ルバは甘く、ミシミアは酸味があり、それぞれで食べても美味しいのだが、口に同時に入れた時の化学変化が驚きを与えてくれる。
「ジョージのスープも美味しいわ!
作り方も材料も似てるのに、こんなにも違うのね!それにお腹にたまるわ。」
みんな美味しい美味しいと言って食べてくれる。子どもたちも嬉しそうだ。
キュプラスープは味付けが塩コショウなのに、ほんのり甘いのが驚きだった。例えるなら、りんごとひよこ豆と豆乳をミキサーにかけた感じだ。
おそらくベーコン(ラカン)とソーセージ(テッセ)から出る旨味が、ブイヨンの代わりになっているのだろう。
ひとしきり食べ終わると、アシュリーさんが立ち上がる。
「ねえみんな、さっき私とジョージから話があると言ったわね?聞いてくれるかしら?
とてもいい提案よ、私たちコボルトにとっての。」
みんなが一斉に立ち上がったアシュリーさんを見つめた。
「──お店を出そうと思うわ。
人間の町に。」
アシュリーさんの言葉に、集落の人達がざわつきだす。
気にしないでいるのは子どもたちと、俺の膝の上で、俺から小さく切って貰ったペシルミアを、フォークで食べさせて貰っているカイアくらいだ。
「私たちには素晴らしい文化がある。
だけど、私たちが知的で文化的な存在であるということを、町の人間たちはまだ知らないの。
だから迫害を受けることもあるし、泥棒が入っても、未だに役人が犯罪者の味方をすることすらあるわ。」
みんな目線を落とす。
「ジョージは言ってくれたわ。
私たちの文化は素晴らしいと。
これを広める手助けがしたいのだと。」
「お金は……どうするんだ?
俺たちはその日暮らしだ。」
コボルトの男性から声が上がる。
「それは私が出させていただきます。
援助という形になりますが、商売が軌道にのったら、権利を販売する形でお譲りしても構いません。
借金という形にするよりもいいかと。
販売価格を取り決めて、事前に契約書にかわしておけば、店の価値が上がっても、変わらない金額で皆さんにお譲りすることをお約束出来ます。」
「何を売るつもりなんだ?」
コボルトの老人から声が上がる。
「ここで取れるお茶、ここで作られる食器、コボルトの料理、精霊魔法のかかった魔宝石の予定です。
店が軌道に乗ったら、集落で採れるものの価値に気付いた人間から、狙われる可能性がありますので、店を始める前に集落を守る為の方法も検討したいと思っています。」
「例えばどんな方法かね?」
オンスリーさんが尋ねる。
「精霊魔法の中には、敵を感知する為の魔法があると、アシュリーさんから教えていただきました。
魔宝石に込めた感知魔法と、ゴーレムの魔宝石を連動させ、外敵が来たら発動するようにさせる魔道具をしかけるつもりです。
また、集落と、お茶の原料などの収穫出来る場所を、大きく柵で囲います。」
「……人間の町に行ったりなんかしたら、人間に石を投げられたりしないかしら。」
子どもを抱いた母親から声が上がる。
「従業員の方が集落からいらしていただける場合は、移動専用の馬車を雇うつもりです。
人間の従業員と護衛の冒険者も雇います。
はじめは偏見があるかも知れません。
ですが、それを改善する為の挑戦です。」
シン……とする。
「俺は……やってみたい。」
コボルトの若者が立ち上がる。
「決して多くはないかもしれない。
だけど、アスターさんやジョージさんみたいな人間もいる。
そういう人たちが、向こうからこちらに来てくれるのを待つんじゃなく、自分たちから仲良くなりに行きたいんだ。」
「俺も……。」
「俺もだ。」
「私も!」
次々に若者が立ち上がる。
「お前たち……。」
老人たちは困ったように、コボルトの若者たちを見上げている。
「……試してみようじゃないか。
未来は若者のものだ。ずっと閉塞的な暮らしをするよりも、外に出ることを好むものも多い。
ならば今こそ門扉を開く時かも知れん。」
「オンスリーさん、あんた……。」
他の老人たちが、驚いてオンスリーさんを見上げる。
「じっくり準備に時間をかけましょう、店の場所、従業員をどうするか。集落の防衛も先にすすめたほうがいいですし。
俺に出来ることはさせていただきます。」
「さあ、忙しくなるわね!」
アシュリーさんは嬉しそうに微笑んだ。
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