「先代の聖女様は、精霊の加護持ちの力を借りて聖獣の卵を手に入れてのう。
聖女様から、エイト卿が精霊の加護持ちと聞いたんでの、ならば協力して貰ってはどうかと言ったんじゃ。」
ランチェスター公がひげを引っ張りながら笑顔で言った。
「精霊の加護持ちの手を借りる……ですか?
俺は何をすればよいのでしょう?」
「精霊は聖獣に呼応するものでの。
聖獣のいる場所は代々変わるが、その居場所を知るのが精霊たちなんじゃ。
だが、加護持ちでもなければ、精霊と話すことはできんでのう。」
なるほど?
「……つまり、先代の聖女様は、ドライアドの加護持ちである、オンスリーさんの力を借りて、聖獣の居場所をドライアドに尋ねたということなんですね?」
「そういうことになるかの。だが、精霊も探そうとしなければ聖獣の居場所は分からん。だから、加護持ちが精霊と強く結びついている必要があるでの。」
「……それはどういう?」
「精霊が聖獣に呼応するとは言っても、その検索範囲は精霊の力によって異なるものなんじゃ。先代の聖女様の場合は、まずコボルトの集落を瘴気から解放し、オンスリーをはじめとするコボルトたち、全員の願いで聖獣の卵を探してもらったんじゃ。」
「コボルトの集落全員の力が必要だったということは、相当広範囲を探されたということでしょうか?」
「うむ。コボルトたちは信仰心にあつく、ドライアドの力を高めることが出来た。
並大抵の精霊の加護持ちでは無理なほど、かなり遠い場所に聖獣の卵ががあったよ。」
「……そうなりますと、うちの子だけで探せる範囲になかった場合、見つけるのがかなり困難かも知れないということですね……。」
「そんなこともないぞ?精霊は信仰と愛情で力を高める存在じゃからの。精霊と恋人同士として愛し合って、最強の精霊魔法使いになった男も過去におったからの。」
「人間が精霊と恋人同士として愛し合う、ですか!?そんなこともあるのですね……。」
「聞くところによると、エイト卿は我が子として精霊を育てておるんじゃろ?
それほどまでに互いに愛を注いでおるとなると、エイト卿の子は、精霊と恋人同士になった男の恋人の精霊に、負けんくらいの力が発揮できるかもしれん、というわけだの。」
「もちろん、出来る協力はしたいと思っておりますので、本当にそんなことが出来るのであればお役に立ちたいのですが……。
うちの子はどちらも人間の言葉が話せないので、場所を特定したところで、その場所を指し示すというのが無理だと思います。」
「そうなのか?」
「はい。」
「まあ、話せるかどうかは関係がないよ。
精霊は人間の言葉を話せることはまれだからの。ジョスラン侍従長。あれを。」
「──かしこまりました。」
ランチェスター公に言われて、ジョスラン侍従長が従者に言いつけて持ってこさせたものは、両手で持ち上げないといけないくらいの巨大な丸い水晶だった。
「これは王家に代々受け継がれている水晶での。精霊にこれに触れてもらえば、聖獣のいる場所を指し示してくれるんじゃ。」
そんなものまであるのであれば、さすがに断れんな……。
「分かりました、ただ、2人ともかなりの人見知りですので、言う通りにやってくれるかは保証できませんが……。」
俺はそう言って、カイアとアエラキをマジックバッグの中から出して膝に乗せた。
2人とも見知らぬ場所に突然出されて、やはり怖がってしまった。普段と違うのは、アエラキが俺でなくカイアに抱きつき、そんなアエラキを守るように、カイアがアエラキを抱きしめながら、涙目で俺を見上げている、という点だが。
「ごめんな、2人とも。この人たちが、カイアとアエラキにお願いがあるっていうんだ。話を聞いてあげて貰えるか?」
すると、ずい、と円璃花が上半身を倒して、カイアとアエラキの顔をのぞきこんだ。
「──カワイイ!!
そっくりね!兄弟なの?」
「いや、顔はたまたま似てるだけだ。カイアは俺の子として育てているドライアドの子株だが、アエラキはカーバンクルで、うちの子ではあるが、別に親御さんがいる。
アエラキは兄弟が他に4人いるんだが、全員カイアと顔が似ていてな。精霊の子どもはみんなこういう顔なのかも知れん。」
「へーええ!
カイア……アエラキ……。
──ひょっとして、しりとりなの?」
「いや、そういうつもりはなかった。」
「聖獣の卵を手に入れたら、私は、キ、からはじまる名前にしようかしら!」
円璃花はカイアとアエラキを見つめて、ニッコニッコしている。
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