「場所はどうするつもりなんだ?」
「貴族にうける商品だと思うから、貴族の住んでいる地域に出せればと思っている。」
「それは難しいぞ、ジョージ。」
「なんでだ?」
「店を出している人たちは、殆どが代々所有している土地か、借りている場所なんだ。
田舎の普通の土地なら、あいてれば誰が使っても問題ないんだが、貴族の住んでいる場所は、土地も建物も、買うのに貴族か王族の保証が必要なんだ。」
「じゃあ、借りればいいってことか?」
「それもまた問題なんだ。
貸主は家賃を好きに上げることが出来る。
店子の商売がうまくいってるとみるや、家賃を馬鹿みたいにあげる大家ってのも、少なくないのが実情でな。」
中国みたいだな。
「それで成功した店を泣く泣く手放したり、潰す羽目になった人間も少なくないのさ。新しく土地や建物を借りてもうまくいってるのは、貴族と王族を優遇している店だけ。大家も強く言えなくなるからな。
けど、お前のやりたい店は、庶民にも来て欲しいんだろう?」
「ああ、コボルトと人間の架け橋になるような店にしたいから……。」
「庶民の店が多く並ぶ場所には、貴族はやっては来ない。悪いことは言わん、貴族に店に来て貰うのは諦めろ。それならうまくいくかも知れん。」
「しかしそれじゃ意味がない。
貴族の感覚を変えないことには、役人たちがコボルトの集落に入った犯罪者の味方をするのを、誰も咎めないままだ。
役人の上の方は全員貴族なんだろう?」
「ああ。殆ど貴族か王族の親戚だ。」
「俺はそれに納得がいかないんだ。」
「確かにそれはそうだが……。
ああ、なあ、ジョージ、その店では、お前の料理も出すのか?」
「ああ、そのつもりだが。」
「なるほど……それならなんとかなるかも知れないな。」
「どういうことだ?」
「ジョージ、俺は、とある人に会いに行こうと思ってるんだが、手土産になるような簡単なものを作ってくれないか?
酒のツマミになるようなものがいい。」
「別に構わんが、どうするつもりだ?」
「なあに、お前たちの店にとって、いい話をしにいくのに使うのさ。」
「?」
俺はロンメルとともに俺の家に戻った。
「すぐに作れるものってなると、限られてくるぞ?」
「構わんさ。」
俺は鶏むね肉、とろけるチーズ、納豆、ミックスナッツをだし、料理酒、砂糖、醤油、みりん、白炒りごま、七味唐辛子、片栗粉、薄力粉、サラダ油、ごま油、鶏肉を叩く用の麺棒を準備した。
鶏むね肉の皮と、余分な白い油の部分を取り除き、鶏むね肉にラップを被せて麺棒で叩いて厚みを均一にし、1枚を8つに分けて、ボウルに料理酒とみりんと砂糖を小さじ1、醤油を大さじ半分入れて揉み込み、5分置いておく。
その間に、納豆2パックを付属のタレと混ぜ合わせたあと、納豆1パックに対して、白炒りごまを小さじ1ふりかけ、七味唐辛子をひとつまみ程度入れたものと、そうでないものに分けた。
薄力粉大さじ1を、納豆全体にまぶすようにかけ、中火に熱したフライパンにごま油を大さじ1しいて、焦げ目が付きはじめたら、箸で切るようにさっくりと混ぜていく。
ミックスナッツを追加して5分程炒めて、納豆をカリカリにしてやる。
これを七味唐辛子を入れたものと、そうでないもの、それぞれにおこなったら、ポリポリかじれる、おつまみミックス納豆の出来上がりだ。子どものおやつにも出来る。
相手の好みが分からないので、少し辛いのと、そうでないものを作ってみた。
小さいフライパンに、深さ1センチの油を入れて180度に熱し、つけておいた鶏むね肉にとろけるチーズを乗せて肉で包んだら、片栗粉をまぶして揚げ焼きにしていく。
全体がきつね色になったら、鶏むね肉の一口チーズボール唐揚げの完成だ。
鶏肉が柔らかくて包みにくかったら、冷蔵庫で少し冷やすと包みやすくなる。
俺は出来上がったものを皿に乗せ、ふきんを被せて籠に入れてロンメルに渡した。
「まあ、悪いようにはしないから、楽しみにしとけよ。」
ロンメルは妙に自信のある顔で、俺に笑って言いながら片目を閉じた。
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