「まだ信じられなくて、片付けられないでいたの。未練がましく毎日掃除して。
でも、ジョージが使うなら、兄もきっと喜んでくれるわ。」
「アシュリーさん……。」
そんなことがあったのに、彼女は人間に優しかった。どんな気持ちで接していてくれたのだろうか。
「……ねえ、ジョージ。」
部屋を立ち去りながら、アシュリーさんが背中で俺に聞いてくる。
「うん?」
「私たち、きっと人間と手を取り合えるわよね。兄のような死に方をする人は、きっともうあらわれなくなるわよね。」
アシュリーさんの声は涙で震えていた。
俺はなんとなく、カイアを抱いて眠った。
次の日みんなに見送られながら、俺は馬車で町へと戻り、すぐさまヴァッシュさんの工房へと向かった。
「おお、ジョージじゃないか!」
工房の入り口でロンメルに出くわした。
「家庭用食器洗浄機の様子を見に来てくれたのか?」
「いや、今日は別件なんだ。」
「別件?」
話しながら2人揃って工房の中へと入る。
カウンターにいたいつもの職人が、ヴァッシュさんを奥に呼びに行った。
「おお、ジョージにロンメルさんか。すまんな、まだ改良に時間がかかっとる。」
「そうでしたか。気が早すぎたかな。」
「今日は、俺は別件で来たんです。
魔道具を作っていただきたくて。」
「魔道具?」
ヴァッシュさんが首をかしげる。
「魔宝石を、魔道具に組み込まれたことはありますか?」
「あるにはあるぞ。
なんだ、何を作りたいんだ?」
「敵を感知する魔宝石に連動させて、ゴーレムの出る魔法石を反応させる魔道具を作りたいと思っています。」
「2つの魔宝石を連動!?
そりゃ無理だジョージ。
魔石を連動させるのとはわけが違う。」
「どう違うんですか?」
「魔道具はそもそも、魔石を発動させる為に作られているもので、魔石単体では動かないから存在するものだ。
だが、魔宝石はそれ単体で発動する仕組みだから、魔石を発動させる仕組みに魔法石が反応せんのだよ。」
「ですが、あるにはあるんですよね?」
「ひとつならな。魔宝石の発動の仕組みは、衝撃を与えるか、それに触れて念じるかの2つに分かれる。
魔宝石に衝撃を与える役割を、魔石に担わせたものなら存在する。時間が来たら爆発するようにな。」
ようするに、魔宝石の時限爆弾か。
「だが、魔宝石同士の連動は出来ん。
片方の魔法石の発動結果に、別の魔宝石を連動させて発動させるような仕組みは、どの工房でも持っとらんよ。
それが出来たら革命だ。」
そんな……。
「師匠、私、やってみたいです。」
そこにミスティさんが顔を出す。
「魔宝石の連動は、ずっと研究してみたいと思ってたんです。やらせてもらえませんか?もちろん、食器洗浄機の改良も忘れずにすすめますので。」
「しかしな……。」
「なんとかお願いします。
研究費用は出しますので。
コボルトの集落を守れるかどうかが、それにかかってるんです。」
「コボルトの集落?」
俺はこれからやろうとしていることを、ヴァッシュさんに説明した。
「そんな事情があったのか……。
わかった。そういうことなら、やってみよう。だが、ミスティ、本来の仕事に加えてそいつをすすめるとなると、時間が足らんのじゃないか?」
「私のつくった魔道具で、誰かを守れるのなら、寝る時間なんて惜しくないです。
絶対成功させてみせます。」
「睡眠は取ってくださいね……。」
不眠不休でやりとげそうな勢いのミスティさんに、俺は心配になって告げる。
「またしばらくしたらいらして下さい。
結果を報告しますので。」
「分かりました、どうか、よろしくおねがいします。」
お礼を言って工房を出た俺に、ロンメルが声をかけて引き止めてくる。
「なあ、ジョージ、ひょっとして、俺の食器洗浄機も、開発費用が本当ならかかるんじゃないのか?」
するどいな。
「まあ……そこはいいじゃないか。」
「よくないさ。お前がたてかえてくれてるんだろう?」
「開発出来て売りに出せば、別に元は取れるんだ、心配するなよ。」
ロンメルは何やら思案していた。
「町にコボルトの店を出すと言ったな、ジョージ。」
「ああ、そのつもりだ。」
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