商品に馴染みがあれば、並べて手に取ってもらってもいいだろうけど、使い方を知らない商品もたくさんあるわけだしな。
「すまない、ありがとう。注文が来たらどうやって商品を指定すればいいだろうか?」
「──裏に番号が書かれていますので、口紅の何番、と伝えてくださればいいですよ。」
俺は商品の裏側を見せる。
「分かった。……名前と番号を一致させる一覧を作らにゃいかんな、これは。」
ふう、とエドモンドさんがため息をはく。
「だが売れる。確実に売れるだろう。
特にパトリシア様が成人の儀でこれを使った姿を国内外の要人たちに披露するんだ、その時には注文が殺到することだろう。」
「ああ、あとこれもですね、化粧前のお手入れに、化粧水、美容液、乳液、乾燥肌の方の為のクリーム、スペシャルケア用のマスクになります。化粧水で肌を整えて、美容液で小ジワを防ぎ、乳液で肌に蓋をして乾燥を防いで、乾燥肌の方や冬場はクリームで入念に潤いをキープして、たまにスペシャルケア用のマスクで肌をいたわって……。
──エドモンドさん?」
エドモンドさんは俺の話を聞きながら、気絶しそうになっていた。
「あ、す、すまん、ちょっと情報量の多さに気が遠くなっていた。」
「やめておきますか?」
「──いや、絶対に売る。」
凄いな、商売人根性もここまでいくと。
「よし、こんなものでいいだろう。
あとはコボルトの店の土地建物の為に、ロバート・ウッド男爵邸に行こう。
パトリシア王女の保証書類があるんだからな、話はすぐに終わるだろう。
保証書類は俺に預けて貰えるか?」
「分かりました。……行きましょう。」
俺とエドモンドさんは、エドモンドさんの馬車で、ロバート・ウッド男爵の家に向かった。
ロバート・ウッド男爵邸は、貴族の家にしてはこじんまりとした郊外の邸宅だった。どこか薄汚れた感じがするのは、手入れをする従者が1人もいないからなのだろう。
ロバート・ウッド男爵邸のドアをノックする。だが反応がない。従者がいないから、自分でドアを開けるのをためらっているのだろうか?そう思っていると、
「──はい?」
ジャスミンさんの話では、従者が1人もいないとのことだったが、新しく雇ったのだろうか、若いメイドがドアを開けた。
「お約束はないのですが、ロバート・ウッド男爵がお持ちの土地建物の件で参りました。
ルピラス商会のエドモンド・ルーファスと申します。男爵様にお取次ぎを。」
エドモンドさんがそう言うと、はあ、ちょっと待って下さい、と言ってメイドが一度ドアをしめて家の中に引っ込んだ。
「……あまり教育が行き届いている感じではありませんね。」
と、エドモンドさんが言う。男爵家とはいえ、ろくに敬語も使えないメイドを雇っているのだ。急場しのぎなのだろう。
「本来であれば、メイド長や執事長が、新人の教育をするものなのですがね。そういう人間が1人もいないからなのでしょう。」
「男爵様が直接メイドに教育なさることはないのですか?」
「貴族は貴族にしか教育をしません。従者には従者の教育というものがあります。
長年つかえた執事長であれば、主人が幼い場合、貴族としてあるべき姿を教育することはありますが、それはごく稀なことです。」
なるほど。帝王学は帝王学をおさめた人間にしか教えられないようなものか。
「──入っていいそうです、どうぞ。」
メイドが戻ってきて、再びドアを開けてくれる。俺たちは中に通された。
1人で屋敷全体の掃除までは無理なのだろう、玄関近くは流石に掃除されていたが、主人の部屋に向かう廊下や、窓のサッシにはホコリやゴミが積もっていた。
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