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第35話 連れ去られて王宮へ①

「それは駄目だジョージ、まだまだコボルトは魔物だという意識が強い。

 特に貴族はそうだ。

 田舎ならば亜人と交流している地域も多いが、町を歩けば分かると思うが、亜人はまったく歩いていない。反発が強いと思う。」


「やはりそうなのですね……。

 俺はそれを変えたくて、コボルトの伝統を伝える店をやりたいのです。

 コボルトの集落に泥棒が入っても、役人が泥棒の味方をすると聞きました。

 彼らは魔物ではありません。

 前回勇者が現れた際に、同行した仲間の1人にコボルトがいたにも関わらず、です。」


「それを知っているんだな。

 確かに、今の国が救われた経緯は、勇者様と聖女様だけでなく、コボルトの冒険者の存在がある。

 だから王族はコボルトに好意的だ。

 だが大半の人間はそれを知らない。」


「王族は好意的なんですか!?」

 それは知らなかった。

「ああ、だが……。」

「──でしたら、絡め手はどうでしょう?

 王族がコボルトに好意的なのであれば、協力していただけるかも知れません。」


「というと?」

「まずは王族の皆様に、コボルトの製品を使っていただくのです。

 ──王室御用達。

 これはとても力があります。

 それを看板に掲げられるのであれば、貴族もおいそれと毛嫌いは出来ないかと。」


「まあ、王室御用達は、品物をつくるすべての職人の夢ではある。」

「エドモンドさんは、王室に伝手は?」

「ないと思うか?

 俺たちはこの国一番の商団、ルピラス商会だぜ?」

 エドモンドさんがニヤリとする。


「事情を話したうえで、王族の方々に、コボルトの製品を使っていただくことは、可能だと思いますか?」

「話してみんことには、なんとも言えん。

 だが、可能性がないこともない。」

「試してみていただけませんか?俺には直接の伝手はありませんので……。」


「ジョージのキッチンペーパーは、既に王宮からも引き合いが来ている。

 王宮に取引で向かう予定が既にあるから、その時に提案してみよう。

 取り扱いを決めるのは侍従長だが、口にするものは毒味を済ませたあとで、直接王族にふるまってから決めることになっているからな、そこでお会いできる可能性はある。」


「……お願いします。」

「ジョージのキッチンペーパーは、既に予約だけでかなりの売上を見込んでいるんだ、早めに商品をおろしてくれるか?

 それも大量にだ。」

「問題ありません。あと、これも今回登録したので、登録が済んだら売りにだそうと思っています。」


 俺は出汁こし布をエドモンドさんに手渡した。

「これはなんだ?」

「出汁こし布といいます。

 料理の過程で、肉や骨だけを取り出したい時なんかに使います。

 あとから材料を刻んで加え直したい時なんかにも、取り出しやすくて便利ですよ。」


「いいな!こいつも見本で持って行っても構わないか?」

「もちろんです。」

「そうと決まれば店の場所を見に行こう。

 ……ちょっと心当たりのある場所があるのさ。」

 立ち上がったエドモンドさんについて、俺はカフェを出た。


「──ここだ。どうだ?」

 そこは貴族街の中心で、既に建物が立っていた。おまけに厨房まである。

「流行っていた店だったんだがな、家賃を上げられすぎて撤退しちまってな。

 隣の店もあいてるんだ。料理と品物両方を売るなら、ここが一番だろうぜ。

 おまけに近くに食べ物屋がないときた。」


「ここから王宮が見えるんですね?」

「ああ、かなりの一等地さ。

 王宮の職員も食べにくる程の人気店だったんだがなあ……。」

「そんな場所じゃあ、また家賃を上げられたら、とんでもないことになるんじゃ……。」


「だから買っちまうのさ。

 最近この土地を持っている男爵は、家賃が入らなくなって資金繰りに困ってて、売りに出しているんだが、高すぎて誰も買わないんだ。どんどん値下がりしてってる。

 だが貴族はこんなところに土地を買わないからな。かといって商人も、ここまでの一等地を買える人間は少ない。」


「貴族か王族の保証さえあれば、土地が手に入ると……。」

「そういうことだ。」

 確かに魅力的だ。王室御用達の看板をかかげ、王室職員も食べにくる店。もしそうなったら、コボルトに対するイメージは変わる。


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