「──大丈夫か?」
ノインセシア王国と聞いて、思わずウッという表情を浮かべた円璃花に俺がたずねる。
「仕方がないわ、そのときは行くわよ。
聖獣のためだもの。むしろ聖獣の卵を見つけ出して、奴らの鼻を明かしてやるわ!」
と円璃花が意気込んだ。
「では、聖獣の卵を探しに行く予定についても、後日改めて相談することとしよう。
まずは一度聖女様にはこの国に慣れていただき、その間に聖女様を保護する国を全国王会議で決めるものとする。
それまでエイト卿には聖女様の身柄をお預けすることになる。よろしく頼みます。」
アーサー国王が俺にそう言ってきた。
「わかりました。彼女が落ち着くまでお預かりさせていただきます。」
「では、馬車と兵士を用意してあるので移動していただこう。──ジョスラン。」
「かしこまりました。」
ジョスラン侍従長が、ご案内いたします、と言って、俺たちをドアに誘導した。
「では、こちらで失礼いたします。色々とありがとうございました。」
そう言ってカーテシーをする円璃花とともに王族たちに頭を下げ、俺たちは部屋をあとにした。
「護衛の人たちには姿を見られないほうがいいからな、おうちに帰るまで、2人は中に入っていてくれ。」
俺はそう言って、カイアとアエラキにマジックバッグの中に入って貰った。精霊自体珍しい存在だし、まだあまり知らない人に姿を見られないほうがいいからな。
ジョスラン侍従長の後ろについて並んで廊下を歩いている最中、円璃花がこっそりと嬉しそうに俺に耳打ちをしてくる。
「ここのお城はとてもきれいね。まるでベルばらの世界に来たみたいよ。」
「──たしかにな。」
ちなみに俺が円璃花と親しくなったきっかけは、実はベルサイユのばらだった。少女マンガと知らずにアニメを見ていたのだ。その後原作マンガも読んだ。
パーティー好きの円璃花は、色んな集まりに参加していて、その中に俺と友人たちの宅飲みがあり、そこで友人に連れてこられて知りあった。
なんの流れだったか忘れたが、昔見て面白かった作品の話になり、その時にベルばらの話が出たのだ。
俺はロザリーとポリニャック夫人が苦手だった。デュ・バリー夫人は割と好きだった。好きなキャラは当然オスカルとアンドレだ。その話を何かのきっかけで円璃花と話したところ、初対面にも関わらず、物凄く盛り上がってしまったのだ。
ロザリーは特にあたしかわいそうアピールで酔っている感じがする、間違いで殺人をしていたらどうするのか、遮眼帯をつけられた馬のように周囲が見えておらず冷静さと思慮深さに欠け、また自分を人に迷惑をかけたことのない、いい人間だと思い込んでいて、近くにいたら困る苦手なタイプの人間だ、と。
円璃花は俺とまったく同じ価値観だったので、そこから一気に仲良くなった。話していくにつれ、他の細かいことにも価値観が似ていたり、お互い歩み寄れることが多いことが分かって、自然ともっと一緒にいたくなっていた。一緒にいて疲れないことが、俺にとっては何より大事なことだと思う。
「ねえ、家についたら、久しぶりに髪を洗ってくれない?ちゃんと手入れが出来なかったから、最初はちょっと大変だと思うの。」
「確かに、少し傷んだり絡まったりしているな。これをほぐすだけでも結構大変だろう。別に構わんぞ。」
「やった!
譲次のマッサージ気持ちいいのよね!」
「けど、寝るなよ?毎回寝ている状態のお前の髪を乾かすのは大変なんだからな。」
「うーん、善処はするわ。
でも、疲れてる時にされると、どうしても寝ちゃうのよねえ……。」
円璃花は歩きながら腕組みをして、うーんとうなった。事前に予告されていた通り、護衛の兵士たちは正面入口の前に立っていた。大変目立つ馬車とともに。円璃花は馬車を見つめてキラキラと目を輝かせている。
「これに乗るのか……。」
「正装してないのが残念だわあ。」
王族が乗るものとは異なるのだろうが、それでも王家の家紋入りの豪華な馬車で移動しなくてはならないことに、げんなりしている俺とは違い、ドレスを着てこの馬車に乗れないことを残念がる円璃花。
まあ、女性なら憧れなんだろうな。そういう演出の結婚式もあるくらいだし。
「そのうち乗れるだろう、多分、預けられる国が決まったら、そこに向かう時にでも。」
「そうね!そうかも!楽しみだわ!」
俺は先に馬車に乗り込むと、どうぞ、と円璃花に手を差し出し、円璃花がその手を取って嬉しそうに馬車に乗り込んだのだった。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。