「はじめまして、カイアちゃん、アエラキちゃん。私は円璃花。お父さんのお友だちよ?私とも仲良くしてね!」
微笑む円璃花に、カイアはまだ戸惑いながらもコックリ小さく体を前に倒したが──首がないので体ごとになる──アエラキはピューイ……と小さく鳴いただけだった。
「知らない大人ばかりだものね……。
やっぱりまだ怖いのかも知れないわね。」
メイベル王太后が頬に手を当てながら、心配そうに首をかしげる。
「急がなくてもよろしいのではなくて?
今はまだ聖女様に、この国に慣れていただく時間なのですし。」
と、シャーロット王妃。
「精霊は人を守り、守られ、互いに慈しみ合う大切な存在です。精霊に無理をさせるのはよくないですね。」
と、サミュエル宰相。
「一緒に暮らすうちに聖女様に慣れてくれれば、力を貸してくれるやも知れんな。
それまで気長に待とう。」
と、アーサー国王が言った。
「……すみません、精霊とは言っても、どちらもまだ子どもでして……。」
「かまわんよ。こちらの都合で、突然呼び出してすまんかったの。」
とランチェスター公が言った。
「──あっ!いたた!」
突然、円璃花が腹をおさえてうずくまる。
「どうした?」
「それ……、全部食べたからかも……。」
円璃花が指を差す先には、一口ずつ味見と言っていた筈のスイーツたちが、それぞれ半分以上食べかけになっていた。
「オイオイ、いくら半分と言っても、全部で8種類だぞ?4つまるまる食べたのと変わらないじゃないか。」
卵おじやを食べた時も、急に量を食べたら胃がびっくりするかも知れないから、と追加で何かを食べるのをやめたくせに、スイーツを4つも食べたら、今まで食事をしていなかった胃腸が処理しきれなくて当たり前だ。
「つい……。いたたた。」
「宮侍医を呼べ。」
アーサー国王の言葉に、ジョスラン侍従長が従者に声をかけ、従者が慌ただしく外に出ていく。
「だいじょうぶか?」
俺は心配になって円璃花に声をかけた。カイアもとても心配そうだ。
「休めば……、そのうち治るから……。」
そう言う円璃花の腹を、カイアが心配そうにヨシヨシ、と撫でた。
「心配してくれるの?ありがとう。」
円璃花がカイアに力なく微笑んだ。ヨシヨシしているカイアの枝の手の先が、そのままパアアアッと黄色い光に包まれる。
「この力は──……!!」
「聖なる光……!?」
その光が消えた時、キョトンとする円璃花と、ザワザワしている王族の大人たち。
「あれ……お腹……、痛くないわ……。」
「それ……聖魔法による治癒ですわ。ドライアドの子株が、聖魔法を……?」
戸惑うメイベル王太后。
「ドライアドという精霊は、水魔法と土魔法しか使えない筈です。
聖魔法だなんて、そんな筈は……。」
「特別なドライアドということか……?」
サミュエル宰相とアーサー国王は、おののいたようにカイアを見ている。
大人たちの様子を見て、何かまずいことをしてしまったかと、困ったように俺を見上げてくるカイア。
「──だいじょうぶだ、カイア、なんにも悪いことなんてしてないぞ。
お腹が痛いと言っているお姉さんを、助けてあげたかったんだよな?」
俺はカイアの背中を撫でてやった。
「──そんなこともないぞ。」
ざわつく部屋の中で、空気を変えたのはランチェスター公だった。
「精霊はどれも、力が高まれば、聖魔法を使う可能性のあるものだからの。
この大きさで魔法を使う事自体驚きではあるが、それだけ愛情を受けて育っているということだろう。」
先代の勇者であるランチェスター公の言葉に、なるほど、と全員がうなずいた。
「ありがとうね、カイアちゃん。──カイアちゃんのその力はね、カイアちゃんがお父さんを大好きで、お父さんもカイアちゃんのことが大好きだから、使えるようになったものなのよ。なんにも悪いことじゃないわ。」
カイアちゃんは本当にお父さんが大好きなのね、と言って円璃花が微笑んだ。カイアが嬉しそうにニコーッとする。その姿に、他の大人の王族たちも、つられてニッコリした。
それにしても、本来この大きさでは使える筈のない魔法を使うというだけでも驚きなのに、聖魔法までか……。
瘴気を払う力と関係しているのだろうか?
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