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第85話 メイベル王太后の気遣い④

「中に入って貰って下さい。

 ランチェスター公と、メイベル王太后と、聖女様に召し上がっていただく為の、ケーキを取りに来て貰ったんです。」

「かしこまりました。」

 再び兵士が外に出て、ロンメルが料理を乗せる台車を押して中に入ってくる。


 …………。一番上の段には、銀の蓋がかぶせられた大きな皿が3つ。

 中の段には、保温カバーの被せられた、お茶らしきものが2つと、ティーセットが置かれていた。随分と長い時間、じっくりお茶を楽しむつもりなんだな。新しく入れたりしないで一度に持っていくのか?


 そして取皿と思わしき小さい皿が10枚とカトラリーが10組。ひょっとして、この大きな皿3つに入るくらいケーキを乗せろと?

 3人で食べ切れるのか?確かに種類は用意するとは言ったが……。まあいい、1人一種類ずつ食べられるように、3つずつ出すか。


「蓋をあけてくれないか。」

 ロンメルが蓋を外すと、案の定、銀の蓋の下は空っぽの大きなお皿だった。

 そこにスフレ、ベイクド、レア、ニューヨーク、バスク、と、5種類のチーズケーキ。

 そしてショートケーキと、エクレアと、シュークリームを、マジックバッグからさも今出したかのようにして乗せた。


「──それは何!?」

 セレス様がたくさんの見慣れないケーキに食いついてくる。

「聖女様とランチェスター公がお望みのケーキです。」

「ジョージが作ったの!?」

「はい、まあ。」

 今回は違うけどな。


 まあ、実際俺は菓子作りが趣味だ。

 何なら料理よりも先に作ったのは、スイーツの数々だからな。小学生の頃、母の美容院についていった際に、そこに置かれていたスイーツのレシピ本の虜になった俺は、母にねだってその本を買ってもらい、材料を買って貰ってはスイーツを作っていた。


 スポンジだけは本だけでは上手に作ることが出来ず、料理教室をやっていた母の友人に教えて貰ったが、他は独学で作った。

 ネットもない時代だったのと、母がケーキを作ったことがなかったことから、卵白の角をたてる、という状態が分からなかったせいで失敗してしまったのだ。


 たったその一工程だけで膨らまなかったスポンジケーキ。料理は適当でも作れるが、菓子作りは化学なのだとその時思った。

 あくまでも趣味で、それを仕事にしようとは思わなかったが、それ以来、うまそうなスイーツのレシピを見ると、食べたいよりも先に作りたいと感じてしまう。


「私も食べたいわ!」

「いいですよ、どれがよろしいですか?」

「うーん……悩むわね……。

 全部食べたら太っちゃいそうだし……。」

「それでしたら、この中から4つをお選びになられて、少しずつ召し上がられてみてはいかがですか?残りは俺たちが食べますよ。」


 皿の上のケーキを見ながらうんうん唸るセレス様に、エドモンドさんがそう言った。

「いいわね!じゃあ、これと、これと……、

 これと、あとはこれにしようかしら!」

 セレス様はスフレチーズケーキと、ショートケーキと、エクレアと、レアチーズケーキを選んだ。


「皿を分けて貰えないか?」

 余分に乗せてあった取皿を指さしてロンメルに尋ねる。

「ああ、もちろん構わんよ。」

 ロンメルが広げてくれた取皿の上に、ケーキを置いていくと、それをロンメルがテーブルの上に置き、カトラリーを並べてくれた。


「──というか、絶対セレス様がそうおっしゃるだろうから、余分に皿を持っていくように、と、メイベル王太后から指示を受けていたからな。」

 そう言って、台車の中段上にあった、保温カバーが被せられていた2つのうち、1つを外して、お茶を入れて配ってくれるロンメルに、セレス様が思わず頬を染めたのだった。


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