目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第32話 ペシルミア(コボルト風ハワイアンハムステーキ)エルテンスープ(グリーンピースとベーコンとソーセージのスープ)③

 ルバは甘く、ミシミアは酸味があり、それぞれで食べても美味しいのだが、口に同時に入れた時の化学変化が驚きを与えてくれる。

「ジョージのスープも美味しいわ!

 作り方も材料も似てるのに、こんなにも違うのね!それにお腹にたまるわ。」

 みんな美味しい美味しいと言って食べてくれる。子どもたちも嬉しそうだ。


 キュプラスープは味付けが塩コショウなのに、ほんのり甘いのが驚きだった。例えるなら、りんごとひよこ豆と豆乳をミキサーにかけた感じだ。

 おそらくベーコン(ラカン)とソーセージ(テッセ)から出る旨味が、ブイヨンの代わりになっているのだろう。


 ひとしきり食べ終わると、アシュリーさんが立ち上がる。

「ねえみんな、さっき私とジョージから話があると言ったわね?聞いてくれるかしら?

 とてもいい提案よ、私たちコボルトにとっての。」

 みんなが一斉に立ち上がったアシュリーさんを見つめた。


「──お店を出そうと思うわ。

 人間の町に。」

 アシュリーさんの言葉に、集落の人達がざわつきだす。

 気にしないでいるのは子どもたちと、俺の膝の上で、俺から小さく切って貰ったペシルミアを、フォークで食べさせて貰っているカイアくらいだ。


「私たちには素晴らしい文化がある。

 だけど、私たちが知的で文化的な存在であるということを、町の人間たちはまだ知らないの。

 だから迫害を受けることもあるし、泥棒が入っても、未だに役人が犯罪者の味方をすることすらあるわ。」


 みんな目線を落とす。

「ジョージは言ってくれたわ。

 私たちの文化は素晴らしいと。

 これを広める手助けがしたいのだと。」

「お金は……どうするんだ?

 俺たちはその日暮らしだ。」

 コボルトの男性から声が上がる。


「それは私が出させていただきます。

 援助という形になりますが、商売が軌道にのったら、権利を販売する形でお譲りしても構いません。

 借金という形にするよりもいいかと。

 販売価格を取り決めて、事前に契約書にかわしておけば、店の価値が上がっても、変わらない金額で皆さんにお譲りすることをお約束出来ます。」


「何を売るつもりなんだ?」

 コボルトの老人から声が上がる。

「ここで取れるお茶、ここで作られる食器、コボルトの料理、精霊魔法のかかった魔宝石の予定です。

 店が軌道に乗ったら、集落で採れるものの価値に気付いた人間から、狙われる可能性がありますので、店を始める前に集落を守る為の方法も検討したいと思っています。」


「例えばどんな方法かね?」

 オンスリーさんが尋ねる。

「精霊魔法の中には、敵を感知する為の魔法があると、アシュリーさんから教えていただきました。

 魔宝石に込めた感知魔法と、ゴーレムの魔宝石を連動させ、外敵が来たら発動するようにさせる魔道具をしかけるつもりです。

 また、集落と、お茶の原料などの収穫出来る場所を、大きく柵で囲います。」


「……人間の町に行ったりなんかしたら、人間に石を投げられたりしないかしら。」

 子どもを抱いた母親から声が上がる。

「従業員の方が集落からいらしていただける場合は、移動専用の馬車を雇うつもりです。

 人間の従業員と護衛の冒険者も雇います。

 はじめは偏見があるかも知れません。

 ですが、それを改善する為の挑戦です。」


 シン……とする。

「俺は……やってみたい。」

 コボルトの若者が立ち上がる。

「決して多くはないかもしれない。

 だけど、アスターさんやジョージさんみたいな人間もいる。

 そういう人たちが、向こうからこちらに来てくれるのを待つんじゃなく、自分たちから仲良くなりに行きたいんだ。」


「俺も……。」

「俺もだ。」

「私も!」

 次々に若者が立ち上がる。

「お前たち……。」

 老人たちは困ったように、コボルトの若者たちを見上げている。


「……試してみようじゃないか。

 未来は若者のものだ。ずっと閉塞的な暮らしをするよりも、外に出ることを好むものも多い。

 ならば今こそ門扉を開く時かも知れん。」


「オンスリーさん、あんた……。」

 他の老人たちが、驚いてオンスリーさんを見上げる。

「じっくり準備に時間をかけましょう、店の場所、従業員をどうするか。集落の防衛も先にすすめたほうがいいですし。

 俺に出来ることはさせていただきます。」

「さあ、忙しくなるわね!」

 アシュリーさんは嬉しそうに微笑んだ。


────────────────────


少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?