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第35話 連れ去られて王宮へ②

「例えばなんですが、取引のあるお店を通じて、勇者に同行したコボルトの話も、世間に広めることは出来ますか?

 この店の店長をお願いする予定のコボルトは、その勇者の末裔なんです。」

 俺はアシュリーさんを思い浮かべながら言った。


「──伝説の勇者の仲間の末裔の店か!

 それは箔がつくな!

 いいな、面白そうだ。失敗したところで俺たちの懐が傷まなきゃ、なんだってやってみようってのが俺たちのやり方さ。」

 エドモンドさんは面白そうに笑った。


「男爵との交渉は俺たちに任せな。

 一番いい条件で土地を引っ張ってきてやるよ。キッチンペーパーの売上だけで、買えるくらいにな。

 その代わり、売れそうな珍しい商品を作ったら、すぐに俺たちに報告してくれよ?」

「もちろんです。」


 俺はそう言ったが、王宮近くの一等地を、キッチンペーパーの売上だけで買えるくらいに値下げさせるとは、一体いくらでキッチンペーパーを売るつもりなのか知らないが、どうやって買い叩くつもりなんだろうなと首をかしげた。


 そこに荷物を乗せた馬車に乗ったロンメルが通りかかる。

「ジョージじゃないか!」

「ロンメル!奇遇だな!」

「あれ、エドモンドさん?」

「知り合いなのか?」

 俺の後ろのエドモンドさんに気付いたロンメルが驚いた顔をする。


「いつもうちの商会で、品物をおろしてるからな。」

 エドモンドさんが馬車に乗ったままのロンメルと挨拶をしている。

「王宮勤めの知り合いってのは、ロンメルさんのことだったのか。」

「ええ、まあ。」


「ああ、ジョージ、ちょうど良かった。

 例の件だけどな。店を買う保証、してくれることになったぜ。

 ──お前の土産がきいたよ。」

「ええ!?それを頼みに行くのに作らせたのか!?だったらあんな簡単なもんじゃなく、もっといいものを作ったのに。」


「店が出来たら、そこに食べに行くのを楽しみにしてると言ってたから、そこでまた腕を振るってくれればいいさ。

 俺はまだ買い出しの途中なんだ、急に予定外のものを食べたいと姫様が言い出してな。

 詳しいことはまた後日ゆっくりとな!」

 そう言ってロンメルは去って行った。


「……随分とワガママ姫なんですか?」

「多少、お転婆だとは聞いている。」

 とエドモンドさんが言った。

 本来作るものに合わせて食材を仕入れている筈なのに、突然買い出しなんてしたら、いい食材が仕入れられるかも分からないだろうに。ましてや王族に振る舞うレベルなど。


「店の中を見てみるかい?」

「お願いしたいです。」

 エドモンドさんが鍵を借りに行ってくれることになった。男爵は近くに住んでいないので、男爵宅まで寄る必要があるらしい。

 収入が少ないから、一等地に家を立てるより、家賃で稼いだ方がお得なのだそうだ。


 エドモンドさんの帰りを待っていると、慌てた様子のロンメルが、再び馬車に乗って戻ってくる。

「どうしたんだ、そんなに慌てて。」

「良かった、ジョージ、まだここにいてくれたか。」


「店の中を見るのに、エドモンドさんが鍵を取りに行ってくれていてな、それを待っているんだ。」

「済まない、助けてくれないか。」

「なんだ、どうしたっていうんだ。」

「俺とお前が出会った、料理対決があっただろう?」


「ああ。」

「あの時来ていた審査委員長が、今回土地を買う保証人になってくれることになったんだが、うちのお姫様に、お前の料理を自慢しちまったんだ。

 どうしても今すぐ食べてみたいと癇癪をおこして、手がつけられなくなっちまった。」


「なんだって!?」

「さあ、早く馬車に乗ってくれ。」

「……いや、俺はエドモンドさんを待っているし、それにカイアを人に預けているから、迎えに行かなくちゃならないんだ。」

「カイア?」

「俺の子だ。」


「お前子どもなんていたか?

 この間家に行った時は、子どもなんていなかったじゃないか。」

「あの後出来た。」

「なんてこった……。

 じゃあ、使いをやって説明して貰うよ。

 お姫様が機嫌を直さないと、保証人の話もなくなる可能性がある。」


「そいつはまずいな。」

「だろう?だから早く馬車に乗ってくれ!」

「分かったよ……。」

 俺は仕方無しにロンメルの馬車に乗った。 

 ロンメルが鞭をふるい、全速力で走り出して、ガタガタと揺れるので馬車に捕まる。


 今から王宮で料理なんてしていたら、最悪帰る馬車がなくなってしまう。

 マイヤーさんは、頼めば泊まりでも預かってくれるとは思うが、カイアはよそでお泊りなんて大丈夫だろうか……。

 俺は心配しながら馬車に揺られた。


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