言った。
生前の部屋と同じ、全体的に淡いピンクの女性らしい家具が揃った部屋になった。
「ジョージの部屋も見てもいい?」
「ああ、別に構わないぞ。」
ひととおり自分好みの部屋に作り変えたあとで、円璃花が俺の部屋を見たがったので案内した。
「わあ!こういうのも素敵ね!」
北欧家具を適当に並べてあるだけだが、見せる絵本棚のおかげでちょっと柔らかい雰囲気になっている。
「カイアがちゃんと毎回お片付けをする子だから、床に物が散らばらないんだ。」
「……それは子育ての理想かもねえ。
普段子どものいる家庭に遊びに行くと、床になんかのオモチャやブロックが落ちていたり、服にシールがくっついたりするもの。あとだいたい洗濯物がたまってたり、オモチャの電子音がずっと鳴ってるのよ。」
「そういうの、与えてないからなあ……。
カイアは絵本と積み木が大好きだし。
俺自身が小さい時に、あんまりそういうやかましい音のするオモチャが好きじゃなかったもんでな……。カイアと同じで、ずっと本を読んでるような子どもだったし……。」
「一回でも映像見せたら夢中になっちゃうんじゃない?友だちの子どもなんて、初めて喋った言葉が、パパでもママでもなく、アンパ●マンだったもの。言いやすいみたいね、他のうちの子もよく言ってるし。」
と円璃花が言った。
「それは……なんともご愁傷さまだな……。
そのうちカイアとアエラキも人の言葉が話せるようになるんだが、もしも初めて話す言葉が俺に関する以外の言葉だったら、正直泣きそうだ。」
俺はその子の親御さんの気持ちを思って、初めての言葉をアニメに取られた切なさに頭を振った。
「そうなの?精霊だから?」
「ああ。カイアはドライアドという精霊の子株なんだが、同じ子株、つまりカイアの兄弟なんだが、大きい子株は喋れるんだ。
アエラキも親御さんは人の言葉を話す。
だから大きくなったら、2人とも話すことが出来るんだ。」
「へーえ!それは楽しみね!
でもきっと大丈夫よ、カイアちゃんは、特にあなたのことが大好きじゃない!」
「だといいんだがな。
雑誌はいつものやつか?」
「うん、お願い。」
俺は円璃花が普段読んでいる雑誌をいくつか出してやり、食事が出来るのを待っていてくれ、と伝えて階段を降りた。
さて、今日は出来るだけ他のオカズのカロリーをおさえないとな。円璃花いわく悪魔の食べ物、を出してやる予定だからな。
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