「それは駄目だジョージ、まだまだコボルトは魔物だという意識が強い。
特に貴族はそうだ。
田舎ならば亜人と交流している地域も多いが、町を歩けば分かると思うが、亜人はまったく歩いていない。反発が強いと思う。」
「やはりそうなのですね……。
俺はそれを変えたくて、コボルトの伝統を伝える店をやりたいのです。
コボルトの集落に泥棒が入っても、役人が泥棒の味方をすると聞きました。
彼らは魔物ではありません。
前回勇者が現れた際に、同行した仲間の1人にコボルトがいたにも関わらず、です。」
「それを知っているんだな。
確かに、今の国が救われた経緯は、勇者様と聖女様だけでなく、コボルトの冒険者の存在がある。
だから王族はコボルトに好意的だ。
だが大半の人間はそれを知らない。」
「王族は好意的なんですか!?」
それは知らなかった。
「ああ、だが……。」
「──でしたら、絡め手はどうでしょう?
王族がコボルトに好意的なのであれば、協力していただけるかも知れません。」
「というと?」
「まずは王族の皆様に、コボルトの製品を使っていただくのです。
──王室御用達。
これはとても力があります。
それを看板に掲げられるのであれば、貴族もおいそれと毛嫌いは出来ないかと。」
「まあ、王室御用達は、品物をつくるすべての職人の夢ではある。」
「エドモンドさんは、王室に伝手は?」
「ないと思うか?
俺たちはこの国一番の商団、ルピラス商会だぜ?」
エドモンドさんがニヤリとする。
「事情を話したうえで、王族の方々に、コボルトの製品を使っていただくことは、可能だと思いますか?」
「話してみんことには、なんとも言えん。
だが、可能性がないこともない。」
「試してみていただけませんか?俺には直接の伝手はありませんので……。」
「ジョージのキッチンペーパーは、既に王宮からも引き合いが来ている。
王宮に取引で向かう予定が既にあるから、その時に提案してみよう。
取り扱いを決めるのは侍従長だが、口にするものは毒味を済ませたあとで、直接王族にふるまってから決めることになっているからな、そこでお会いできる可能性はある。」
「……お願いします。」
「ジョージのキッチンペーパーは、既に予約だけでかなりの売上を見込んでいるんだ、早めに商品をおろしてくれるか?
それも大量にだ。」
「問題ありません。あと、これも今回登録したので、登録が済んだら売りにだそうと思っています。」
俺は出汁こし布をエドモンドさんに手渡した。
「これはなんだ?」
「出汁こし布といいます。
料理の過程で、肉や骨だけを取り出したい時なんかに使います。
あとから材料を刻んで加え直したい時なんかにも、取り出しやすくて便利ですよ。」
「いいな!こいつも見本で持って行っても構わないか?」
「もちろんです。」
「そうと決まれば店の場所を見に行こう。
……ちょっと心当たりのある場所があるのさ。」
立ち上がったエドモンドさんについて、俺はカフェを出た。
「──ここだ。どうだ?」
そこは貴族街の中心で、既に建物が立っていた。おまけに厨房まである。
「流行っていた店だったんだがな、家賃を上げられすぎて撤退しちまってな。
隣の店もあいてるんだ。料理と品物両方を売るなら、ここが一番だろうぜ。
おまけに近くに食べ物屋がないときた。」
「ここから王宮が見えるんですね?」
「ああ、かなりの一等地さ。
王宮の職員も食べにくる程の人気店だったんだがなあ……。」
「そんな場所じゃあ、また家賃を上げられたら、とんでもないことになるんじゃ……。」
「だから買っちまうのさ。
最近この土地を持っている男爵は、家賃が入らなくなって資金繰りに困ってて、売りに出しているんだが、高すぎて誰も買わないんだ。どんどん値下がりしてってる。
だが貴族はこんなところに土地を買わないからな。かといって商人も、ここまでの一等地を買える人間は少ない。」
「貴族か王族の保証さえあれば、土地が手に入ると……。」
「そういうことだ。」
確かに魅力的だ。王室御用達の看板をかかげ、王室職員も食べにくる店。もしそうなったら、コボルトに対するイメージは変わる。
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