王宮を出発した3台の馬車。先頭としんがりが2組に分かれた王宮の護衛の兵士の方々で、その間に挟まれるように俺と円璃花の乗った馬車が走っている。王宮の正門から現れた馬車を見て、城下町を歩く人々が次々に立ち止まり馬車を振り返った。誰が乗っているんだろう?そんな感じでジロジロ見てくる。
馬車の窓には分厚いカーテンが引かれているので、見なければ別にわからないのだが、俺は思わずカーテンの裾を少しだけまくりあげて、外の様子をうかがってしまい、予想通りな反応に、思わずため息をついた。
俺の住んでいるあたりはあまり人が通らないから、見られることは少ないだろうが、それでも行くまでに目立つことこの上ない。
おまけにこれから24時間交代で兵士が来るという。常時8人体制とのことなので、交代の兵士を乗せた馬車も毎回2台来るのだろう。近くの村の人たちにも遅かれ早かれ気付かれることだろう。その時になんと説明したものか、今から正直気が重い。
男女が一緒に暮らすことを、そういうことだと思われるのは、現代でもこちらの世界でもそう変わらないだろう。
どれだけ説明したところで、理解を得られるとは思えない。そういう関係でもない相手と一緒に暮らすこと自体、眉をひそめる人たちもいることだろう。
複数人でのシェアハウスならいざしらず、カイアもアエラキもいるとはいえ、男女2人きりだからな。
願わくば周囲の人たちに気付かれる前に、円璃花が家を出るのが間に合えば、俺は一緒に暮らし始めた女性に早々に逃げられた男の烙印を押されなくても済むのだが。
そこさえ気にしなければ、別にいつまでだっていてくれても構わないんだが。円璃花と暮らしたことはないが、お互いの家に泊まっていた時の感覚で言うなら、お互いのパーソナルスペースを維持した上で、自由に気楽に暮らせるのは分かっているからな。
家の前に馬車が到着し、俺は一応カーテンの裾を上げて周囲を伺ったが、知り合いは誰も家の近くにいないようだった。
ほっとして馬車を降りると、円璃花に手を差し出して馬車から降ろしてやった。
「……ここが譲次の家?」
円璃花が興味深げに家を見上げている。
「ああ。今はここで暮らしている。
現代ほどとはいかないが、まあまあ電化製品なんかもあるぞ。」
「そうなの?凄いわね!」
「──では、申し訳ありません、俺たちはこれで失礼します。」
俺は馬車から降りてビシッと整列をしている警護の兵士たちに声をかけた。
「それでは我々は、こちらで警護を開始させていただきます。いつものように過ごしていただくようにと言付かっております。
我々のことは気になさらないで下さい。」
「はい……ありがとうございます。」
そうは言っても、目に入るわけだしな。気にするなというのは難しい。
ドアを閉めると、カイアとアエラキをマジックバッグから出してやった。
「さあ、おうちについたぞ。」
アエラキはすぐに積み木のしまってあるカラーボックスの前にピョンピョンと走っていったが、自分では積み木を取り出すことが出来ないので、こちらをじっと見上げている。
カイアは俺の許可を得てからにしたいのか、心配そうに俺を見上げた。
「ご飯の時間まで遊んでて構わないぞ。
お客様の相手は俺がするから、カイアとアエラキは心配しなくてもだいじょうぶだ。」
俺がそう言うと、体を前に倒してコックリうなずくと、アエラキのところに行って、カラーボックスから積み木の入った箱を出してやり、一緒に積み木を広げて遊び始めた。
「……気を使わせちゃったかしら?
でも、えらいわね、お客様がいるからいつもと違うって、ちゃんとわかるのね!」
「ああ、カイアは優しくてすごく気を使う子なんだ。あんまり自分から言い出せないところがあるから、こっちも気をつけて見ててやらないとと思ってる。」
まあ、話したくても人間の言葉は話せないのだが、カイアはその分表情豊かだからな。
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