「例えばなんですが、取引のあるお店を通じて、勇者に同行したコボルトの話も、世間に広めることは出来ますか?
この店の店長をお願いする予定のコボルトは、その勇者の末裔なんです。」
俺はアシュリーさんを思い浮かべながら言った。
「──伝説の勇者の仲間の末裔の店か!
それは箔がつくな!
いいな、面白そうだ。失敗したところで俺たちの懐が傷まなきゃ、なんだってやってみようってのが俺たちのやり方さ。」
エドモンドさんは面白そうに笑った。
「男爵との交渉は俺たちに任せな。
一番いい条件で土地を引っ張ってきてやるよ。キッチンペーパーの売上だけで、買えるくらいにな。
その代わり、売れそうな珍しい商品を作ったら、すぐに俺たちに報告してくれよ?」
「もちろんです。」
俺はそう言ったが、王宮近くの一等地を、キッチンペーパーの売上だけで買えるくらいに値下げさせるとは、一体いくらでキッチンペーパーを売るつもりなのか知らないが、どうやって買い叩くつもりなんだろうなと首をかしげた。
そこに荷物を乗せた馬車に乗ったロンメルが通りかかる。
「ジョージじゃないか!」
「ロンメル!奇遇だな!」
「あれ、エドモンドさん?」
「知り合いなのか?」
俺の後ろのエドモンドさんに気付いたロンメルが驚いた顔をする。
「いつもうちの商会で、品物をおろしてるからな。」
エドモンドさんが馬車に乗ったままのロンメルと挨拶をしている。
「王宮勤めの知り合いってのは、ロンメルさんのことだったのか。」
「ええ、まあ。」
「ああ、ジョージ、ちょうど良かった。
例の件だけどな。店を買う保証、してくれることになったぜ。
──お前の土産がきいたよ。」
「ええ!?それを頼みに行くのに作らせたのか!?だったらあんな簡単なもんじゃなく、もっといいものを作ったのに。」
「店が出来たら、そこに食べに行くのを楽しみにしてると言ってたから、そこでまた腕を振るってくれればいいさ。
俺はまだ買い出しの途中なんだ、急に予定外のものを食べたいと姫様が言い出してな。
詳しいことはまた後日ゆっくりとな!」
そう言ってロンメルは去って行った。
「……随分とワガママ姫なんですか?」
「多少、お転婆だとは聞いている。」
とエドモンドさんが言った。
本来作るものに合わせて食材を仕入れている筈なのに、突然買い出しなんてしたら、いい食材が仕入れられるかも分からないだろうに。ましてや王族に振る舞うレベルなど。
「店の中を見てみるかい?」
「お願いしたいです。」
エドモンドさんが鍵を借りに行ってくれることになった。男爵は近くに住んでいないので、男爵宅まで寄る必要があるらしい。
収入が少ないから、一等地に家を立てるより、家賃で稼いだ方がお得なのだそうだ。
エドモンドさんの帰りを待っていると、慌てた様子のロンメルが、再び馬車に乗って戻ってくる。
「どうしたんだ、そんなに慌てて。」
「良かった、ジョージ、まだここにいてくれたか。」
「店の中を見るのに、エドモンドさんが鍵を取りに行ってくれていてな、それを待っているんだ。」
「済まない、助けてくれないか。」
「なんだ、どうしたっていうんだ。」
「俺とお前が出会った、料理対決があっただろう?」
「ああ。」
「あの時来ていた審査委員長が、今回土地を買う保証人になってくれることになったんだが、うちのお姫様に、お前の料理を自慢しちまったんだ。
どうしても今すぐ食べてみたいと癇癪をおこして、手がつけられなくなっちまった。」
「なんだって!?」
「さあ、早く馬車に乗ってくれ。」
「……いや、俺はエドモンドさんを待っているし、それにカイアを人に預けているから、迎えに行かなくちゃならないんだ。」
「カイア?」
「俺の子だ。」
「お前子どもなんていたか?
この間家に行った時は、子どもなんていなかったじゃないか。」
「あの後出来た。」
「なんてこった……。
じゃあ、使いをやって説明して貰うよ。
お姫様が機嫌を直さないと、保証人の話もなくなる可能性がある。」
「そいつはまずいな。」
「だろう?だから早く馬車に乗ってくれ!」
「分かったよ……。」
俺は仕方無しにロンメルの馬車に乗った。
ロンメルが鞭をふるい、全速力で走り出して、ガタガタと揺れるので馬車に捕まる。
今から王宮で料理なんてしていたら、最悪帰る馬車がなくなってしまう。
マイヤーさんは、頼めば泊まりでも預かってくれるとは思うが、カイアはよそでお泊りなんて大丈夫だろうか……。
俺は心配しながら馬車に揺られた。
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