ロバート・ウッド男爵邸をあとにすると、俺はエドモンドさんの馬車で一緒に王宮へと戻った。きちんと話が通っていたらしく、エドモンドさんがルピラス商会の金色の札を見せずとも、馬車が中に通された。
こちらでお待ち下さい、と従者の方に言われ、王宮の外でしばし待つ。
「帰りは聖女様ごと俺の家に送って下さるそうなので、ここで大丈夫です。」
と言った。現れた聖女様が俺の元カノだったこと、俺の家でこの世界に慣れるまで暮らしたいと言われ、それを国王様に了承されたことについては、既に道中話してあった。
「常々ジョージはただものじゃないと思っていたが、あの珍しい商品の数々は、聖女様の世界の物だったんだな。いったいどうやってそれを……。いや、詳しいことは聞くまい。
俺はジョージと商売ができれば、それでじゅうぶんだ。」
と、エドモンドさんは言ってくれた。
俺が聖女様と同じく転生者であったことなどから、ある程度何かを察してくれているんだろうけど、そこに言及しないでくれたのはありがたかった。
「──ああ、そうだ。
メイク用品、と言われたので忘れていました。これも売れると思いますのでどうぞ。」
「──ん?なんだ?これは。」
俺が手渡した品物を見て、エドモンドさんが不思議そうにまじまじとそれを見る。
「メイク落としと洗顔料です。
これを使わないと、落ちにくい化粧品は落とすのが大変ですし、ファンデーションなんかも毛穴に残ってしまうので。」
「なるほどな。確かに必要だ。
ありがとう、一緒に売り込ませて貰うよ。
これから忙しくなるぞ!」
エドモンドさんは嬉しそうに張り切りながら、馬車を操って王宮をあとにした。
「──ジョージ・エイト様。大変お待たせいたしました。」
そのあとすぐに新たに従者の方がやってきて、俺を王宮内に案内してくれた。
案内された部屋に入ってギョッとする。
「おお、遅かったのう、エイト卿。」
ランチェスター公とメイベル王太后は分かる。一緒にいる筈だからな。だがその場にいたのは、アーサー国王、サミュエル宰相、シャーロット王妃の3人。
セレス様とパトリシア王女をのぞく、謁見の場にいた大人の王族たちすべてが、円璃花を中心に円卓式のテーブルを囲んでいた。
彼らがワイワイと楽しげに談笑しながら、オンバ茶を飲みつつ、俺の出したスイーツを食べていたのだった。
……そういえば、ロンメルが俺たちのところに置いた取皿、あと6つあったな……。
ということを思い出した。なるほど、初めからそのつもりだったというわけか。
ジョスラン侍従長がメイドの代わりにお茶のおかわりを入れている。
戻ってきたらジョスラン侍従長に報告をするように言われていたから、この場にいるのかな?だが、王族を前にジョスラン侍従長に話しかけるわけにいもいかない。
「ジョスラン、エイト卿に椅子を。」
「かしこまりました。」
サミュエル宰相に言われて、ジョスラン侍従長が従者に椅子を運ばせ、円卓式のテーブルに新たに俺の為の席を作る。
「ありがとうございます。」
俺はそう言って円璃花の隣に座った。
多分円璃花の為なのだろう、王族が集まるにはかなり狭い部屋だった。
だがもちろん壁にはところどころ金色に塗られた模様があって、床は巨大な1枚の絨毯だった。この大きさを織って作ることを考えると、それだけでかなりお高いものだと言える。惜しげもなくその絨毯を踏みつけている椅子も、クギも使わず1つの木から切り出されたものだと分かる、なめらかで美しい作品だった。
従者の数も最小限だ。だからこそ、円璃花も気楽そうにしていて、どこかアットホームな雰囲気が漂っている。
「ねえ、譲次、譲次は精霊の加護を受けているのでしょう?精霊を見せてくれない?」
円璃花が唐突にそう言い出して、俺は思わず顔に出さずにギョッとする。
王族にはセレス様にしかまだ話していない事実だし、俺は基本隠しておこうと思っていたからだ。
精霊の加護持ちの人間はいなくはないが、2体ともなるとかなり特殊だからだ。
変に期待の目を向けられても困るし、瘴気が払えるかもしれない事を知られて、カイアとアエラキを危険な目に合わせたくもない。
────────────────────
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。